第43話 性欲もとい愛です! 愛しております!

「待ってください!」


 クローディアがおれのもとに飛び込んできた。


「どちらへ行かれるつもりですか、アラン様!?」


 なにも伝えていないはずなのに、確信を持ってクローディアは言った。


「まいったな。お見通しか……」


「それくらいわかります。今のは、お別れの言葉にしか聞こえませんでしたもの。わたくしたちを、置いて行くおつもりなのですか!?」


「……追われるのは、おれだけで充分だからね。みんなが一緒にいると巻き込まれて危ないかもしれないし……なにより、おれが狂っちゃったとき、真っ先に襲ってしまうかもしれない。おれの弱点を知ってる人は、追う側にいてくれないと」


「危険なんて承知の上です! アラン様は、わたくしをお嫁さんにしたいと仰ってくださいました。わたくしも同じ気持ちです! 夫婦とは、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも――どんなときでも一緒に支え合うものでしょう!?」


 エメラルドの瞳で見つめてくる。


「それで、もしあなたに襲われるなら、本望ですもの……」


「クローディア……」


「わたくし、ずっと考えていたのです。悪魔に襲われて、でもその誘惑を跳ね除けきれずに好き放題にされてしまう聖女プレイもありだと……」


「……ん?」


「それがリアルで叶うというのに、いなくなってしまうなんて嫌ですぅ!」


「こんなときくらいスケベな理由は封印できないの!? 考えてたっていうか性欲バリバリの妄想だよね!?」


「性欲もとい愛です! 愛しております、アラン様!」


「うわあ、嬉しいけどなんか釈然としない告白だぁ……」


「あなたは? アラン様、言葉にして仰ってくださいませ」


「……好きだよ。愛してる、クローディア」


「ありがとうございます……。では、連れて行ってくださいますね?」


「それとこれとは話が違うよ。好きだから傷つけたくないし、危険から遠ざけたいんだ! わかってくれよ!」


「いいえ、わかりません! わたくし、アラン様がご自分を犠牲に世界を平和にすることには頷きましたが、アラン様が孤独に苦しむことだけは認められません!」


「心配いらないよ、おれはひとりでも平気だから!」


「そんなわけありません! あなたの、あの溢れる情欲をひとりで抱え込めるわけがありません! 一日に何回ひとり遊びをするおつもりですか!? 寂しさと虚しさに押し潰されますわよ!」


「す、するかぁ! 相手がいないなら我慢するよ! というか、変なところ心配するのやめてよ!」


「そうして欲しいのなら、わたくしを連れて行ってくださいませ!」


 言い合うおれたちを、仲間たちは苦笑気味に眺めていた。


「痴話喧嘩は犬も食わぬと言いますが……」


 そう言うカナデの頭に、ぴょんとウォルが乗っかる。


「まー、実際あれはあたいでも食えねーなー」


「おふたりらしいですがね」


 呆れたような、しかしもう慣れたというような様子だ。


 そうこうしているうちに、倒れていたセシルが薄っすらと目を開ける。


「う……っ、アラン……?」


「おっと、セシルが起きちまう! また面倒なこと言われる前に、おれは退散するよ!」


 痴話喧嘩を強引に打ち切り、おれはクローディアから離れる。


「お待ち下さい、アラン様!」


「ごめん、クローディア。セシルにも、よろしく言っておいてくれ!」


「アラン様ぁあ~!」


 ぱちん、と指を弾き、おれは適当な場所へと瞬間移動する。


 急に静かになって、不意に寂しさを感じてしまう。


 やれやれ……。シリアスにお別れしたかったけど、上手く行かなかったなぁ……。


 でも、それ以外は上手くいった。


 きっと、これから世界は上手くいく。


予定システム』で犠牲が作られることもなく、人間と魔族が争うこともなく、本当に平和になる。みんなが、そうしてくれるはずだ。


 そのためなら、寂しくても平気だ。


 世界に追われ、孤独に生きたって構わない。


 魂への飢えだって、きっと耐えてみせる。


 ――そう思っていたんだけどな……。




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次回、魂への飢えに苦しむアランの元に現れた者とは……!?

『第44話 君がいなきゃ生きていけないみたいだ』

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