第37話 おれが悪魔の力を手に入れよう
その場にいる、おれのパーティ以外の全員が衝撃を受けたようにおれに目を向けた。
「アラン、冗談はやめろ! 大悪魔の危険性は教えたはずだ! お前もよく理解していただろう!」
ランドルフが声を荒げつつ接近してくる。
カナデが前に出て、その進行を阻む。
クローディアとウォルも、おれを守るように前に出てくれる。
ランドルフは足を止めて緊張に顔をこわばらせた。
「お前たち……」
おれはゆっくりと語りかける。
「なあランドルフ、『
「そうだ」
「なら、双方にとっての脅威になる外敵がいるなら、人間と魔族が争う必要はなくなる。手を取り合って、共通の敵に当たれるはずだ」
「バカモノ! それを大悪魔にさせようというのか!? 脅威のレベルが違う! そんなものを相手にしては人間も魔族も滅ぼされるぞ! 犠牲の数は、『
「大悪魔を上手く利用できれば問題ないだろう」
「できるわけがない」
「そいつは契約次第のはずだ」
「誰もがそう言って失敗してきたがゆえに過去の災厄があるのだ!」
「本当に失敗するかは試してみなきゃわからない」
「くっ、ダメだ。やつは本当にやる。セシル、シンシア! やつを止めるぞ!」
ランドルフに応じて、セシルとシンシアが戦闘態勢で並び立つ。
おれはそのふたりに向けて、大きく声を張り上げて訴える。
「待て、セシル、シンシア! お前たちは、このままで本当にいいのか!? このまま誰かを犠牲にしながら生きていくのか!? 大事な人を犠牲にする予定を飲み込んで、幸せに生きられるのか!? リュークだって犠牲にされるんだぞ!」
ぎくり、とシンシアが怯んだ。リュークに目を向けて、ひどくうろたえた様子で一歩、ニ歩と退く。
「なあセシル、お前だって、なにも知らない誰かを犠牲にするような今の『
おれの言葉に、セシルは構えを解いてくれる。
「セシル、シンシア!? なにをしている!?」
ランドルフの声に、ふたりは動かない。
「……詳しく聞かせてくれないか、アラン。ランドルフも、アランの考えを聞いてから判断しても遅くないんじゃないか」
「無駄だと思うがな」
とは言うが、セシルに肩を叩かれ、構えていた杖を下ろす。
「それで、大悪魔をどうするんだい?」
セシルに促され、おれは先にクローディアたちに話した計画を口にする。
「ああ、大悪魔そのものを脅威として使うのは危険すぎるってのはおれも同意見だ。だから、契約によっておれが悪魔の力を手に入れようと思っている」
「君が、悪魔になるっていうのか!?」
「そうだ。上手く力を制御しながら、人間や魔族に被害を与えて共通の脅威として活動し続けるんだ。もちろん犠牲者を出すつもりはないが……脅威を演出するために、本物の悪党を退治するくらいはしてもいいかもな」
「バカげている!」
ランドルフがまた声を荒げた。
「仮に……仮にだぞ! 仮に上手くいってお前が悪魔になったとして、今のお前の意思がどれだけ維持できるというのだ!? 力に溺れて、本物の脅威とならない保証がどこにある!? お前ひとりの心に、世界の命運をかけられると思うのか!?」
「いいぞ、ランドルフ。そうやって疑ってくれ。恐れてくれ。世界中のみんながそう思ってくれれば、おれの計画は成功する。共通の敵に対抗するために、人間と魔族は仲良く手を取り合うさ」
「話を逸らすな! お前が本物の脅威となったら、どうするのだと聞いているのだ!」
「契約のときに弱点を作らせるよ。もしそのときが来たら、殺してくれ」
「……覚悟はできているというのか。しかし、そもそも契約が上手くいくかが問題だ。どう切り抜けるというのだ」
「大悪魔の手口は契約の文言に反さずに、契約者の意図と違う解釈で実行するやり方だ。言ってみれば悪質な詐欺だ。なら違う解釈のできないよう、ガチガチの契約書を作って縛ってしまえばいい」
それを聞いて、シンシアは小さくため息をついた。
「ダーティアランとも呼ばれた貴方なら、逆に悪魔を騙してしまうこともできそうな気がしますね……」
「そうかもな」
「……リュークくんが犠牲にならない世の中を作るというのなら……私は信じてみたいところですが……」
シンシアは引き下がってくれたが、セシルは違った。おれに真剣な目を向けている。
「でもアラン、君は人生を失ってしまうよ。犠牲を出させないために、自分を犠牲にする……。立派だよ。そんな選択、やっぱりぼくにはできない……。君はすごいやつだ、本当に」
そして悲しみにも似た怒りを見せた。
「だけど! そんなことさせられない! 成功するかも危ういけど、それ以前に! 君を犠牲になんてできない! ぼくたちは犠牲になる人を救おうとしてきたじゃないか! 君は自分を犠牲にするならいいと思ってるんだろうけど、ぼくにとっては目の前で犠牲になる人を救えなかったことになる! そんなの……許せるわけないだろ!」
「そうだな。お前ならきっとそう言うよな。おれが同じ立場なら、きっと止めるだろうしな……」
「ランドルフ、やろう。アランを止めるんだ!」
「よくぞ言った、勇者セシル!」
セシルは剣を抜いて突っ込んでくる。おれは一足飛びに後退して距離を取る。代わりにウォルがセシルにぶつかっていく。同時にクローディアが強化魔法を発動させてくれる。
ランドルフも膨大な魔力を解放し、強力な魔法を放とうとする。その正面に、カナデが躍り出る。
魔法が発動し、灼熱の炎が矢となって放たれる。
「見切ったっ!」
カナデの刀が縦一文字に振るわれた。抜刀の瞬間が目視できないほどの速度だった。
炎の矢は両断されて、空中で霧散する。
ランドルフは目を見張った。
「バカな……。斬ったのか、わしの魔法を」
にやり、とカナデが頬を緩ませる。
「赤心一刀流、カナデ・タチバナ。いざ尋常に、勝負ッ!」
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※
次回、カナデVSランドルフ! 勝負の行方は!?
『第38話 もはや我が剣に、魔法は通じませぬ!』
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