第30話 割とガチの誘拐犯の思考なので引いています
「一緒に……?」
リュークは瞳をうるうるさせつつ、おれを見上げる。
「そう。ゼバスと一緒なんて嫌だろう? でもおれたちも、やることがあるから泊まり続けることもできない。だったらリュークが、この屋敷を出ていけばいいんだ」
「で、でもボク、パパにしっかり留守番するように言われてて」
「おれたちが出てったら、すぐゼバスとふたりきりでお話しなきゃいけないんだろう? パパは間に合わない。助けてくれないぞ」
「うぅう~」
リュークは顔を歪ませて悩む。
さあ、次はエサをチラつかせよう。
「おれたちと一緒に来れば、『勇者』に会えるかもな。さっき会ってみたいって言ってたよな」
「言ったけどぉ」
「それと忘れてるかもしれないが、『勇者』パーティには、紹介するって約束した聖女がいる」
「行く」
怯えや悩みはどこへやら。リュークはクローディアから離れ、おれに体を向けて言った。短い単語に非常に強い意志を感じる。
「よし、決まりだな」
そこに、つんつんと肩を指で突っつかれる。
「あの~、アラン様? これって誘拐では……?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「犯罪では」
「あはは、へーきへーき。リュークも望んでるわけだし、罪にはならないよ」
「あの、一応、本人が望む望まぬとも、保護者の元から無断で連れ去った時点で誘拐罪は成立するのですが……」
「おれたち人間の法が、魔族に適応されるとは思えないなー」
「だとしてきっと魔族の法には触れますわっ。たとえ触れなくても、魔王のお子さんを連れ去るのですから、魔王軍に追われることになってしまいます!」
クローディアは次第にわたわたと慌てていく。なんでだろう?
「守るって目的のためなら、どんなことでも覚悟の上だよ?」
「アラン様……。そのお心がけはご立派なのですが……」
かくん、と項垂れるクローディア。ちなみにカナデは、追われるのはむしろ望むところだとばかりに、うんうんと頷いている。ウォルも「まー、追っ手なんてぶっ殺せばいいし」と賛成の構えだ。
それにリュークも、キラキラと目を輝かせている。
「アラン……。会ったばかりのボクをそこまで……」
反対しているのはクローディアだけだ。本当になんでだろ?
「でも、ボクのために迷惑かけちゃうのは、やっぱり悪いよ……」
「迷惑なんて思ってないさ。むしろ、色々助けてもらえると思ってる」
リュークは可愛らしく小首をかしげる。
「そうなの?」
「ああ、たとえば魔王軍の追っ手なんかは、リュークを人質にして切り抜けることができそうだし、なんならリュークの無事と引き換えに物資を譲ってもらうこともできるかもしれない」
「ん?」
「遺跡とか立入禁止区域にもリュークがいれば入れるかもしれないし、ブルースを探すにも役に立ってもらえそうだ。おれたちは顔を知らないからな。リュークはブルースの顔、よく知ってるだろ?」
「うん、まあ、知ってるけど……。アラン、ボク、本音と建前は、本音のほうは隠すべきだと思う」
「建前なんかない、どっちも本音だぞ。安心しろ、本気で人質にしたりなんかしない。ただのハッタリに使うだけだからさ」
「爽やかに言われても、もう犯罪者にしか見えなくなってきちゃったよ……」
リュークは困ったように苦笑い。カナデやウォルも、それはそう、と頷いている。
「そうですわよね、わたくしの感覚おかしくないですよね?」
クローディアも、なぜかホッとしている。
「えーっと、もしかして褒めてる?」
「いえ、引いています。割とガチの誘拐犯の思考なので」
「えぇ……リュークを助けたり、聖女に会わせてあげたいって気持ちは本当なのに」
「だから厄介なのです……」
クローディアのついたため息に、同意するようにリュークは頭を抱える。
「うーん、どうしよう」
そうして数分ほど悩んだ末に、結論を出したようだ。
「でも……うん、やっぱりボク行くよ。屋敷にいたくないっていうのもあるけど、ボクもブルースにはまた会いたいし……その、もうひとりの聖女様とも、仲良くなりたいし……えへっ」
最後のはにかみの笑みが、素直で可愛らしい。
「今度こそ決まりだな。よし、さっそく行動開始だ」
おれたちはまず、ゼバスに今日は泊まっていくと伝えた。そうして油断させたところ、すぐにリュークの部屋の窓から外へ。
クローディアの不可視化魔法でリュークの姿を消しつつ、おれの潜入技術の応用で警備の目を盗み、まんまと脱出に成功したのであった。
「ああ、神よ……お許しください……」
後に、クローディアは誘拐の片棒を担いだことを神に懺悔していた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
※
次回、一方その頃のセシルたち。セシルは、ランドルフの不審な行動を問い詰めますが……。
『第31話 番外編③ 怒る勇者、真実を知る』
ご期待いただけておりましたら、ぜひぜひ★★★評価と作品フォローで応援くださいませ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます