第27話 共存と繁栄のために、戦争を続けている
「何百年も戦争を続けてるのに、共存も繁栄もないだろう」
「なにも知らなければ、そう思うのも仕方ありません。しかし本当なのです。逆に考えてください。共存と繁栄のために、戦争を続けているのだと」
ゼバスの様子に不自然な点はない。これで嘘を言っていたなら、おれ以上のペテン師だが……。
ふと、モステルの街でランドルフが言っていたことを思い出す。
「
「それはご存知なのですね。似ているのではありません、まさに直結する話なのです」
「……魔族側も人間とは相容れないとしているらしいが、それは……」
「はい。
「やはり人間と同じか。でも、戦争の結果どちらかが滅びたら……いや、そうか。そのための『予定』なのか」
「お察しの通りです。互いに敵であり続けたい。しかし致命的な被害も受けたくない。そのためには、計画的に戦争をコントロールしなければなりません」
「それを人間と魔王軍で決めている……」
「いつ、どこで、どの程度の規模で戦うか、どの程度の領地を奪うか、奪い返すか。敵であり続けるため、ときに敗北させ憎悪や復讐心を煽り、ときに勝利させて溜飲を下げさせる。そうしてパワーバランスを保tって戦い続けることで、人間と魔族は共存し、繁栄しているのです」
「おれやセシルの旅も、戦いも……始めから予定に組み込まれていたのか?」
「まさか。すべてを制御できるわけがありません。予定にない、義憤によって戦い始め、成果を上げる方々もいらっしゃいます。セシル様のように。そういった方々は、人間なら『勇者』として、魔族や
意外ではあったが、納得もあった。
いくらセシルとおれが実績を上げていたとしても、急にランドルフのような偉大な魔法使いが仲間に加わったり、教会直々に聖女シンシアを派遣したりなんて、大袈裟すぎる。
それだけ期待されているのだと当時は浮かれていたが、むしろ彼らは教会から付けられた首輪だったと考えたほうが自然だ。
シンシアは事情を知らなかったようだが、教会の意向に従って、おれやセシルを誘導するという意味では間違ってはいないだろう。実際、彼女の影響でセシルはおかしくなりかけていた。
だがおれは『勇者』パーティから追放された。単独では『予定』を覆すほどの力はないと思われていたのだろうが、現実は違った。
どおりで追われる身になったわけだ。『予定』の遂行に、おれは邪魔なのだ。
そしてその追手に『勇者』を使うのも納得がいく。もともと、ベルクやウェルシャとの戦いで果てるはずの者だったのだ。本来、役目を終えている者だから、こんなつまらない役にも使える。
「……なるほど、な。互いに同胞で潰し合わないために、許容できる被害を与え合っているわけか」
「ご納得いただけましたか」
「できるわけないだろう! 国や世界からすれば小さな被害かもしれないがな、どんなに小さな村だろうと、たったひとりの命であろうと、失った側からすれば全てなんだ。世界そのものなんだよ! それを計画的に、殺してる。こんなこと許されていいはずがない!」
「しかし、これ以上のシステムはありません。そうしなければ、より大きな被害が出るのです。小さな犠牲でそれを防げるなら……」
「お前はリュークのことも、小さな犠牲と言うのか。あんな純粋で、人懐っこくて、聖女に性癖を壊された、ちょっと変態混じってる美少年を!」
「それは……長年かけて覚悟を――ん? 今なんと?」
ゼバスがぽかんと目を丸くする。
口が滑った。こほんと咳払い。
「純粋で、人懐っこい美少年」
「いえ、まだありましたでしょう? 聖女が、どうとか」
「リュークは人間の聖女様がお好みらしい。お嫁さんにしたいとか」
「なんですかそれは。存じ上げないのですが」
「それは本人に……いや、保護者に性癖聞かれるのはさすがにきついか……。忘れろ。さもなくばリュークを爆破する」
「支離滅裂なことを仰っておりませんか!?」
「どっちにしろ、性癖を問い詰めるようなことをしたらリュークは羞恥心で悶え死ぬぞ、それでもいいのか!? 『予定』が狂うぞ!?」
「いやそれは困りますが……う、うぅん? 教育失敗か……?」
ゼバスはナイフを突きつけられていることも忘れて考え込んでしまう。
「いやそれはいいから。話を戻すぞ。あんたは、これ以上のシステムはないと言うが、おれにはそうは思えない」
「犠牲が出るからですか。大を生かすには、やむを得ない小さな犠牲です」
「犠牲の話だけじゃない。予定を覆すのは、なにも知らない個人だけじゃないだろう。このシステムに関わりつつ、予定を無視して自分の勢力を有利にしようとするやつが出てこないとも限らないはずだ。人間にも、魔族にも」
「それはありえません。もし一方が有利になりすぎれば、敵が敵として機能しません。まとまりを失い、同胞同士の争いが生まれるでしょう。予定を組む聡明な方々が、そのような本末転倒なことをするはずがありません」
「どうかな。世代を重ねれば、善意の初志も消え失せ、聡明さも失われるというのはよく聞く話だ。特に、おれたちみたいに、同胞で潰し合う悲惨さをを知らない世代が、予定を組む側に加わっていたらどうなる……?」
「…………」
ゼバスは押し黙ってしまう。
「即答できないってことは、心当たりがあるんじゃないか?」
こちらから目を逸らす。その仕草は、YESだろう。
「言え」
「知ってどうするのです。その者と共に、『
「壊しはしない。小さな犠牲は見過ごせないが……より大きな被害を防ぐというのには納得している。代案がない以上、今はそれが最善なのは、間違いない……。だから、それを壊そうとする者がいるのなら、おれの敵でもある。『
「『
「口惜しいが、代案が見つかるまでは、今できる最善をするしかないからな」
「それならば、お話しましょう。『
ゼバスはつらそうに目を細めた。
「――それはリューク様の兄君……現魔王の長男なのです」
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※
次回、色々な事情を知ったアランはゼバスを解放するのですが、ふたりでトイレから出てきたところを見られ、勘違いに発展し……。
『第28話 男の人と、トイレで、ふたりきりでなんて……!』
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