第25話 おれたちは、倒されている予定だった?

「リュークは50年後に勇者と戦うなのか?」


「うん……。すっごく嫌だけど」


 リュークは本当に嫌そうに顔を曇らせる。


「その後は?」


「その後は、ボクにはもう関係ないからって教えてくれないんだ」


「勇者と戦ったあとは、関係ない……?」


「お屋敷から出て好きにしていいってことなのかなぁ? だったらボク、人間の国へ行って、お友達いっぱい作って、お、お嫁さんとかも見つけられたらいいなぁ……」


 頬を赤らめながら、上目遣いでクローディアを見るリュークである。


 クローディアは微笑みを返す。リュークはまたふにゃふにゃの笑顔になる。


 マセガキめ、クローディアは渡さないぞ。まあ、50年後にはさすがにお嫁さんという年齢じゃないだろうけれど……。


 いや、それはともかく……。


 おそらく、リュークの想像は間違いだ。勇者と戦った後の予定が彼に関係ないというのは、きっと、勇者に倒されるからだ。リュークの死すらされているということだ。


「予定を決めに来るのは、ラーゼアス教の人間って言ってたな?」


「うん、あとパパとか、魔王軍の偉い人とかも」


「人間と魔王軍が一緒に? 他にはどんな予定を決めてるんだ?」


「う~んとね、ボクにはまだ早いって、あんまり教えてくれないんだけど……今の『勇者』の予定なら知ってるよ! 魔王軍幹部のベルクと戦って、負けちゃうんだって。あれ? ウェルシャのほうだったかな?」


 なんだと? おれたちは、倒されている予定だった?


 ベルクは、まだおれが『勇者』パーティにいた頃に戦った魔王軍幹部だ。遥か格上の、恐ろしい強敵だった。あの力の差なら、誰もが勝ち目はないと思っただろう。


 だが、おれたちは勝った。おれが人質を利用して仕留めたのだ。それが卑怯だと非難されたのが、おれが追放されることになったきっかけだ。


「……そのふたりは、どっちも倒されたよ。ベルクは『勇者』パーティに、ウェルシャは他のやつに」


「そうなの? あっ、じゃあこの前、ラーゼアスの人が慌てて来たのは、そのせいだったのかな。パパもすっごく怒ってた。作り直しだって。でも、すごいよね! 今まで予定が狂うことなんてなかったのに。50年後の勇者もいいけど、ボク、今の『勇者』にも会ってみたいなあ」


「……今の『勇者』なら、おれの友達だよ」


「本当!? じゃあ会える? ここに呼べる!?」


「そのうち、機会があったらな。でもそうしたら、また予定が狂うんじゃないか? 『勇者』の予定はどう作り直されたんだ?」


「ごめん、パパたち忙しかったみたいで、教えてもらえてないんだ」


「そうか……。そのパパは今どうしてるんだ?」


「お仕事に行ってるよ。いつ帰ってくるかわかんない」


 なら、そのパパとやらに聞くのは難しいな。今この屋敷にいる、事情を知っていそうなやつに聞いてみるか。


 思い浮かんだのは、ゼバスという執事だ。おれたちの来訪に、「予定になかったもので」と驚いていた。


 予定。


 その単語を口にしたからには、リュークよりは知っているかもしれない。


「ねえ、それよりボクも質問していい? ボクもみんなのこと知りたい」


「あ、そうだな。ごめん、こっちばっかり。リュークは、どんなこと聞きたい?」


「えーっとね、えーっとねっ! じゃあ……く、クローディアのこと知りたいなぁ」


「まあ、わたくしなどでいいのです?」


 小首をかしげるクローディア。リュークは緊張しつつまた赤面する。


「うん……」


「ちょっと待って。なんでリュークはそんなに人間が好きなんだ? 魔族にだって美人はいるだろうに、なんで人間のクローディアなんだ?」


 するとリュークは、照れてふにゃっとした顔を、ちょっとばかり背ける。


「だって……人間って、綺麗なんだもん」


「魔族だって綺麗なやつはいるだろう? リュークだって、ずいぶんな美少年だ」


「でもつのがあるよ!」


 リュークは自分の角を触ってみせる。


「ボクにはないけど、魔族には他にも翼があったり、尻尾があったり……絶対に余計なものがついてるんだ」


「余計ってことはないだろ? 機能として、なにかしら便利に――」


「その機能も余計だと思うの!」


 リュークはテンションが上ってきたのか、声が大きくなっていく。


つのなんて要る? 武器になるかもだけど、武器なんて手に持ったほうがいいし。弱点の頭をさらしてつので戦うなんておかしいよっ」


「お、おう……?」


「それに翼だって、魔法で飛べるのにあんなの邪魔でしかないよ。尻尾だってさ、物を持ったりするのに便利かもだけど、神経が集中してるから敏感すぎて熱いものも冷たいものも持てないし、強く握られたらすごく痛いっていうし、もはや弱点でしかないよ」


 すごい。どんどん早口になっていく。


「なによりシルエットが良くないよ。過不足なくまとまってる人間の体に、余計なものをくっつけてバランスが崩れてるんだ。そのせいで綺麗さが損なわれてて! でも逆を言えば、それだけ人間の体ってよくできてて! そこに着る服次第で印象がすごく変わって……と、特に聖女さんの服装とか、すごく綺麗で……ボク、初めて見たときからドキドキしてて。クローディアのは、ボクの知ってるのとは色が違うけど、それもまた良くって……あぅ」


 一気にまくし立てたあと、自身の暴走に気づいたか、リュークは恥ずかしそうに視線を落とした。


 またクローディアに上目遣い。


「で、でも、クローディアは、今までお屋敷に来た聖女さんたちよりずっとずっと綺麗で……よかったら、ずっといて欲しい……。それで、ボクが大人になったら……」


「……じゅるり」


 よだれをすする音に、おれはジト目を向けた。


「クローディア?」


「ふひっ、こんなに美少年に素直に求められてしまいますと……リードしたくなっちゃいますわ」


「ダメだかんね、マジで」


 リュークはショックを受けておれを見上げる。


「どうして?」


「おれのパーティメンバーだから」


「パーティみんな一緒にいてくれてもいいよ。それでもダメ?」


「ダメ」


「なんで? なにがダメなの?」


「ダメなものはダメなの」


「む~」


 食い下がってくるリューク。なぜかそこにクローディアも乗ってくる。


「アラン様、ちゃんと言葉にしてくださいな。でないとわたくしも納得できませんもの」


 悪戯っ子みたいな笑みを浮かべている。くそう、わかっててやってるな。


「ねえどうしてどうして」


「さあ、さあ」


 ふたり揃って迫ってくる。


 あー、もうしつこい! しょうがないな!


「クローディアには、おれのお嫁さんになってもらいたいからだよっ」




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次回、アランは執事を捕まえて問い詰めるのでした。

『第26話 やめとけ。坊っちゃんの命が惜しいなら』

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