第17話 なら、あたいらはもう仲間だな
「
「そりゃ言うよ。あいつらのせいで、あたいらみたいな善良な
「まあ……それは、ひどい……」
不満を口にするウォルに、クローディアは同情を寄せたようだ。
「だよなー? たかだか1週間分の食料もらったってだけなのにさ。ケチンボだよな」
「ひどい、というほどでもありませんでしたわ……」
「それはお前が悪い。魔王のせいにすんな」
「でもあたいはともかく、街の他のみんなは本当になんにもしてなくても襲われるんだぜ」
「ラーゼアス教の考えからすりゃ、基本、
「しかし、どういった都合なのでしょう?
カナデの素直な問いに、クローディアも首を傾げる。
「人と関わる
「教会は栄誉だとか正義だとか外面にこだわってるからな。邪悪で共存できない敵がいたほうが、そいつを誇示できるんじゃないか」
「でもさー、それ魔王軍にとっても都合がいいんだぜ。人間とはどうせ共存できないんだから、襲え、奪え、犯せ、食えってな」
「……ラーゼアスの教えが、魔王軍にとっても都合がいいなんて、そんなことあっていいのか……?」
「いいもなにも実際そうなってるじゃん。ま、んなこと、魔王ぶっ殺してから考えればいいと思うけどね」
「……そうだな。魔王は倒す。おれたちはもともと、そのために旅をしてるんだ」
「なら、あたいらはもう仲間だな。さっそく方針会議と行こうぜ、すぐそこにうまい店があるんだ」
ウォルはおれの頭の上から飛び降りて、先導していく。
「まだ食うのかよ。こっちはまだ腹は減ってない……っていうか、お前、支払いはどうしてるんだ? さっきの店でもツケてたけど、金なんかどこに持ってるんだ?」
「持ってねーよ? うまくないもん。食った分は、働いて返してんの」
「お前、仕事してたのか」
「うん。たまに魔王軍とか、ラーゼアス教の連中が街を潰しに来るから、ぶっ殺してやってんの」
「……人間も?」
「襲ってくるなら、人間も
「そうだな……。おれも、守るべきもののためなら、なんでもするしな……」
おれはかろうじて納得したが、カナデはそうではなかったらしい。
「聞き捨てなりません!」
先導するウォルを追い越し、その行く手を阻む。腰を落とし、刀の柄に手をかける。
「スライムなどと捨て置いておりましたが、
そうだよな、事情があるとはいえ
「それほどの猛者、立ち合わずにいるなどもったいない!」
違ったわ。納得とか以前に、カナデは戦闘と強くなることしか頭にないんだった。
「なに言ってんの、このサムライガール?」
「仲間入りするのでしたら、試合で親睦を深めるのが決まりです」
「あたいと戦いたいの? ぶっ殺しちゃうかもしんねーけど?」
「ほほう、大した口を利く。これはいい死合になりそうです」
にやりと笑んで殺気をむき出しにするカナデを見て、ウォルは呆れたような声を出した。
「おまえら、ほんとに変わってんのな。頭おかしいんじゃねーの?」
「頭おかしいのはその子だけだ」
おれは双方の間に割って入る。
「カナデ、試合はなしだ。どっちが勝つにしろ、怪我したり、最悪死んでもらったら困るんだ」
「もしここで果てるようなら、その程度の剣士だったと捨てていって結構」
「結構じゃないの! 心配する人の気持ちも考えろって!」
「しかし、死を恐れていては強くはなれませぬ!」
カナデは頑として譲らない姿勢だ。そんな彼女に、クローディアが背後から抱きつく。
「わっ、クローディア殿? ひゃんっ、なぜ耳を噛むのですぅっ!?」
「カナデ様、わたくしもこんなことして欲しくないです。言うことを聞いてくださいませんと……お仕置きですわ? 大好きなこと、もう、してあげませんから」
耳元で囁かれて、カナデはみるみる赤くなっていく。
「あ……はう……。わ、わかりました……。試合は、またの機会、に」
「はい、カナデ様はとっても良い子ですわね」
にっこり笑顔でクローディアが離れると、カナデはへなへなとその場にへたり込んでしまった。
「ん、なに? 戦わんの?」
「はい、カナデ様はわかってくださいました」
「ふーん……」
ウォルはなぜかおれを見上げた。
「アランがリーダーだと思ってたけど、パーティの主導権握ってるのはクローディアなのな」
「言うな。気にしてんだから」
するとクローディアはふるふると首を横に振った。
「主導権など握っておりませんわ。わたくしが握るのは、オチ――」
「こらぁ、下ネタ禁止って言ったでしょお!」
すんでのところでクローディアの口を塞ぐおれである。
「まったく愉快な連中だぜ。っと、腹減った腹減った。店、行かないならなんかもらうぜー」
「っておい、また人の荷物漁るな! そこに食い物はないんだよ!」
とかやっていると、懐かしい足音が近づいてきた。
「なんの騒ぎかと思ったら君か、アラン」
「セシルか!?」
その名を聞いた瞬間、へたり込んでいたカナデの目が輝き、凄まじい瞬発力でセシルの眼前に躍り出た。
「刺客ですか、刺客ですね!? よく来てくださいました! ランドルフ殿はいずこ!? それとも今日はセシル殿がお相手か!?」
「うわあ!? 待って、ぼくは戦いに来たんじゃない。話に来たんだ!」
「は? 話ぃ? はぁあ?」
「なんでキレるのさ……。一応、君らを拘束するようには言われたけど、その前に、話をしておきたくて。だから、ひとりでパーティを抜け出して、ここまで来たんだ」
「らしいぜ、カナデは一旦下がってくれ」
「カナデ様」
おれとクローディアに言われて、カナデはセシルに「ちっ」と舌打ちして引っ込んだ。
「えぇ、怖ぁ……」
「ああ、怖いよな……」
「と、とにかく、えーと、アラン、話せるかい?」
「いいぜ。ちょうどいい、ウォル、うまい店ってのに案内してくれ。あと、今くわえてるそれ、毒だから食うなよ」
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※
次回、アランとセシルは、互いの価値観に歩み寄ることができます。しかし、そこに追ってきたシンシアとランドルフが……。
『第18話 常識が、壊されちゃったよ』
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