第4話 くっそぉ、聖職者の顔に騙されたぁ!

「気のせいかな、今、ドスケベって聞こえたんだけど……?」


「気のせいではありません。わたくしが申し上げました! わたくしが、ドスケベです!」


 どうしよう。覚悟を決めちゃったせいか、クローディアの鼻息がすごく荒い。


「も、もしかして昼間の、ダナヴィル教の聖女は誰とでも寝るって噂、本当だったの?」


 質問しつつ、寝袋から這い出てちょっと距離を取る。


「誰とでもではありません、パーティメンバーとだけですわ!」


 クローディアは四つん這いになって追いかけてくる。近い。近いって。


 うわ、薄着のせいで大きな胸が目立つじゃないか。しかもぷるぷる揺れて、目のやり場にすごく困る。


「そしてわたくしの、初めてのパーティメンバーはアラン様なのです。お告げから5年間、ずっと想っていたアラン様だからこそ、わたくしも、はぁはぁ、気持ちが抑えられず……!」


「いやいや抑えて抑えて。まずいでしょ、聖職者がこんな」


「ダナヴィルの教えではなにも問題ないのです!」


「そもそもおれたち今日会ったばかりだよ!?」


「わたくしは5年前より渇望しておりましたので問題ありません!」


「おれが困るんだよお!」


 するとクローディアは、エメラルドの瞳をうるうると潤ませながら見つめてくる。


「そんな……わたくしでは、嫌なのですか……?」


 くっ! やっぱり可愛いな、この子! でも。


「そうじゃない。おれは、パーティメンバーと男女の関係になるべきじゃないと思うんだ」


「それは、どうしてですの?」


「まず、ほら、すると……妊娠とかしちゃうかもじゃん? そしたら旅が続けられなくなっちゃうし」


「ご心配には及びませんわ。わたくし、この日に備えて、避妊具はたくさんご用意しておりますもの!」


「しちゃってるの、ご用意!?」


「それはもう。購入するときなど、使うときを想像して、胸がきゅんきゅんして下着を替えることになってしまいましたわ!」


「へ、変態さんなのでは……」


「さあこれで問題ありませんわね? はぁはぁ」


 ずんずん接近してくるクローディアだ。おれはさらに後退するが、テントは狭い。すぐ端っこに追い詰められてしまう。


「ま、まだある! まだ問題あるよ! ちょっと待って!」


「もう。まだありますの?」


「これが一番大事なことだよ……。えっと、ちょっと照れるんだけどさ……したら、たぶんおれ、君のこと好きになっちゃうと、思う」


「まあ……っ、まあっ、まあ♪」


 クローディアは両手を頬にやって、にこにこと嬉しそうに頬を染める。


「わたくし、そうなっていただけたらとても嬉しいですわ! なにを危惧することがあるのでしょう!?」


「だ、だから、そのが問題なんだよ。戦いの中、仲間に厳しい判断を下さなきゃならないときだってあるはずだ。でも、す、好きになっちゃったら、判断が鈍るかもしれないでしょ! 君だけ特別扱いしちゃったりとか、そういうのは、ダメだと思う!」


「もう、アラン様ったら、わたくしのことなどお気になさらなければ良いだけですのに」


「できる自信がないから言ってるの! ただでさえ君は可愛いし、今日一日だけでもすごくいい子だってわかったし……そんな子が、は、初めての相手になったりしたら、おれ、絶対ダメになる」


 するとクローディアは、きりっと真剣な眼差しを向けてきた。


「いいえ。きっと大丈夫です。卑怯者だと言われても、友に理解されずとも、仲間に背を向けられても、なお折れない信念をお持ちのアラン様です。色情に溺れて判断を間違えることなどあるはずがございませんわ」


 聖職者らしい、諭すような優しい口調だった。思わず安心してしまう。


「クローディア……ありがとう」


 そんな聖女の顔が、一瞬でふにゃっとだらしない笑顔に変わる。


「な・の・でぇ! ふひひっ、初めて同士、いたしましょうっ! じゅるりっ」


「くっそぉ、聖職者の顔に騙されたぁ!」


 飛びかかってくるクローディアを、すんでのところでかわす。クローディアは荷物にぼふっと顔を突っ込ませた。


 それからエメラルドの瞳を恨めしそうに向けてくる。


「もうっ、アラン様は危惧ばかりされておりますが、メリットもあるのですよ!」


「どうせ気持ち良くなるとかそんなんでしょ」


「それだけではございません! いいですか、生命の営みは、すなわち創造、つまり神の営みなのです。わたくしたちは積極的に生命の営みをおこなうことで、神力を大きく増幅させ、聖職者としての力を大きく伸ばすことができるのです! 戦力が強化されれば、魔王討伐にも一歩前進できるはずですわ!」


「本当?」


「はい、ダナヴィル神に誓って」


「う、う~ん、でもぉ」


「あなたらしくないですわ、アラン様。戦力の増強はすなわち、人々のため。人々のためのおこないを、なにをためらうことがあるのです?」


「ぐ、正論、だけど……っ」


「あと、そうでしたわ。よく考えましたら、わたくしはアラン様を襲ってしまうつもりだったのですから合意はいらないのでした」


「いやそれじゃごうか――はふっ」


 不意を突かれて、ついにおれはクローディアに捕まってしまった。


 むにゅっとした感触が顔に押し当てられる。


 やばい。めっちゃ柔らかい。いい匂いもして、ほどよく弾力もあって、その、なんだ、とても困る。はち切れちゃうそう。


「それに……はぁはぁ、わ、わたくしのことを好いてくださっているなんて聞かされましたら、もう我慢できませんわ!」


「ま、まだだよ、まだ好きじゃない」


「ふひひっ、ではこれから、ですわね?」


「ちょっ、待って」


「いいえ、待ちきれないのはアラン様もでしょう? 口では渋っておられましたが、体のほうはずぅっとご主張されておりましたもの!」


「はぅっ!?」


 その体の一部を触られて、びくんっ、と反応してしまう。


「可愛らしいお声ですわ。うひひっ、もっと聞かせてくださいませ!」


「わ、わああー、おーそーわーれーるー!」



   ◇



 翌日、目が覚めたら、朝ではなく昼だった。


 隣には、幸せそうに眠る裸のクローディア。


「――やってしまった……っ」


 1回目は襲われて。2回目からは欲望に負けて、自分から……。


 そこまでならいい。全然良くないが、まだいい。


 こともあろうに行為に疲れて寝坊してしまうなんて! セシルたちに先んじなければ、無駄に犠牲者が出てしまうというのに!


「いかがなさいました、アラン様?」


「……おれの心が弱かったばかりに、兵士に犠牲者が出てしまう……。いや、悔いてる場合じゃない。少しでも早く動いて挽回しないと」


「それでしたら心配ご無用ですわ!」


 クローディアは自信満々にぷるんと胸を張る。


「神力の増したわたくしの力、さっそくお見せいたします!」

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