第3話 わたくしは、ドスケベなのです!
おれとクローディアはさっそく出発して山道に入った。
セシルたちが向かったであろう魔王軍幹部『魔将ウェルシャ』の砦への近道だ。人の通らない険しい道で、
もっと安全で快適な街道もあるのだが、遠回りになるし、きっとセシルたちはその道を行っている。同じ道を通って先回りすることはできない。
おれは慣れているし、覚悟の上だったからどうってことないが、急に同行することになったクローディアはどうなのか?
「平気、ですわっ! 『勇者』に先んじて魔将を討ち果たし、犠牲を最小限に食い止めようなんて、なんと崇高なお考えでしょう! かつての友に背を向けてまでこの道を選んだアラン様の想い、わたくしが足を引っ張るわけには参りませんわ!」
汗を滴らせながら、健気に強がるクローディアに思わず胸がいっぱいになる。かつての仲間にはなぜだか理解されなかった考えを肯定して、文句も言わずついてきてくれる。それだけでも報われるような気持ちだ。
実際クローディアは、おれにはもったいないと思えるほど、素晴らしい聖女だった。
力量は、『勇者』パーティの聖女シンシアには及ばないものの、
聖護結界とは、一時的に
おれが僧侶を一番欲しがっていたのは、この聖護結界を求めてのことだ。
今後も『勇者』パーティに先んじるために、危険な道を行くことは多いだろう。一人旅では
そういった実力的な意味でもクローディアは素晴らしいが、良い点はまだある。
まず料理が上手い。
野営中。おれが用意しようと思っていたのに、気がついたらクローディアが料理を済ませてくれていた。
採取してきたであろう木の実や野草にキノコ、さらにヘビやトカゲだが肉類まで。
「どうぞ召し上がってくださいませ」
「ありがとう。これは力が付きそうだ」
「はい。精力をみなぎらせてくださいまし!」
食べるところを、にこにこ笑顔で見られるのはちょっと照れてしまったが。
さらに、どうやら綺麗好きらしい。
汗だくになったシャツを乾かそうと、脱いでおいたところ……。
「くんくんくん……はぁはぁはぁ……」
ちょっと目を離した隙に、クローディアに匂いを嗅がれていた。
「えぇ……なにしてんの?」
「はっ!? ち、ちち違いますの! これは……その、か、乾かすだけでなく洗う必要もあるのかと確認しておりましたの!」
「なんだ、びっくりしたぁ。そこまで気を遣ってもらえるなんて、なんか申し訳ないな」
「い、いえ……お気になさらず……」
頬を赤くして、おれのほうをじっと見つめる。なんだか可愛い。
「それより、クローディアも着替えたほうがいいよ。汗かいてたし、早く脱いだほうがいい」
「あ、はい。アラン様のように、裸になったほうが良い……と」
おれはシャツを脱いだきり、上半身裸のままだった。
「いや汗を拭いたら、すぐべつの服を着なよ。おれは単に面倒で着てないだけ……っと、悪い。見苦しいもの見せちゃってたか」
クローディアは慌てたようにぶるぶると首を左右に振った。
「いえ! むしろありがとうございますっ!」
なんで礼を言われたのかわからないが、とにかく綺麗好きは良いことだ。
衣服の異臭は
そして、クローディアは勉強熱心でもあるらしい。
彼女の荷物の中身がちらりと見えてしまったが、何冊か本を持っているようだ。
持ち運ぶ用に作られたのか、ページ数の少ない薄い本だったが、そもそも本は高価だ。それを何冊も持ち歩くなんて、高い向上心の現れに他ならないだろう。
そんな彼女の本だが、荷物からこぼれたのか、一冊、テントの中に落ちていた。
どんな本を読むのだろう? やはり神学書や魔術書だろうか?
ちょうどクローディアへの関心が強くなってきたところだったので、つい拾って、ページを開いてしまう。
「わあああ、ダメですぅ!」
すると、物凄い俊敏な動きで現れたクローディアに奪い取られてしまった。
「あ、ごめん。落ちてたからつい。どんな本を読んでるんだろうって……」
クローディアは顔を赤くしながら、若干の涙目でおれを見上げる。
「……ご覧になったのですか?」
「少し。医学書かな。裸の男女が描かれてたような……」
「そ――そうです! ですが私物ですので、中身をご覧になるのはご遠慮いただきたく!」
「ごめん、気をつけるよ」
人体の構造をよく理解していたほうが、治療魔法の効き目がいいと聞くし、医学書を持ち歩いているのは納得だ。やはりクローディアは勉強熱心なのだな。
と、そんなところで就寝。
まだ一日目だが、クローディアのことを色々知れたと思う。とても好印象だ。
料理上手で綺麗好きで勉強熱心なとても素敵な――いや待て? 思い起こしてみると、結構おかしいところあったな?
疑問に思ったとき、テントの中で静かに動く気配があった。
クローディアが起き上がって近づいてくる。
なにか用だろうか? いや、だったらなぜ声もかけずに忍び寄ってくる?
おれは警戒しつつ、眠っているふりをすることにした。もし怪しい動きをしたなら、取り押さえるしかない。
気配が近づくにつれて、クローディアの熱っぽい吐息が聞こえてくる。
「ふ、ふひひ、男の人の体……。ちょっとだけ、ちょっとだけ……。じゅるり」
「……へっ?」
予想外すぎて、つい間抜けな声を出してしまう。
「ひぅっ!? アラン様、起きていらっしゃっしゃ!?」
クローディアはびっくりしすぎて言葉をカミカミである。
「え、君、なんで興奮してんの?」
「そ、それは、あの、それは……!」
あわあわと取り乱すクローディアだったが、やがて覚悟を決めたのか、きりっと視線を定める。
「あ、アラン様を襲ってしまおう、かと。性的に」
「性的に!?」
「こ、この期に及んでは仕方ありません、正直に申し上げます!」
先程までの動揺はどこへやら、クローディアは堂々と言い放った。
「――わたくしは、ドスケベなのです!」
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