第25話

  【一人称、主人公の視点】


 僕の部屋だった。


 僕と、ニャーゴは、ベッドの上に寝転がっていた。



「……どうして、服をきたまま、ズボンとパンツだけずりおろして、タマタマを出すと、こんなに気持ちいいんだろう……? 解放感がすごいよね。ねえ、どう思う、ニャーゴ?」


 ニャーゴも野生をわすれたペットのように仰向けになって、股をおっぴろげにしていた。

 キンタマおっぴろげ状態だった。


「タマタマつーのはな、体温よりすこし冷やしたほうがいいんじゃ」


「そうなの?」


「うむ……。だから、タマタマは体の中ではなく、外にでて、ぶらさがっておるのじゃ。特に人間は、下着やズボンをいて、れるからの。おまたに体温がこもるんじゃ」


「へえー。そんなの僕しらなかったよ。だから、タマタマを露出すると気持ちいいのかあ……。ニャーゴはものしりだね」


「当然じゃ。伊達に長生きはしとらんわ。えっへんっ!」

 ニャーゴは自慢げに言った。


「ふわああー、この解放感、さいこうだね」

「さいこうじゃあー……」


 僕とニャーゴは、タマタマを露出したまま、ぼーっとなる。



 あまりにも気持ちよすぎて、やがて僕は、うとうとしはじめた。




 どうやら、そのまま、居眠りしてしまったようだ。

 目が覚めると、窓から落ちてくる光が夕方のものになっていた。



「うーん……」

「痛い、痛い……」

「もうだめだ。遺言を残したい。家族を呼んでくれ……」

 屋敷の庭のほうから、声が聞こえてきた。


 僕は、部屋の窓に駆けよって、庭を見る。


 多くのナイヨール伯領の兵士たちが、怪我をして苦しんでいた。


「どうやら、戦いがあったようじゃの」


「僕のヒール効くかな?」


「そりゃ、おまえの『完全パーフェクト神ってるヒール』は、このわし自身が授けたものじゃからの。範囲効果で、全員同時に完治させることくらい、たやすいぞい」


「範囲効果もあったんだ。僕、知らなかったよ。そういえば、父さんの体に『完全パーフェクト神ってるヒール』をかけたら、周囲の布団や絨毯の汚れも消えちゃったことあったけど、あれって範囲効果だったんだね」


「そういうことじゃな」


「じゃあ、みんないくよ」

 僕は、2階の部屋の窓から庭の家臣団に向かって、『完全パーフェクト神ってるヒール』をかけた。



 ざわっ。ざわっ……。


 屋敷の庭にいる傷ついていた兵士たちが、ざわつきはじめた。


「あれ? 痛みがなくなったぞ」

「それどころか、傷までなくなってるぞ」

「いや、それどころか、服までなおってるぞ」

「いや、いや、それどころか、服の汚れまでとれてるぞ」

「いや、いや、いや、それどころか、着古した服が新品みたいになってるぞ」


「どういうことだ???」


「あ、リーリャ様が自室の窓からこっちを見ておられるぞ」


「俺達に、にっこり笑って、手をふってくださっているぞ」


「ひょっとして、リーリャ様が魔法で俺達を治してくれたのか?」


「きっとそうだ! リーリャ様! ありがとうございます!」


「すごいです、リーリャ様!」


「リーリャ様、バンザイ!」





「……ニャーゴ、みんなあんなこと言ってるよ。なんだか照れちゃうね」

 僕は、ニャーゴの方を向いた。


「まあの……」


「どうしたの? ニャーゴ? なんか意味ありげな答え方だね」


「庭の方からは、窓に見えるおまえの上半身しか確認できんが、あいかわらず、チンコとキンタマ出しっぱなしじゃぞい」


「わあー。忘れてたよ、僕」

 僕は急いで、下着とズボンをずりあげた。



  ☆☆☆



 屋敷の中のギリヲカーンの私室。


 ギリヲカーンと、執事のセバスがいた。


「いったい、どうなってるの?」


「わかりません。スーパー・トリ・トリリンカブトの毒をコップ一杯分飲み干せば、いくら体力馬鹿のオートン様でも、命はないはずなのに……」


「この、スーパー・トリ・トリリンカブトの毒って本物?」

 ギリヲカーンが、あやしむように毒のはいった瓶を手にとった


「ちゃんとした闇業者から仕入れたので間違いはないと思うのですが……」


「本当かしら?」


「そういわれると、わたしも自信がなくなってきました」


「きっと、だまされたのよ」


「ちっ。あの闇商人……、高い金をはらったというのに、ニセモノを渡すとはっ! なんたる悪辣あくらつ。伯爵家の権力で徹底的にとっちめてやりましょう!」


「闇商人はこの毒について、なんて言ってたの?」


「なんでも、ペロリとひとめしただけで、


 全身に蕁麻疹じんましんが浮き上がり、

 われるような強烈な頭痛がし、

 たえがたい吐き気がし、

 三日三晩、もうれつに苦しみつづける


 と言っておりました」


「ひどい嘘ね。こうして、ちょっとめたからって効くわけないでしょ。今度会ったら、徹底的に言っておやりなさい! ムチ打の刑にしてやるわ!」


「はい。こうして、ちょっと舐めても、全然効かなかったっていってやります! ムチ打の刑にしてやりましょう!」

 二人は同時に瓶の液体に人差し指をつけて、ペロリと舐めた。



 ……その瞬間だった。


「うぐっ」

「げほっ」


「ぎょえええええっ。死ぬ。死ぬうううう!」

「うぐぐぐぐぐぐっ。死にます。死んでしまいますうううう!」


 二人は大変な状態になっていた。


 ギリヲカーンとセバスは、


 全身に蕁麻疹じんましんが浮き上がり、

 われるような強烈な頭痛がし、

 たえがたい吐き気がし、

 三日三晩、もうれつに苦しみつづけた。

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