第22話


  【三人称、アーニの視点】


 ナイヨール領の高台に、アーニ率いる150人の部隊が陣を構えていた。


「ふふふ……」

 馬上のアーニは、他人が見ると、気持ち悪がられるような笑みをうかべていた。「くっくっく……、ぐふふふふっ!」

 アーニは、自分で自分の姿に酔いしれていた。


「すごいぞ、この俺! たった12歳にして、150人もの軍を率いる正真正銘の軍指揮官なのだ!」


 アーニは、自分の勇姿を空想して陶酔とうすいしている。


「ああ……、俺という存在は、なんと気高く、なんと美しく、そしてなんと勇ましいことか! 馬上に凛々りりしく座る、その姿。まるで伝説の英雄のようだ! きっと部下たちも、この俺の姿に心を打たれていることだろう!」

 思わずアーニは、馬上で優雅なポーズを取る。



『アーニ様の表情が、なんか気持ち悪いぞ』

『まーた始まった。アーニ様の超ナルシストな妄想癖もうそうへきが』

『ふつうにキモい』

 兵士たちが、ヒソヒソとささやきあう。



「さあ、150人の部下たちよ! この素晴らしき指揮官アーニ様の姿を、心に刻むがよい! うっしっし……」

 ドン引きの兵士の中で、アーニだけが、自己陶酔の中、ますます高揚していく。


 まるで子供がおもちゃの兵隊で遊ぶように、アーニは戦場という舞台で、英雄ごっこを楽しんでいた。



「おっ」

 妄想にふけっていたアーニの目に、こちらめがけて突進してくるコヤス軍の姿が見えた。


「よーし!」

 アーニは、あわてて姿勢を正す。「みんな、手筈通てはずどおりにやるんだぞ! いいな!」


 ふたたびアーニ部隊の兵士たちが小声でささやきあう。

『おい、本当に戦うフリだけでいいのか?』

『さあな。上の方で何か裏取引でもあったんじゃねえの?』

『わけわかんねえよ。いきなり指揮官が変わるわ、戦うなだの、戦うフリしろだの……』


「おい、そこ!」

 ベテラーンが鋭く声を上げた。「戦場で私語はつつしめ!」

「「「はっ!」」」

 おしゃべりをしていた兵士たちは、あわてて背筋をただした。


「わああああっ!」

 轟音とともに生き残ったコヤス軍が襲いかかってきた。


「お……、おい、ちょっと待て……」

 アーニがあわてる。相手の様子が明らかにおかしい。


(なんだこれ? 八百長の出来レースのはずじゃ……)

 アーニが怪訝けげんに思った瞬間だった。


 ドドドドッ!


 コヤス軍の騎馬隊が、まるで津波のようにアーニの部隊になだれ込んでくる。その勢いは尋常じんじょうではなかった。

 手加減などまるでない。必死で逃げる部隊の本気の突進だ。


「ひぃっ!」

 アーニが悲鳴をあげる。目の前で、味方の兵士たちが次々とぎ倒されていく。


 バシッ!

「うわあああっ!」


 コヤス軍の一騎の騎馬が、アーニの乗る馬に激突した。その勢いで、アーニの体が宙を舞った。


 ドサッ!


 アーニの全身が、いやというほど地面に叩きつけられる。


「痛いっ! これは話が違う……、うぎゃあっ!」


 恐怖の大爆発から逃げまどうコヤス軍の兵士や騎馬たちが、倒れたアーニを次々と踏みつけていく。


 バシッ、ドスッ、ズシャアッ!



 兵士たちは恐怖に取り憑かれたように、ただ無我夢中で逃げ続けていた。


「うぎゃっ。いやっ。ぎゃあっ! やめてえー  約束が違う! 母上、助けてー! ぎゃふっ!」

 アーニの悲鳴も空しく、兵士の靴に頭部を踏まれ、騎馬の蹄鉄ていてつが腹にくいこんだ。


 コヤス軍の兵士たちは、なにか恐ろしいものから逃げることに必死で、アーニ軍の事情などにかまってられない様子だった。


「ぎゃあっ。痛い。痛いっ! わああああんっ!」

 何度も何度も踏みつけられる。アーニは悲鳴をあげつづけた。


 逃げまどうコヤス軍のまえに、アーニ軍は、さんざん踏みにじられた。たちまちのうちに全軍が総崩れとなる。


 アーニの初陣は、みごとなまでの負けいくさとなった。





☆――――――――――――――――――――☆

オートン 統率95 武力108 知力26 政治13

アーニ  統率3  武力5   知力9  政治4

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