第21話


  【三人称、ニャーゴの視点】


「くくく……。これはこれは、見事な狂気っぷりじゃ。視線だけで人間の理性を、一瞬で崩壊させてしまうとは。今回の魔王化は、ワシの想定をはるかに超えておるぞい!」

 ニャーゴは満足そうにつぶやいたが……


 しかし、その満足げな表情は長くは続かなかった。


「ん? なんじゃこれは……」


 ニャーゴの魔眼まがん(黒)が、リーリャの体内に植えつけた魔王の核を見とおす。


「ぎょえええっ!?」

 見た瞬間、あまりもの驚きに、ニャーゴが飛びあがった。


 リーリャの『魔王の核』における負のエネルギーが、ニャーゴの想像を絶する速度で膨張をつづけていた。


「こ、これは……ヤバイぞいっ!」

 ニャーゴの全身の毛が逆立つ。「このままでは核が制御不能になるぞい!」


 リーリャの周囲の空間が歪みはじめていた。黒いもやが渦を巻き、まるで暗黒のブラックホールのように、周囲の全てを飲みこもうとしている。


「いかんぞい! ワシの予想の百倍、いや千倍以上もの負のエネルギーが核にまっとるぞい!」

 ニャーゴが背筋を凍らせる。「マズイ! このままでは、核が負のエネルギーに耐えきれず、とんでもない大爆発を起こしてしまうぞいっ!」

 ニャーゴが叫んだ瞬間だった。


 ドゴォォォォーーーーン!!!


 まばゆい爆炎と光が辺りをつつみこむ。轟音とともに、巨大な衝撃波が四方八方に広がっていった。


「うわあああっ!」

「た、助けてくれえええ!」

 狂気に陥っていたコヤスや、その兵士たちの体が、炎につつまれた。あまりもの超高音の大爆発に、コヤス軍の兵士たちの体の組成そせいが、原子レベルで崩壊し消失していった。




 爆発地点から1km以上はなれていた残りのコヤス軍の兵士たちは、かろうじて死をのがれていた。

 隊列を乱し、我先にと逃げだす。




 リーリャの中心から半径300メートルほどは、地面の土までもが蒸発して、半球状のクレーターとなっていた。


 一見、クレーターの中の存在は全て消え失せたと思われたが……、


 そこに、まだ生き残っているものがいた。


「はら、ひれ、ほれ……」

 黒焦げになったニャーゴが、クレーターの底で仰向けになって転がっていた。まっ黒焦げになり、まるで干物にされたカエルみたいな格好だった。



 ニャーゴは、悪神あくじんだ。神だけあって、その存在は不死である。


 だが、この爆発によるダメージが、とても痛いのに変わりなかった。

 全身が、たまらないほど痛かった。痛すぎて、みじろぎすることすら、ままならない。


「いやぁ……、まいった……ぞい。痛タタタ…………ぞいっ」

 クルクルと目を回しながら、アフロヘアになったニャーゴがぼやいた。



 爆心地の中心にはさらに一人の人物がいた。

「あれ? 僕、なにをしていたんだろう?」

 言ったのはリーリャである。


 リーリャの姿や表情は、もとの穏やかなものに戻っていた。爆発により、着ていたものはすべて蒸発していた。チンコとキンタマまるだしの素っ裸のまま、リーリャは、クレーターの中心に座っていた。

「えーと、戦っているうちに、心が高ぶってきて、なんだかわからないうちに、メカ・ゴーレムを倒して、爆発がおこって……」


 リーリャは、おこったできごとに呆然ぼうぜんとなっていた。

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