第19話

  【三人称、ニャーゴ(悪神あくじん)の視点】


 モブの魔物たちと戦っているリーリャを見ていると、闘争心が高まっていくのがわかった。


『魔王の核にたまる負のエネルギーが増えとるぞいっ。核には負のエネルギーが漏れないように、あたらしく改良しておいたからな。このままいけば、確実に、リーリャは魔王になるぞい。ぐふふふ……』

 ニャーゴが悪そうな顔つきをして小声でつぶやく。


「ニャーゴ、なにか言った?」


「おっと、なにも言ってないぞい」


「そう?」


 リーリャが次々にモブの魔物を倒していく。

 モブといっても地下迷宮最下層の魔物だ。一匹でさえA級冒険者パーティが手こずる敵をまとめて、次々に撃破していく。


『戦闘を重ねるたびに、核のなかの負のエネルギーが着実にふえとるぞい』


 普段は穏やかなリーリャの目。その瞳に、やがて、邪悪な光が宿りはじめる。


 瞳は破壊の衝動で血走り、口元は凶悪な笑みが浮かんでくる。


「ついにきたぞい!」


 ニャーゴは期待に胸を膨らませた。


「ぐはははっ!」

 魔王化したリーリャが叫ぶ。「体ん中から限りなく湧きあがってきやがるぜ、止めどもねえパワーがよ! 圧倒的な破壊の衝動! そうだ、そうだぜ、オレ様がずっと待ち望んでたのは、この感覚だったんだよ!」


「本格的な魔王の覚醒じゃ!」

 悪神あくじんであるニャーゴが目を輝かせる。


「うへっへっへ……。この糞みてえな世界の全てをぶっ壊して、血と炎で染め上げてやるぜ! 生きてるものは皆殺し! 建物も町も山も森も、きれいさっぱり粉々にしてやるよ!」


 モブ魔物と呼ぶには、あまりにも強すぎる敵が、次々とリーリャの前に立ちはだかる。


「どきやがれ、クソ雑魚どもっ!」

 魔王と化したリーリャが吠える。


 バキッ、ズバッ、メキッ!


 地下迷宮最下層の強敵たちが、まるで紙人形のように次々と引きちぎられていく。


「これはすごいぞい。想像以上のパワーじゃ!」

 ニャーゴは、ほくそ笑んだ。


「ギャハハハッ! もっと強えやつはいねえのかよ!」

 リーリャは、引きちぎった魔物の首を、まるでピンポン玉のように壁に投げつける。「弱い! 弱い! 弱い! そんなんじゃ、俺様の破壊衝動は、芥子粒けしつぶもみたされねえぜ! クソ野郎どもがっ!」


 リーリャは、さらに魔物の首を、壁に投げつけた。


 ドガァァンッ!

 魔物の首がぶつかり、地下迷宮の壁が大きく陥没する。


「なんだよ、雑魚どもかよ。オレ様の力を試すにはあまりにもショボすぎるぜ! もっとケンカ相手になりそうな奴はいねえのかよ? おい、クソ野郎ども! テメーらの仲間をどんどん呼んでこいや。100匹でも200匹でも、全員まとめてブチのめしてやるからよ! オレ様の拳は、まだまだ暴れ足りねえんだよ!」

 リーリャの手にかかった魔物たちは、次々と体を、バラバラにされていく。


「す、すばらしいぞい! これなら、この世界の人類どもを、簡単に恐怖のどん底に突き落とすことができるぞい!」

 魔王と化したリーリャは、地下迷宮の階段を駆け上がっていく。猛烈な勢いだった。


 階段の途中で出くわした魔物たちも、まともに戦う時間もなく吹き飛ばされていく。

「うぎゃあ!」

「ぐわあっ!」

 魔物たちが悲鳴をあげる。魔物とはいえ、それなりの知性は持っている者も、一定数いるのだ。


 リーリャの存在が桁外れに強すぎて、魔物たちが恐怖のあまり逃げ出そうとする。


「テメーら、どこ行く気だ! この全六天大魔王から逃げ切れるとでも思ってんのかよ!」


「ぎゃああっ!」


「うはははっ。魔物のくせに、顔に恐怖を浮かべてんじゃねーぞ。クソどもがっ。絶望の表情まで浮かべられんのかよ。俺様の嗜虐心しぎゃくしんが快感を覚えてるぜ。うはははっ!」」


 バキバキバキッ!

 ドガァァンッ!

 ズガシャアンッ!

 ビシャアアッ!


 逃げまどう魔物の群れが、次々と破壊されていく。


 リーリャに投げ飛ばされ、頭から突っ込んだ魔物は壁に大穴を開けた。

 腕をもぎ取られた魔物は血しぶきを撒き散らしながら宙を舞う。


 まるで悪趣味な人形劇のように、魔物たちの体が、ダンジョンの中で派手に踊り狂くるった。



 やがて、魔王と化したリーリャは地上へと至った。


 後をついてきたニャーゴは、リーリャを見て、目を丸くした。

「ばかな……。魔王と化したのに、まだまだ、魔王の核に負のエネルギーがたまりつづけておるぞい! どういうことじゃっ!?」

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