第17話


  【一人称、主人公の視点】


 南の森の奥。


 僕とニャーゴは、地下迷宮の最下層にきていた。


 なまあたたかい風が吹いていた。赤茶けたトンネルがずっと、置くまで続いている。


「なんだか、ミニ地獄って感じの場所だね、ニャーゴ」


「まあ、別にどうってことはないけどな」


「そうかな? そう言われると、僕も、どうってことないような気がしてきたよ……」



 僕はさらに進んでいく。


 迷宮の通路の向こうから、人影があらわれた。


 近づくと、それが人間でないことはすぐにわかった。


 黒こげた皮膚をもつゾンビだった。。眼窩には目玉はなく、真っ黒の深い闇だけしかない。

 朽ち果てた鎧をまとい、巨大な剣を背にかついでいる。


「ニャーゴ、死霊亡者アンデッドだよ」


「ただの死霊亡者アンデッドではないようだぞい。こやつは、ゾンビ・ウォーロードじゃ!」


「強い?」


「4人組のA級冒険者パーティでも、手こずるような強敵じゃぞい」


「そうなの? でも、あんまり強そうにみえないね……」


「そりゃ、おまえが強くなりすぎたせいじゃろな」


「そうかな? なんだか、自分自身では、ぜんぜん強くなった感覚がないんだけど」


「自覚がなさすぎるのも問題じゃのう……」




「クククク……」

 ゾンビ・ウォーロードが、朽ち果てたノドから、不気味な声がひびいた。「子供の分際で、この迷宮の最深部に足を踏みいれるとはな……、愚か者め」


「このゾンビ、なんか言ってるよ、ニャーゴ。ゾンビって喋るんだね」


「上位種のものなら、人語をつかえるのは多いぞい」



「この迷宮の主であるこの私を倒さねば、先には進めぬぞ!」

 と、ゾンビ・ウォーロード。


「そうなんだ。じゃあ、倒すしかないね」


「ほざくな、小僧。おまえなど、たちどころにダンジョンのちりにしてくれよう」


 ゾンビ・ウォーロードは、背中の巨大な剣を抜き放った。


 錆びついた刃には、特殊な黒い魔力が宿っているようだ。


 ゾンビ・ウォーロードが襲いかかってきた。


「これ、効くかな?」

 さりげなく僕は、右手を前に出した。「完全パーフェクト神ってるヒール!」


「ぐああああっ!」

 光に包まれたゾンビ・ウォーロードの体が、崩れていく。あっという間にそれは、地面につもった灰となった。



「あっさり終わったのう」


「アンデッド系には、ヒールの攻撃ってよく効くね。なんか、雰囲気だしてるわりには、あんまり強くなかったね」


「まったく、あっさり言いよるのう。ゾンビ・ウォロードは、そうとうな強敵のはずなんじゃが……」

 ニャーゴが、あきれたように言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る