第15話

「おまちください!」

 アーニが家臣団の指揮を受け継ぐと聞いて、異議をとなえたのは、グンカンだった。


 グンカンは、 オートン直属の伯爵部隊をとりしきる家臣のトップである、軍事面では、事実上、伯爵家ナンバー2といっていいだろう。

「グンカン、ひかえなさい。当主オートンの言葉ですよ。それが不満だとでもいうのですか?」


「はい」


「不敬ですよ、グンガン。身の程をわきまえなさい。わが夫、この領地の当主である、オートンが、その息子に指揮をまかせると言ったのですよ」


「しかし、アーニ様におかれては、軍の指揮はまったく未経験でございます」


「たしかに経験はありませんが、アーニは才能豊かな子供です。軍の指揮だって立派にできますよ」


「……しかし」


「ならば、グンカン、そこまで言うのなら、あなた自身がまず戦ってみなさい。招集した家臣団300人のうち、150人を率いて、王国討伐軍を敗走させてみせなさい。ただし、失敗したら、打首ですよ」


「承知いたしました」


「そこまでの覚悟があるのなら行きなさい」


「はっ」


 立ちさるグンカンを見て、ギリヲカーンは邪悪な顔でほくそ笑んだ。これも、まえもってシナリオがつくられた出来レースのうちだった。

 グンカンは、オートンの腹心だけあって、反国王派の急先鋒のひとりだ。

 ギリヲカーンにとっては、オートンと同様に、始末しておきたい邪魔者だった。




「やあー! 進め、進め!」

 グンカンが、家臣団150人を率いて、国王軍500人への突進を開始した。



 グンカンの兵は少ない。しかし、勝機は十分にあった。


 オートンの能力値が『統率力95 武力100』くらいとすると、グンカンも『統率力88 武力86』はある。

 グンカンは、先の戦争でも、救国の英雄オートンをささえつづけた。とても有能な武将だったのだ。



  ☆☆☆



 突撃してくるグンカン軍を前にして、討伐軍リーダーであるコヤスは、ニヤリと口元をゆがめた。


「さて、これの出番だ」

 取り出したのは、超古代オーパーツである封印水晶だ。

 コヤスが封印水晶を空中にかかげた。「いでよ、メカ・ゴーレム!」



  ☆☆☆


「なんだ、あの化け物は!?」

 グンカン率いる兵士たちが、動揺の声をあげる。


 ドスンッ! ドスンッ!

 地響きが近づいてくる。大地が割れ、土煙が噴き上がる中、巨大な影が姿をあらわした


「こ、これは……」

 グンカンの声が震えた。


 それは、全身が漆黒の鋼鉄で覆われた巨人、メカ・ゴーレムだった。高さは優に5メートルを超える



 メカ・ゴーレムが、グンカン等の前にたちはだかった。


 ズガァァンッ!


 メカ・ゴーレムが最初の一撃を放つ。鉄の拳が大気を切り裂く音をたてる。


「ぎゃあああっ!」


 一撃で十数人の兵士が、まるで木の葉のように宙を舞った。血しぶきをあげながら吹き飛ばされていく。


「バカな! こんな化け物が……!」

 グンカン部隊の隊列が、まるで津波に飲み込まれるように崩れさっていく。


「このままでは......くそおっ!」

 グンカンが馬から飛び降り、刀を抜く。「覚悟!」


 ギィィンッ!


 グンカンの刀が、メカ・ゴーレムの装甲に火花を散らす。しかし、グンカンの攻撃では、傷一つつけることができない。


「無駄、無駄、無駄。うはははっ!」

 丘の上から戦いをみていた討伐軍リーダーのコヤスが声をあげる「グンカン、おまえの程度の武勇では、このメカ・ゴーレムを足止めすることさえできんわ!」


 ギイイインッ!

 金属音の響きをあげながら、メカ・ゴーレムの巨大な拳がグンカンを襲う。


ドゴォォンッ!

「ぐがあああっ!」


 グンカンの体が、吹っ飛ばされる。


 メカ・ゴーレムが腕を、さらに振るう。

「「「うわあーっ」」」

 グンカンとともに、グンカンの兵士たちが、5人ほどまとめて吹き飛ばされた。


 「グンカン様ーっ!」

 血を吐きながら地面におちたグンカンに、部下たちが駆けよる。


「くうぅ……。オートン様のお体が健全なら、あの程度のメカ・ゴーレムごとき、たやすく討ち取ってくださったものを……」

 負傷して動けなくなったグンカンが、額から血を流しながら、くやしそうにつぶやいた。


 残った部下たちは、意識を失いかけたグンカンを馬に乗せ、急いで戦場から離脱していく。

 その背後では、メカ・ゴーレムが不気味な黒い目を向けて、着実に進軍を続けていた。



「うふふふ……、あはははははっ!」高台から戦場を見下ろすギリヲカーンの笑い声が、響き渡った。「さあ、これであの厄介者どもたちも始末できるわ! すべてがが私の思い通り……! くふふふふ」


 総崩れをおこし、敗走していくグンカン部隊を見て、ギリヲカーンは、これ以上ないほど喜びの声を高ぶらせた。

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