第13話
プリディの待つ客間にオートンが入ってきた。
「おまたせいたしました。プリディ様に寝間着のままでお会いするのはさすがに失礼かと、身なりを整えていました。思ったより時間がかかってしまって。本当に申し訳ありません」
「いえ、謝ることはありません。しかし、病気で長く寝たきりと聞いていましたが、思った以上に顔色がよくて安心しました」
「ありがとうございます。ところで、今日は、なにごとで?」
オートンが一礼し、「失礼します」と、プリディの対面のソファーに座った。
オートンは救国の英雄だ。国を救ったときに、前王から褒美として『王族の前で、許可なく椅子に腰掛ける権利』という超破格の待遇を授けられていた。
プリディがきりだした。
「ショージ陛下がお父様を牢獄に入れました」
「王位継承競争のときのとりきめに、チャークシ公の身柄には手を出さないという約束だったはず」
「そのとおりです。でも、国王はその約束を破りました。ショージ王は、父に王位簒奪の疑いをかけています。国王は、父が魔人たちと内通していると言っています」
「国を愛するチャークシ公が内通などするわけがない」
「父はモンゴラ帝国との戦争に反対していました。それが内通だと見られたようです」
「しかし、仲裁者のチャークシ公がいなくなれば、おそらくモンゴラ帝国は、この国に攻め込んでくるでしょう。そうなれば、この国はひどい戦禍にみまわれてしまう」
「どうすればいいでしょうか、オートン様。国の多くの領主たちが国王派です」
「すぐに王都に向かいましょう。わたし自身がチャークシ公を牢獄からお救いします」
そのとき、一人の人物がものものしく部屋に入ってきた。ナイヨール家の家臣団長であるグンカンだった。
「オートン様、大変です!」
「どうした?」
オートンが訊きかえす。
「国王軍が、オートン様を討伐するために派遣されたとのこと」
「なんだと!?」
オートンが立ち上がる。「モンゴラの脅威があるというのに、国内で仲間割れなどと……。ともかく、グンカン、すぐに家臣団を招集するんだ!」
「はっ!」
グンカンが答えた。
☆☆☆
討伐部隊の野営地。部隊長のテントの中に一人の若い男が立っていた。
オートン・ナイヨール伯爵を討伐するために派遣された王国第三騎士団副団長のコヤスだった。
「コヤス様、相手は、天下に名の轟いた豪傑。一騎当千といわれたオートン・ナイヨールです。長いあいだ病気に伏せっていたとのことですが、最近は健康になったと聞きました。たった500人の部隊で、本当に、オートンに勝てるのですか?」
コヤスの副官が話しかける。
「フフフ……。大丈夫だ。すでに手はうってある」
コヤスが言ったとき、兵士の一人がテントの中にやってきた。「どうした?」
「隊長の直筆の許可証を持った女が、お目通りを願っておりますが」
「来たか。よし、通せ」
「はっ」
しばらくして、一人の中年女がテントに入ってきた。邪悪な顔つき。
アーニの実母、ギリヲカーンである。
「準備は整っているか? ナイヨール伯爵夫人」
「はい、コヤス様。
「そうか。すべては
「はい。その後は、わが息子、アーニがナイヨール家臣団を指揮することになりますが、そのときは、筋書きどおりによろしくおねがいいたします」
「心得ておる。出来レースの戦いを立派にやりとげてみせるから安心するがよい」
「はい。コヤス様なら立派にやりとげていただけると信じております」
「そのためには、オートンだけは、戦いの前になんとしても始末しなければならぬ。そのことは大丈夫なのだろうな?」
「はい。そのことについて、抜かりはありません。わたくし自身の手で始末してごらんにいれます。どうか、ご安心ください」
ギリヲカーンが、黒い笑みをうかべた。
その表情を見て、コヤスの目が
「ククク……。しかし、そちも悪よのう」
「いえいえ、コヤス様にはかないません」
コヤスとギリヲカーンは、お互いに顔を見合わせる。
少しの間をおいてから……、
「「ふはははっ……」」
二人して、どす黒い笑い声をもらすのだった。
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