第11話

 しばらくして、ギリヲカーンがドタドタと、急ぎ足でアーニの部屋に入ってきた。


「アーニ、大変ですよ」


「どうしたのですか? 母上」


「どこで見初みそめられたのかは知りませんが、プリディ様が、おまえのことが大好きになられたそうなのです」


「なんと!?」


「さあ、アーニ! ドレスアップして、髪型もめかしこんで……。プリディ様にお会いするのですよ!」


「しかし、プリディ様は、反国王派なのでは?」


「それはそうですが、もし、あなたが王族公爵家の一人娘に婿入りできたら、わたしたちの生活は一生安泰ですよ! 前もって他の選択肢を用意しておくのも、リスクマネジメントというやつです」


「さすがは、母上。計算高いだけあって、隙がないですね!」


「おほほほ……、そんなに実母を褒めるものではありませんよ」



 ☆☆☆



「さあ、アーニ、この扉の向こうにプリディ様がいらっしゃいますよ!」

 客間の扉の前で、ギリヲカーンが言った。


「はい、母上」

 アーニが答える間にも、扉の向こうでプリディ声が聞こえた。


「ああ……、ついに、ついに、あの愛しの君に、再会できるのですね! わたしは、なんて幸せなのでしょう!」


 プリディの言葉に、アーニが、「ふふふ……」と、ほくそ笑みながら、部屋に入った。


 客間には、美しくもかわいらしい、プリディがソファーに座っていた。王族公爵の娘だけあって、気品の高さもはんぱない。


 アーニがプリディの前にすすみでる。


「プリディ様、お初にお目にかかります。わたくしこそは、まごうかたなき、正真正銘、寸分たがわぬほどのナイヨール家の正当な跡取り、アーニ・ナイヨールでございます!」


 キリリッ!

 アーニは、せいいっぱい格好をつけた顔つきをして、ジョジョ立ちのような決めポーズをした。


(どうだっ! これで、王族公爵家の令嬢も俺にメロメロだなっ!)

 アーニが確信したときだった。


「なによ、この糞デブ脂肪のかカタマリはっ! ゲロ不細工ぶさいくすぎでしょ! おととい来やがれ、このトウヘンボク野郎!」

 プリディは、カンカンになって大きな声をあげた。


「ひえええっ。ごめんなさーい」

 アーニは、逃げるようにして部屋を出ていった。アーニは、自分より地位の低いものに対しては、やたら威張り散らす。しかし、地位の高いものにはすごく臆病なのだった。


 アーニの逃げていく姿をにらみつけるプリディに、

「お嬢様、言葉づかいが、少々お下品ですよ。公爵令嬢の気品を忘れないでくださいませ」

 おつきのメイド、カーセイフが、ため息をつきながら、たしなめた。

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