第10話

「ああ、わが愛しの君……。あの凛々しい横顔。まるで彫刻のような完璧な造形。想像するだけでわたしの心が高鳴っていくのがわかる……」


「プリディ様、さっきからおかしいですよ」

 護衛もかねた、おつきの戦闘メイド、カーセーフ。彼女が見るプリディは、まさに恋する少女だった。それもかなり重症の……


「ああ、あのワイルドな瞳。すばらしく強く、かっこよすぎるお姿。思い返すだけで胸が締めつけられそう」


「…………」


「ああ……、もう一度、どうしても、あのお方にお会いしたい……」


「プリディ様、ナイヨール伯爵領にやってきた、本来の要件はお忘れですか?」


「もちろん、忘れてないわよ、カーセイフ。でも、あの方の素晴らしい姿が、どうしても頭の中からはなれないの」


「ナイヨール伯の前で、そんなふうに目をハート型にしたままでいないでくださいね」


「わかってるわよ。でも、今思うと、あの愛しいお方は、貴族の服を着ていたわ。たしか、ナイヨール伯爵にも、あれくらいの年頃の子息がいたはず。きっと、愛しのわが君は、ナイヨール伯爵のお子様にちがいないわ。そうとわかれば、カーセイフ、急ぎましょう!」


「もう、お嬢様ったら……」

 乗っている馬の脚を速めるプリディの後を、カーセイフがあきれぎみに、やれやれと肩を落としながらついていった。


  ☆☆☆


「奥様、お客様です」

 ナイヨール家、執事セバスが部屋に入ってきて言った。


「どうせ大したことない客でしょ。すぐに追い返しなさい。こっちはオートンを毒殺するのに忙しいのよ」

 ギリヲカーンが答えた。


「それが、いらっしゃったのは、ランドール公爵の一人娘,

プリディ様でして」


「え? どうしてプリディ様がこんな田舎に? すぐに、客間へお通しなさい。いえ、わたし自身でご案内するわ」

 思わぬ客の名をきいて、ギリヲカーンがいそいそと立ち上がった。


  ☆☆☆


「よくいらっしゃいました、プリディ様。さあさあ、こちらへどうぞ」

 ギリヲカーンが、できるかぎりの作り笑いをして、プリディを客間へと案内する。


「ギリヲカーンと言ったかしら?」


「はい、プリディ様。わたしが、ナイヨール家の正当な嫡男アーニの実母、ギリヲカーンでございます」


「ここに来る途中で、わたし見たのよ。とても素敵な人を」


「と、おっしゃいますと?」


「ああ……、今思い出しても心がときめくわ。超イケメンすぎるワイルドなお顔立ち。すずしげな切れ長の目。知的な瞳……。澄んだ声……」

 プリディは、ひとしきり感情をわきたたせてから、言った。「そして、その愛しきお方は、少年で貴族の服を着ていたの。たぶん、ナイヨール伯爵のご子息だと思うわ」


「はい。このギリヲカーン、そういった少年を一人知っております」


「本当!?」

 プリディの瞳がキラリと光った。


「はい。その人物こそは、わたくしの実子で、ナイヨール家の正当な跡取りであるアーニにほかなりません! アーニは顔も性格もとってもよいのですよ! その姿は、まさに美の化身のようですわ!」

 ギリヲカーンは、そうとうな親バカであった。

 

  ☆☆☆


 来客があったときいて、アーニは自室の扉の隙間から、廊下をのぞいていた。あまり行儀のいい行為とはいえないが、屋敷でのアーニのふるまいは、いつもこんな感じだった。


 ギリヲカーンに案内されて、2人の人物が客間へと向かっていく。


 少女につき従う若いメイドも相当な美少女であった。が、アーニの目線は、主人である少女のほうに引きつけられた。


 キュイーンーーーッ!

 アーニの心は、ツインターボエンジンのように、高レスポンスで吹けああがった。

 胸がときめき、心臓が激しい鼓動をうつ。


「なんて、かわいい……。あんなにステキな女の子が、この世にいたなんて……」

 アーニは、たちまち、プリディに一目惚れしていた。




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伯爵家おちこぼれ次男坊、最強すぎる魔王《ラスボス》となり破滅フラグを折りまくる 眞田幸有 @yukisanada

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