第7話

 リーリャの変化を、少し離れたところから、つぶさに見ているものがいた。黒猫のニャーゴである。


「ついに覚醒しおったか? いよいよ魔王へと変化するときが来たか?」

 ニャーゴがつぶやく。


 リーリャは、暴虐なまでに王国騎士団の兵士たちを圧倒する。


 ニャーゴが、固有スキル魔眼(黒)を発動した。


 リーリャの体からは、どす黒い瘴気しょうきのような霧がわきあがり、周囲に広がっている。


 少ししてニャーゴが目を細めた。

「いや……、完全には覚醒しておらんか。まだ、半覚醒といったところか?」


「ぎゃはははっ!」

 魔王へと半覚醒していたリーリャは、王国騎士団をすべて倒した後、両脇に美少女2人を抱きながら叫ぶ。「あくなき暴力と美しい女! これこそが、俺様の生きる道だぜえぇぇぇぇ!」


 リーリャが叫んだときだった。

 リーリャの体から、どす黒い瘴気しょうきが、ブハッと大量に周囲に漏れた。


同時に、『魔王の核』にまった負の感情エネルギーが、なくなってしまっていた。


 その瞬間、リーリャの表情が一変する。魔王のように凶悪だった顔つきが、元のおだやかな、やさしいものに戻っていた。


「あれ、僕、いったいなにを……?」

 そこでリーリャは、両脇に少女2人を抱きとめているのに気づいた。「うわああああっ! ごめんなさーいっ!」


 リーリャは、2人の少女を地面に下ろす。

「そういえば僕は……」

 リーリャが思い出すようにつぶやいた。「……まとめて、俺様の玩具コレクションに加えてやるぜ。はらみ袋ぶくろとして……。うわあああっ。僕は、なんてことを言ってしまってるんだ。ほんとうに、ごめんなさーいっ!」


 リーリャが逃げるように走り去っていく。


「ちょっと、あなた……」

 カーセイフが声をかけるが、リーリャの姿は、あっという間に見えなくなってしまった。


「なんだったんですか? あの子は?」

 カーセイフが、呆然としながら、リーリャが走り去った方を見やる。


 そのとき、プリディがつぶやいた。

「素敵なお方……」


「え?」

 驚いたカーセイフが目をみひらく。


「なんてワイルドで荒々しい。超好み」


「……まさか、お嬢様がそのような性癖を持っていたなんて」

 カーセイフはかなりショックな様子だった。


「ああ……、お名前をおたずねするのを忘れてしまったわ。せめてきちんとお礼ができたらよかったのに……」


「お嬢さま!?」


「ランドール家の諜報部隊を使えば、彼の身元を探すことができるかも」


「それって、ちょっとストーカーっぽくないですか?」


「もう一度会って、ちゃんと恩は返さないといけないものね」


「それ、ただ会いたい口実がほしいだけなんじゃ……」

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