第6話
馬にのった2人が、細い道を走っていた。
馬上にあったのはドレス姿の9歳、公爵家令嬢プリディ・ランドール。もうひとりは、お
「ここくらいまでくれば、もう大丈夫だわね」
「…………」
「まあ、王国軍も思ったほどではなかったわね!」
「お嬢様、まだ油断は禁物かと……」
「わかってるわよ」
言った途端だった。
前方の
「王国騎士団……、まさか先回りされてたなんて!」
少女たちも戦闘力には、そこそこの自信があった。だが、王国の精鋭である騎士団は強敵だ。
「お嬢様、逃げましょう」
2人の少女は、馬を返して反対側へと駆け出そうとした。しかし、背後にもおなじく王国騎士団が10人以上現れる。
「挟まれた!」
「くっ」
プリディとカーセイフが唇をかみしめる。
騎士団のリーダーが前に進みでた。
「プリディ様、残念ですが、ここで死んでいただきます!」
「そうやすやすとは、やられないわよ!」
プリディもカーセイフも、背中に長剣を背負っていた。2人が剣を抜くと同時に、騎士団も剣を抜き放つ。
数分とたたず、プリディとカーセイフの息があがりはじめる。小さな切り傷も多数負っていた。一方で、騎士団のフルプレートは特別な鋼でつくられていて、剣を通さない。
装備だけでも、圧倒的に不利な状態だ。
「我々を相手に、これだけの時間生きのびただけでも、
騎士団のリーダーが仲間とともにせまってくる。
絶体絶命……、のはずだった。
「ぎゃははははっ!」
不意に、狂気じみた笑いが轟いた。
現れたのは、1人の少年だ。年齢はプリディとそう変わらないだろう。
ただ、その顔つきが凶悪だった。まるで悪魔のような顔つき。
「な、なんだ、おまえは?」
騎士団のリーダーは驚き顔だ。
「俺様は、大魔王。この世界の真の支配者だああああっ!」
少年が叫ぶ。
「気でも狂ったかっ! ええいっ。こやつを切り捨てろ!」
騎士団のリーダーが兵士たちに命じた。
「「「うおおおおっ」」」
フルプレートと重厚な盾、そして白銀色の長剣を装備した騎士団の兵士たちが、いっせいに少年に襲いかかる。
一方で、少年は丸腰だ。見たところ、なんの装備も身につけていない。
だが、凶悪な顔をした少年の表情は余裕だった。むしろ、この状況を楽しんでいるように見える。
「ぎゃはははっ。そうこなくちゃな! てめえら全員、血祭りだああああっ! 虫けらのクソ野郎どもには、まとめて殺処分だぁ!」
戦闘の兵士が振りかぶった長剣を
ガッ。
少年が剣を受け止めた。手のひらでだ。
「なんだとっ!? どういうことだっ??」
王国騎士団がふるったのは、秘蔵のドワーフ鋼をつかって
人間の体くらい骨ごと簡単に真っ二つにできる名剣の刀身を、謎の少年が素手で握りしめていた。
「ぎゃはははっ! 死ねやーっ!」
少年が空いていた方の手で兵士の胸を殴った。
ドゴッ。
特殊鋼で作られたフルプレート鎧の胸部装甲が、深く陥没した。
「うがっ!」
殴られた兵士は、口から血を吐きながら地面に倒れる。
「「「なっ」」」
残りの兵士たちが一瞬ひるむ。
「どうした? 我々は名誉ある王国騎士団だぞ。ひるむなっ! 相手はたった1人。周囲から囲んで切り捨てよ!」
「「「うおおおおっ!」」」
気を取り直した兵士たちが、少年を取り囲んだ。
群れるようになった兵士たちの姿で、たちまち少年の姿が見えなくなる。
一見、少年は兵士たちに制圧されたかと思われたが……
ドゴッ。バキッ。メキッ。
兵士たちの群れの中心から聞こえてきたのは、不穏な音だった。
バキバキ……。グシャッ。
「ぎゃあああああっ!」
突然、兵士の群れの中心あたりから、1人の兵士の体が空中へと飛び上がった。首と体がちぎれて、分離している。鮮血を撒き散らしながら、兵士の体が空中でくるくると回転する。やがて、数十メートル離れたところに落ちた。
そこからは早かった。次々に、兵士たちの首や四肢、鮮血がとびちっていく。
「ぐははははっ! 胸の奥から、どんどんと湧いてくるぜ。荒れ狂う暴力への衝動、破壊への渇望! たまらねえぜ! 全員まとめて、虐殺だああああっ!」
悪辣な人相をした少年が叫び、次々に兵士たちの体を破壊していく。
「くうっ。ひるむなっ! 相手は小さな子ども、たった1人だ。突撃するぞ、続けーっ!」
「「「うおおーっ!」」」
騎士団リーダーが叫んで突進すると、兵士たちが後に続いた。
しかし、彼らが人間でいられたのも、数秒の間だった。少年に迫った瞬間、次々に体は破壊され、四肢や首は引きちぎられ、バラバラになってしまう。
あっというまに、精鋭のはずの王国騎士団の一部隊が壊滅していた。
「ぐへへへ……」
少年は、残った2人の少女に近づいていく。
「お嬢様、お逃げください!」
カーセイフがプリディをかばうように前にでた。
「逃がすかよ! うへへへ……。てめえら、よく見ると、2人ともなかなかかわいいじゃないかっ! まとめて、俺様の玩具コレクションに加えてやるぜ。
2人の少女は抵抗したが、まったく相手にならない。
2人の少女は少年の両腕に抱えられると、さらわれるように連れさられそうになる。
「いやーっ! 誰かぁあああ!」
それまで、男勝りで気強そうなカーセイフが、まるで、かよわい乙女のように悲鳴をあげた。
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