第2話

「そういえば、神様は経験値を稼げば、もっと強くなれるみたいなことを言ってたような……」


 僕は、鑑定のスキルを使い、自分のステータス画面を開いた。



☆――――――――――――――――――――☆

 【名前】 リーリャ・ナイヨール

 【職業ジョブ】 初心者ノービス

 【レベル】1

☆――――――――――――――――――――☆



 職業ジョブって項目があるけど、なにか条件を満たせば、より強力なものに転職できるのかな? よくわからない。


 ともかく、僕は、狩りをすることに決めた。


 僕の家は、没落貴族だ。屋敷は立派だったけれども、古びていて使用人の数は少ない。

 僕は、かなり自由に放任されていた。


 屋敷の門をでて、裏の森へと向かう。


 ベルトで腰にるしていた短剣を手にとる。


 短剣を鑑定してみた。



☆――――――――――――――――――――☆

 【平凡な鉄の短剣】

 ・付与効果なし

 市場価格8000ゴルデ

☆――――――――――――――――――――☆



 鉄の短剣は、ぴかぴかにみがかれていたけれど……、英雄が持つような名剣には程遠い。もっと、いい装備があればいいのだが、今の僕に用意できるのは、これが限界だった。


 短剣を握ったまま、僕は森のなかに分け入った。


 数分歩いただろうか。


 ガサッ。


 音がした。前方のくさむらの中に、なにかいる。


 そいつは、ほどなく姿をあらわした。


 野生のイノシシだ。


 特別な種ではなく、一般的なイノシシだが、かなり大型の個体だった。体重300kg近くあるのではないだろうか?


 そういえば、領内の農民たちが、畑をイノシシに荒らされて困っていると言ってたはず。このイノシシを退治たいじすることができれば、農民たちを少しでも助けることができるのかな?


 巨大イノシシと向かいあう。


 ごくっ……。


 緊張に、思わず、つばを飲みこんだ。


 僕の身体能力は、すでに一般人よりははるかに高いはずだった。でも、まだ圧倒的にチートというには程遠ほどとおい。特に戦闘は全く未経験だ。


 じっさい、今の僕は、レベル1であるのに変わりない。


「やれるか?」


 巨大イノシシとの距離は、10メートルもない。もう、逃げるには遅かった。戦うしかない。


 イノシシが突進してくる。


「速い!」


 かろうじてイノシシの突進をかわす。イノシシは勢いのあまり、しばらく進んでからようやく停止し、振りかえった。


 僕は、ふたたびイノシシと向き合う。


「どうする?」

 僕が持っているのは、ただの短剣。攻撃して、イノシシの顔に多少ダメージを入れられたとしても、その瞬間、こっちがふっとばされてしまう。


 2回目のイノシシの突進をかわす。


 でも、かわしてるだけじゃ、いつかやられてしまう。


 さくはあった。


 イノシシは真っ直ぐにしか突進できない。そこに、つけ込むすきがあるはずだ。


 イノシシの3回目の突進。僕は、スライドするように、すばやく横に移動する。イノシシが、眼の前を通り過ぎようとする。とっさに、僕はイノシシの首に短剣をつきたてた。


 グサッ。

 たしかな手応てごたえ


「グオオオオーッ!」

 イノシシの巨体がえた。


 突進をやめて、振り返ったイノシシの首から大量の血がこぼれおちている。


「うまく頸動脈けいどうみゃくを切れたかな?」

 僕が見つめる中も、イノシシの血の流れはとまらない。


「いけそうだ……」


 こうなれば、もう危険をおかしてまで、攻撃を入れる必要はない。僕がやることは、イノシシの突進をかわしつづけるだけだ。


 数度、突進をかわす。みるみる巨大イノシシの動きが鈍っていき、やがて地面に倒れた。もちろん、首からの出血多量が、イノシシの死の原因だ。


「――思った以上に動ける!」


 神様からもらった身体能力は、実戦でも十分に通用するようだ。



☆――――――――――――――――――――☆

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 …………

 ……

 …

☆――――――――――――――――――――☆



 レベルアップの表示が、なかなか止まらない。


「巨大イノシシとはいえ、一匹倒しただけなのに、どれだけレベルがあがるんだ?」


 ようやくレベルアップの表示が停止してから、僕はあらためて、自分のステータス画面を開いた。



☆――――――――――――――――――――☆

 【名前】 リーリャ・ナイヨール

 【職業ジョブ】 ノービス

 【レベル】31

☆――――――――――――――――――――☆



「イノシシ一匹倒しただけで、レベル31?! レベル30って、たしかCランク冒険者の戦闘力だぞ」


 Cランクといえば、冒険者として一人前とされるランクだ。


「僕がCランク相当? まだ9歳なのに???」

 驚きのあまり、僕は呆然ぼうぜんとなって立ちどまった。


「……そういえば、神様は、僕にチートな経験値ボーナス能力をつけてくれてるんだっけ?」


 ステータス画面を操作して、自分のスキル画面を開いてみた。



☆――――――――――――――――――――☆

 ・経験値ボーナス100倍

 ・成長速度ボーナス100倍

☆――――――――――――――――――――☆



「えー、これって、つまり、100倍×100倍で、経験値補正1万倍ってことーっ!? 神様、ちょっとやりすぎじゃないー?」

 僕の声は、驚きをとおりこして、ちょっとあきれたものになっていた。

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