第1話 ブランコがきっと返ってくるように僕らはここで再会をする
家族にバレないようにこっそりと家を出た時には、時計は午前二時を回っていた。
僕は、こんな夜中にLINEで呼び出してきた幼馴染のサラサラと揺れる短髪とコロコロ変わる表情、そして笑顔のお手本のような綺麗な笑い方を思い浮かべた。
待ち合わせ場所の公園は、小走りで2分とかからない。
小学生のころよくサッカーなんかをした、そこそこ広めの児童公園だ。
球技を禁止する看板は当時からあったが、幸いそんなことを咎める人はいなかった。
一目で夏用の寝巻きと分かる、黒のプリントTシャツと中学の体育用のハーフパンツ。
髪は相変わらず短いが、以前より少し伸びたようだ。
途切れることのない虫の合唱の中、ブランコは音も無く規則的に動き続けている。
僕が来たことに気づいて、愛美はブランコの動きを止めて片手を上げた。
「よ」
「おう」
街頭の白い光の中に浮かび上がる懐かしい顔に微かに
僕を待っている間愛美が脚を伸ばしてブランコを漕いでいたのは、そっちの方が体が楽だからだろう。
「
「いや、もう寝てた。愛美は?」
「私も言ってない。てか、よく起きてたね」
「なんか眠れなくて。」
「やっぱり勉強?」
「ああ、どうせ寝れないから少しだけ。愛美は?」
「私も全然寝れなかった」
「夏休み永遠に続いて欲しすぎるよな」
「分かる」
絶え間ない虫の音の中、ブランコに揺られながら言葉を交わし合う。
今夜は熱帯夜だ。
ブランコを漕いでいるので少しは風を感じることができるが、それでも次から次に汗が出る。
「てか、暑いね」
「ほんとに暑い」
「暑い中、そして夜分遅くに来てくれてありがとう」
「どういたしまして」
「私、大学は絶対涼しいとこに行く」
「夏涼しい場所は冬は寒いんじゃないか?雪がたくさん降るとか」
「雪は好きだよ。綺麗だし」
「滅多に降らないからそんなこと言えるんだ。絶対大変だって」
「じゃあ、ここよりは涼しくて、でもそこまで雪が積もらない場所にする」
こうして愛美と言葉を交わしていると、まるで自分たちが中学生、はたまた小学生に戻ったかのように思えてくる。
愛美は同い年。
小三の時僕が引っ越して来てからの付き合いで、中学では同じ吹奏楽部に所属していた。
楽器の腕も成績も面倒見もよく、三年のときは部長を務めていた。
対して僕は、勉強こそ人より出来たが楽器の演奏では周りに支えてもらうところが大きく、フルートを構える愛美の小さな背中を本当に頼もしく思っていた。
僕らは今では高校二年生。
別々の学校に通っている。
愛美は強豪校に入って引き続き吹奏楽を続けたが、僕は部活には入らなかった。
その後も誰々は元気かとか模試の結果はどうだったとか志望校は昔から変わっていないのかとかだらだら世間話を続ける愛美に、僕は呼び出した目的を尋ねられないでいた。
ただ訊かれたことに答え、同じ質問を返し、相槌を打ち続けた。
二つのブランコは一定の動きを繰り返し続け、そのタイミングが重なることは決してなかった。
会話と沈黙を繰り返してもうじき午前二時半になろうかという時、愛美は母校巡りをしないかと提案してきた。
「我らが朝日小と西中を見にいくの。きっと懐かしい気持ちで一杯になれるよ」
「さすがにこんな遅くに歩き回ってたら補導されるって」
「こんな遅くには誰も起きてないから平気だよ」
愛美はもう行く気満々なようで、立ち上がって軽く身体を伸ばし、そのまま僕に構わず歩いていってしまった。
繁華街でもなんでもない住宅地で決して治安が悪い訳ではないが、かと言って一人で行かせる訳にはいかない。
僕は観念して愛美の後を追った。
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