とある町にて④:Day10『散った』

「すまないが、合流するのはもう少しだけ待っててほしいんだ」

 アルタイルの言葉に、フリィたち四人は顔を見合わせた。

 困惑というよりも不思議そうな表情をしている彼らは、首を傾げながら改めてアルタイルへと視線を戻す。そして、アウトリタが返事をする。

「それは別に構わねぇけど、……何かあったのか?」

「ああ。それが、この間の嵐でタラゼドたちの家が被害に遭っちまったみたいでさ。助けてくれたお礼に直すのを手伝っていたんだが、それを最後まで手伝いたいんだ」

 アルタイルの、彼らしい真っ直ぐな言葉にタラゼドは困ったように頭を掻く。

「おまえなあ。おれが頼んだわけじゃないんだし、そんなこと気にしなくていいんだぞ?」

「俺が気にするんだ。タラゼドたちの迷惑じゃなければ恩返しをさせてくれ」

「そりゃあ、こっちとしては手伝ってくれるのは有り難い申し出だけれど、一緒にいかなくて大丈夫なのか? せっかく記憶を失う前のおまえの仲間に会えたのに」

「そんなの全然大丈夫だよ! むしろ、私たちにもお家を直すの手伝わせてよ!」

 タラゼドの心配にレジーナが笑顔で答えた。

 それに目を丸くしたのはタラゼド本人だけでなくアルタイルもだった。行き倒れていたところを助けられたアルタイルはともかく、レジーナたちにとってタラゼドは見ず知らずの他人である。それなのに、何の迷いもなく協力を申し出るとは、しかも彼女個人ではなく複数形で言われるとはタラゼドはもちろんアルタイルにも予想外だった。

 そんな彼女の言葉に続くようにモイが頷く。

「ワタシも手伝いたい」

「だな。家を直すのに人手はいくらあっても困んねぇし、オレは何度かやったことあっから戦力になれると思うぜ」

「決まりだね。タラゼドさんさえよければ、僕たちも手伝うよ」

 フリィの言葉にタラゼドは戸惑った様子を見せる。

「そりゃあ有り難いけど、いいのか? あんたら、旅の途中なんだろ?」

「大丈夫だよ。急ぎの旅じゃないし、それに、ヒロだけじゃなくて僕もみんなも、困ってる人を放っておけない性分だからね。……あ、でも。みんな、ヒロのこと心配してたから、先に残りの仲間と合流させてもらうけど」

「ああ。それはもちろんだ。ありがとうな、あんたら。恩に着るよ」

 タラゼドは嬉しそうに笑った。

 話がまとまったところでアルタイルが背後を振り返る。

 それを追うように他の人も彼の後ろへ視線を向ければ、そこには買い物を終えた村人たちが談話しながらアルタイルとタラゼドを待っている姿が確認できた。

「タラゼド。みんな、買い物が終わったみたいだ」

「だな。待たせちまって申し訳ないな。ちょっくら説明して来る」

「ああ、頼んだ」

 タラゼドが村人たちの元へ向かい、状況を説明し始めた。

 それを確認してからアルタイルはフリィたちに向き直る。

「フリィ、だったよな。タラゼドの家はこの町じゃなくて森の中の村にあるんだが、フリィたちは先にタラゼドの家に来るか? それとも、全員揃ってからのほうがいいか?」

 その問いにフリィたち四人は顔を見合わせた。

 フリィもアウトリタもどちらでも良かったので判断を委ねたのである。

 唯一、仲間たちの出方を窺っていたレジーナが口を開く。

「それなら、一足先にタラゼドさんのお家に行くのがいいと思う! そしたら、もしお家を直すのに必要な物が足りなくても、明日仲間と合流するついでに買えるよ!」

 レジーナは名案 だといわんばかりの口調で言った。

 しかし、その言葉にフリィは困った顔をしてアウトリタは呆れた様子をみせた。

 ひとつ頷いたアルタイルが問い掛ける。

「なるほどな。だが、その案でいく場合、どうやって残りの仲間と合流するんだ?」

「それはね、誰か一人がタラゼドさんのお家には行かずに、残りの仲間のとこに行くの! それで明日、タラゼドさんのお家がある村にいる誰かとこの町で待ち合わせすればいいんだよ!」

 それを聞いたアウトリタが深いため息を吐く。

「で、レジーナ。その一人をお前がやろうって話だろ」

「あれ? トリ、よくわかったね!」

「そりゃ、ほぼ毎回同じことしてっからな、お前」

「だって、この間ストックしてた素材を使い切っちゃったんだもん。だからセプたちとの待ち合わせ場所に向かうついでに採取したくって」

 あっけらかんと告げるレジーナに、アウトリタは肩を竦める。協調性がありながらもちゃっかり個人の利益を優先している彼女の言動に呆れているのだ。

 フリィが納得した様子でひとつ頷く。

「うん、そうだね。結局誰かが別行動になるんだから、それならレジーナにお願いしようよ」

「任せてよ!」

 彼らの話にアルタイルが怪訝そうに眉を顰める。

「ここで俺が口を挟んでいいのかわからないが、レジーナ一人で大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ! こう見えて私、弱くないよ!」

「そうだね。たぶん、僕たちの中で一番生存率が高いのがレジーナだよ」

 フリィの言葉にアルタイルは目を丸くした。

 信じられないと言わんばかりに心底意外そうな顔をしているアルタイルを見て、レジーナはおかしそうに笑う。

「ふふ、記憶が失くなっても心配性なのは変わらないんだね」

 ちょうどそのタイミングでタラゼドが戻ってきた。

「アルタイル。こっちはそろそろ村に帰ろうって話になったけれど、そっちはどうだい?」

「ああ、ちょうど話がまとまったところだ」

 そう言ってアルタイルはフリィを向いた。

 同意するようにフリィは頷く。

「僕とモイとトリたんがこのまま一緒に村にお邪魔するよ。レジーナは明日、残りの仲間たちを連れてもう一度この町に来るから、明日また迎えに来ようと思ってるんだ」

「おう、わかった」

 タラゼドはニッと笑って了承した。

 今までずっと黙って話を聞いていたモイが、レジーナの袖を引っ張る。

「レジーナ、気を付けてね」

「ありがと! モイも気を付けてね!」

 モイの言葉にレジーナは笑顔を返すと、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。モイは相変わらず無表情だが、されるがままになっている辺り、悪い気はしていないらしい。

「あ、そうだ。レジーナ」

 続けてフリィがそう声をかけ、レジーナに何かを耳打ちする。内緒話を聞いた彼女は一言、二言フリィに返事をしてから神妙な顔で頷いた。

 それからレジーナはウエストバッグと腰に下げたレイピアの位置を直すと、よし、と呟く。

「じゃあみんな、また明日、この場所でね!」

 レジーナは明るい声でそう言った。

 そうして、片手を振って挨拶をしながら彼女は軽い足取りで駆け出した。

 それを見送ってから、アルタイルは残ったメンバー全員を見回す。

「よし。じゃあ俺たちも行こうか」

 その言葉に一行は揃って頷いた。

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