とある町にて③:Day09『ぱちぱち』
タラゼドは困惑した様子でぱちぱちとまばたきをしていた。
白髪の少年はなんてことない口調で説明を続ける。
「それで僕たちは、ひとまず町長への報告も兼ねてレストの町に戻ったんだけどヒロは見つからなくて。だからこっち側のフォレスの町と、森の二手に分かれて捜してたんだ」
見つかって良かったよ、と少年は笑った。
しかし、その説明に現実味を感じられなかったタラゼドは、様子を窺うように隣のアルタイルへと視線を向ける。彼は不思議そうな、どこか困ったような表情を浮かべていた。
タラゼドはそんなアルタイルの背中を軽く叩く。
「どうだ、アルタイル。何か思い出せそうか?」
「いや。それがさっぱり思い出せないんだ」
アルタイルは苦笑しながらも、あっけらかんと答える。
「本当に俺の話なのか現実味がないというか、他の人の話を聞いてる気分なんだ」
そう続けたアルタイルの、申し訳なさそうにしているものの正直に告げる辺りに彼の性格が窺える。誠実でお人好し。そんな少年なら条件によっては川に飛び込むぐらいやってのけそうだとタラゼドは思っているが、状況が状況である。フリィの説明を聞いた限りでは、自ら川に入る理由は見受けられなかった。
タラゼドは耐え切れず、フリィに問い掛ける。
「しかしまあ、何でまたこいつは氾濫してる川に逆戻りしたんだ?」
「何となく想像はつくけど、間違ってる可能性もあるから僕の口からは言えないかな」
フリィの返答にレジーナが口を尖らす。
「ちょっとフリィ! 何でヒロの時はちゃんと内緒にできるの?!」
「まあまあレジーナ。お前が口出すとややこしくなっから少し黙ってろって」
「トリってたまにすんごく失礼だよね」
そう口を尖らせながらもレジーナは素直に口を閉ざした。
フリィはそんな彼女を微笑まそうに見てから改めてタラゼドに向き直る。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。僕はフリィ。ヒロを助けてくれてありがとう」
「困ってる時はお互いさまだ、気になさんな。おれはタラゼド。ひとつ聞きたいんだが、あんたらはこいつを探してこの町に来たんだろう? なら、これからどうするつもりだ?」
「僕たちは、別の場所を捜索してる仲間と合流したいと思ってるよ。ね、みんな」
フリィの声掛けに三人は同時に頷く。
それから、最初に口を開いたのは茶髪の少年だ。
「そうだな、アイツらも心配してたし、ひとまず知らせてやんねぇとな。っと、オレはアウトリタだ。よろしくな」
「ワタシはモイ。よろしく」
アウトリタに続いて桃髪の少女モイが、片手を挙げて自己紹介をした。
他の三人と比べるとどこか幼さのある彼女は、見た目に似合わず淡々とした口調で、しかも今の今までずっと無表情である。そんな彼女にアルタイルもタラゼドも思わず怪訝そうな顔をする。だが、仲間たちは誰一人気にしないのでモイとはそういう子なのだろう。
水色の髪の少女が明るい笑顔で言う。
「私はレジーナだよ! ねえねえ君……ええと、今は何て呼ばれてたっけ?」
「俺か? アルタイルだ」
「そっか。その名前で呼んだほうがいい? それとも、ヒロのほうがいい?」
「俺はどっちでも構わないが……何でそんなことを?」
「んー? なんとなく、かなあ」
レジーナはへらりと笑ってそれ以上の言及を避けた。
彼女のほうからこの話題をしたので何かしらの意図はあるのだろう。だが、それを口にしないのなら、これ以上は触れないほうがいいのかもしれない。
アルタイルは爽やかに笑う。
「そうか。なら、レジーナの呼びやすいほうで呼んでくれ」
彼の言葉にレジーナはきょとんとした。
それから彼女は理解できないと言った様子でぱちぱちとまばたきをしている。アルタイルとしては変なことを言ったつもりはないのだが、意外そうな顔をしているレジーナには突拍子もない言葉に聞こえたのかもしれない。
ややあって、彼女はひとつ頷くと、パッと表情を明るくする。
「うん。わかったよ、『ヒロ』」
レジーナはそう言ってふにゃりと笑顔を浮かべた。
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