day27:鉱物
妹のアパートの前に車をつけて電話したら、妹は電話を鳴らしっぱなしの状態で降りてきた。妹が助手席のドアを開けようとするのを見ながら私はコールを切り、助手席に置いていた鞄を後部座席に放り投げながら妹を迎えた。
妹がシートベルトをするのを確認して、じゃあ出発、と言った私に、妹は「ちょっと待って」と言いながら、膝の上の鞄から缶を取り出した。
「これ、いただきものなんだけど、おいしかったから飲みながら行こ。桃とパインどっちがいい?」
「え、じゃあ桃」
「了解」
缶を開ける音がする。私は、ありがと、と言いながらウィンカーを上げ、後ろと前を確認してから車を出した。
市役所勤務者の休みの日だから、まあ、暦も休みであって、ということはお客さんは、多い。私はとりあえず知っている雑貨屋さんにまず向かうことにした。
車内で妹と、どういうルートでどこに行こう、と話す。いくつか回ってみて、その中で良かったやつを改めて買いに行くか、まあまあ良さそうなのがあったら、もうそこで決めちゃうか。お客さんの数、というか、駐車場の空き次第かなあなんて言いながら。私たちが回ろうとしている雑貨屋さんは、どこもそんなにたくさんは駐車場がない。少ないところなんてお店の前に一台しか駐められないっていうから、駐車がそんなに得意じゃない私は今から既に戦々恐々としている。
一軒目はそもそもじょうろ自体置いていなかったから、私たちは次に、妹が探したお店に向かった。電話番号をナビに入れて、言われたとおりの道で。着いたお店はカフェを併設した、割と大きなお店だった。文具屋さんに生活雑貨のお店がくっついたみたいな。
じょうろは一つだけあったけど、私がホームセンターで見たのとほとんど変わらなかった(値段は除く)。置いてるお店が違うだけでずいぶん雰囲気変わるな、と思いながら私は妹の反応を見たけど、妹もいまいちピンと来てないみたいで、私は安心した。これでいいならホームセンターに戻って買うし。
せっかくの広いお店なので、私たちはじょうろ以外も店内を見て回り、シュールなキャラクターもののシールがいっぱい並んだ棚の前で大人げなくコメントを述べ合ったり、普通の事務ファイルやマステの並んだ棚の前で推しのイメージカラーの組み合わせを探したりした。言うまでもなく我々姉妹はオタクである。ツイッター(じゃないな、今は)廃人の妹は副流煙でいろんなジャンルに広く浅く触れているけど、私は心に決めたキャラクターひとりを一生愛でるタイプのオタク。まあ、未来は分からないけど。
ちょっと早いけどお昼にしようかと話して、お店を出ようとしたときに、出入り口のすぐそばに夏休みの自由研究向けの雑貨があるのに気がついた。
天然石のつかみ取りみたいなのもある。なめらかに磨かれた、いろんな色の石が入っているけど、それがなんという石なのかは書いてない。私はそのうちのひとつをつまみ上げた。私の推しカラーの、紫。
「これはさすがに私でも知ってる」
私が言うと、妹は、なんだっけ、と聞いてきた。
「紫水晶だっけ……」
「呼び名が渋いな。アメジストだよ」
「そうか。買うん?」
私は、いや、と答えながらその、親指の先くらいの石をボウルの中に戻した。
「買うなら磨かれてない、生えたままの形のやつか、もしくはちゃんと宝石みたいにカットしてあるやつがいいな」
「まあ、丸いのイメージ違うもんね」
「よくおわかりで」
そう、妹は割と、私のことを分かっている。
だからもしかしたら、私が負い目を感じてることも分かってるかもしれないな、と思いながら、私はすたすたとカフェに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます