day25:カラカラ
やる、と決めたらすぐに手をつけないと、私はどんどん先送りにする。それがわかっていたから、私は妹との電話が終わると、ただちに母に欲しいものを聞いた。とは言っても、そのタイミングで聞けたのは、ちょうど母が洗濯物を干し終えて居間に来たからなんだけど。
母は、いきなり思いつかないなー、なんて呟いていたけど、「ちょっと考えてくる」と言って一瞬部屋に戻るとすぐ引き返してきた。
「じょうろがほしいなあ」
「じょうろ?」
「口が細くて長いじょうろ。窓際の鉢植えに、今、計量カップで水やってるんだけど、口が細くて長いじょうろがあると、便利」
「計量カップでやってたの?」
母は頷いた。
「なんかちょうどよくて。でも最近葉っぱが伸びてきたから、土に命中しなくなってきた。根元を直接狙えるやつがいいなあ」
「そんなの誕生日じゃなくても買ってあげるよ」
母は、でもそれがいいと言って聞かないので、私はやむなくスマホで母のご希望のじょうろを調べ、サイズ感とかを確認して、これだな、というのを特定した。
スマホで調べられるということは、そのまま買えちゃうということだ。でも、そのまま買っちゃったら私は妹と出かける口実がなくなってしまう。私は少し考えて、近所で同じもの(か似たもの)を売っているお店を探すことにした。
そうして私が最初に目星をつけたホームセンターに、いきなりそのじょうろはあった。私はなんとなく肩すかしを食らった気分になったが、よく考えたら「口が細くて長い」とサイズ感以外に母から指定は受けていない。ならば、誕生日プレゼントっぽい、ちょっとおしゃれなやつとかでもいいはずだ。そっちのほうが「妹と一緒に探して、買う」のも、その道中でいろいろ話すのだって、不自然じゃない。
私はホームセンターの駐車場に駐めた車の中から、妹に電話をかけた。
「お母さん、じょうろがほしいんだって」
「じょうろ? なんかプレゼントっぽくないな」
妹の返事は私の感想と同じ。至極ごもっともである。私も、だよねと言いながら続けた。
「だからさ、例えば銅とかの、ちょっといいやつ買ってあげようかなと思うわけよ」
「ああ。いいね。ネットで探したらいろいろ見つかるかも」
私は慌てた。ネットじゃ駄目なのだ。だって今回は、プレゼントを用意する以外の目的がある。
「いや、お母さんさ、結構手を伸ばして奥のほうに水やったりすんの。それで重すぎると使いにくいとか、持つとこ滑りやすいやつはいやだとか、割と注文多いんよ」
「そうなん? じゃあ実際に確かめてみたほうがいいかあ」
「そう思う。だから、置いてそうなお店ピックアップしといて、来週一緒に巡るのどうかな? 車出すよ」
妹は、私がちょっと早口になったのに気がついたかもしれない。でもそれについては何も言わずに、彼女は「じゃあ私もお店探しとくね」と言った。
私は電話を切り、深いため息をついた。この駐車場には屋根がないから車の中は暑くて、もう喉がからからだ。
私は言い訳に使った母にちょっとだけ申し訳なく思いながら、でもどっちかっていうと達成感を感じながら、鞄から取り出したペットボトルのお茶を一気飲みした。
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