第105話 また、まな板を作ろう02

翌朝。

ルネアの町を出る。

途中、リリーの稽古と路銀稼ぎを兼ねて軽めのダンジョンに入ったりしながら進むこと2か月。

私たちは再びルカの町へと戻ってきた。


さっそく宿に荷物を預けてエドワーズの店に行く。

「やってるか?」

と声を掛けると、いつものお決まりで、

「誰じゃ!」

というダミ声が返ってきた。

(いい加減覚えろよな…)

と思いつつも、

「ジークだ。刀を取りに来たぞ」

と言うと、中から、

「おう。ちょっと待ってろ」

という返事が返って来た。

待つことしばし、

「待たせたな」

と言ってエドワーズが奥から出てくる。

そして、無造作に白木の鞘に入った刀を渡してきた。

「嬢ちゃんの体格に合わせてちょいと短めに作っといたぞ」

と言うエドワーズに、

「すまん。ありがとう」

と言って、金が入った革袋を渡す。

「けっ。商売だからな」

と悪態を吐きつつ、エドワーズはその革袋を無造作にその辺の台の上にドスンと置いた。


「抜いてみな」

という言葉を受けてリリーが刀を抜く。

スッと抜いたその刀は見るからに名刀だとわかる輝きを放っていた。

「うわぁ…」

とリリーが目を見開く。

「まぁ、今の嬢ちゃんにはもったいねぇが、この師匠のもとで精進するこったな」

というエドワーズに、リリーが、

「はい。精進します」

と元気に答え、無事納品が完了した。

(さて次はまた戻ってまな板か)

と思いつつ、エドワーズに礼を言って店を出る。

店を出て少し歩き、

「さて、昼はなんにするか…」

という私のつぶやきにはチェルシーが、

「にゃぁ」(あれにせい。あの、揚げた鶏に甘酸っぱいタレがかかったやつじゃ)

と注文を出してきた。

「ん?ああ、油淋鶏か。いいな。そういうのがありそうな店を探そう」

と言って、下町の職人街を歩く。

そして、いかにも町中華と言った雰囲気の店を見つけると、開口一番、

「油淋鶏はあるか?」

と聞いて店に入っていった。


サクサクの衣とタレが掛かって少ししんなりとした所の食感の違いを楽しみつつ、しっとりとして肉汁溢れる鶏肉をガブリとやる。

「にゃぁ」(米じゃ。米を寄こせ)

というチェルシーの求めに応じて米を取り分けてやった。

私も、

(ネギの香りとこのしゃきしゃきとした食感がいい感じに全体を引き締めている。甘酸っぱいタレもなかなかいい仕事をしているじゃないか…)

と感心しつつ、肉にかぶりつき、米をかき込む。

そして、大満足で腹をさすると、私たちはさっそく宿に戻り次の旅の支度に取り掛かった。


翌日。

さっそく町を出る。

目的地はオフィーリアが拠点を置いているトルネ村。

上手く会えればいいが、そうでなくても、その先のダンジョンに行くついでに休息でもしていけばいいだろう。

というような、いささか軽い気持ちで田舎道を進んでいった。


道中、

「オフィーリアさんってどんな人なんですか?」

とリリーが興味津々といった感じで聞いてくる。

私はそれに、

「ああ。真っすぐでよく食うやつだ」

と、端的にオフィーリアの性格を伝えた。

「えへへ。楽しみです」

と嬉しそうに言うリリーをなんとも微笑ましく思いつつ、進んでいく。

そして、3日ほどで私たちはトルネ村に辿り着いた。


村の門で暇そうにしていた門番にオフィーリアがいるかどうか訊ねる。

すると、

「ああ。オフィーリアの姉さんなら、たぶんどっかの畑で収穫の手伝いでもしてると思いやすぜ」

という返事が返って来た。

教えてくれた門番に軽く礼を言って、村の門をくぐる。

そして、村の中をのんびり行き、まずは宿を目指した。


時刻は夕方前。

時間的にオフィーリアが飯を食いに来てもおかしくない頃だ。

私は宿の人間にオフィーリアが来たら教えてくれと頼んで、さっそく部屋に入り旅装を解いた。

軽く風呂を使い部屋に戻る。

そして、細々とした荷物の整理をしつつのんびりしていると、「コンコン」と扉が叩かれ、

「オフィーリアさんが来ましたよ」

と言う声が聞こえてきた。

「すぐにいく」

と返事を返して、隣の部屋のリリーを呼びにいく。

そして、2人して階下の食堂に降りていくと、私はそこで久しぶりにオフィーリアと再会した。

「やぁ、ジーク。元気そうだね」

と言って右手を差し出してくるオフィーリアに、

「ああ。おかげ様でな」

と社交辞令を返しつつ、右手を握り返す。

すると、オフィーリアが笑って、

「相変わらずの風来坊かい?」

と聞いてきた。

そんなオフィーリアに、

「いや。そうでもないぞ。何しろ弟子を取ったからな」

と言って、リリーの方に目を向ける。

すると、オフィーリアは、

「えぇっ!?」

と素っ頓狂な声を上げて、目を丸くした。

「はっはっは。弟子のリリーだ」

と言ってリリーを紹介する。

リリーも、いつものように、

「初めまして、戦士様。リリエラです!」

と元気よく挨拶をした。

「あ、ああ…。初めまして、オフィーリアだよ」

と、なんとか我に返ったオフィーリアがリリーと握手をする。

私はそんな2人をなんだかおかしく思いながら見つつ、

「とりあえず、飯にしよう」

と声を掛けた。


とりあえずビールと告げ、ビールがやって来たところで、宿自慢のチャーハンとギョーザを頼む。

私とリリーは普通盛りで、オフィーリアは当然のように大盛りを頼んだ。

まずは、

「「「乾杯!」」」

と言ってジョッキを合わせ、ぐびぐびと勢いよくビールを飲んだ。

「ぷはぁ…」

とオフィーリアが美味そうに息を漏らす。

そして、なんだかおかしそうな苦笑いを浮かべると、

「しかし、ジークが弟子ねぇ…」

と、感慨深そうにそう言った。

「そういう歳になったってことさ」

と、こちらも苦笑いで返す。

そして、そこからリリーが私の弟子になった経緯なんかをかいつまんで話した。


「なるほどねぇ」

と言ってオフィーリアがうなずき、

「ってことはなにかい?リリーちゃんは未来の賢者候補ってことになるのかな?」

と聞いてくる。

私はその質問に苦笑いで、

「ははは。できればそんな役はやらせたくないがな」

と答えた。

「そっか…。まぁ、そうだよね」

と言いつつ、オフィーリアがビールを飲む。

私もビールをひと口飲んで、

「ああ。こんな因果な商売できればやらせたくないよ」

と、また本音を漏らした。

そんな話を聞いて、リリーが、

「将来のことはよくわかりませんが、私、目の前のことを全力でやります!」

といかにもリリーらしい答えを返してくる。

私もオフィーリアもその答えを微笑ましく、かつ、眩しく思って、なんとも言えず目を細めた。


やがてチャーハンとギョーザがやって来て、楽しい食事になる。

やはりリリーはオフィーリアの食べっぷりに驚愕していた。

食事を終えて、またビールを飲みながら、リリーの後学のために一度冒険に付き合ってやってくれと頼む。

そんな私の頼みに、オフィーリアは、

「もちろんさ!」

と明るく答えてくれた。


そこからはどこのダンジョンに行くかとか、何を狙うかというような話になる。

そして話し合った結果、ここトルネ村から馬で7日ほど行ったところにある比較的大物が出やすいダンジョンへ向かうことになった。

狙いはとりあえずよく出てくるというミノタウロスに決定する。

この獲物の決定にはチェルシーも喜んで賛成してくれた。

その場で翌日を準備に充てて、翌々日出発することを決める。

そして、その日はそれぞれの寝床に戻っていった。


翌日。

オフィーリアも一緒になって、村の小さな商店街で食料品を買い揃える。

久しぶりに気の置けない仲間とあれやこれやと言いながら買い物をするのは実に楽しかった。

(リリーにもいつかこんな風に気軽に接することのできる仲間ができるんだろうか…)

と師匠らしいことを思いつつ、オフィーリアと一緒になって野菜を選ぶリリーを見つめる。

やはり同性同士の気安さがあるのだろうか、リリーはいつも私といる時とはまた違う楽しそうな表情を浮かべていた。

楽しい時間が過ぎ、また夕食を共に囲む。

そして、私たちは明日の朝宿の前で待ち合わせることを確認して、明日を楽しみにその日は早々に体を休めた。

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