第103話 また刀を作ろう02

「はい。元気にしてます!」

「最近じゃ、ミノタウロスも討伐できるようになったんですよ」

というミナとデニスに、

「それはすごいな」

と言って微笑みかける。

私はそこでハッとして、

「ああ。実はあれから弟子を取ってな」

と言いつつリリーの方に視線を向けた。

「リリエラです。よろしくお願いします!」

と言ってリリーが頭を下げる。

それに対して、「雷鳴」の3人も、

「リカルドっす」

「ミナよ」

「デニスです」

と言って、にこやかに右手を差し出し、握手を交わした。

「羨ましいっすね。賢者様の弟子なんて」

というリカルドにリリーが、

「えへへ。自分でも幸運だったなって思います」

と、やや照れながら答える。

すると、デニスが、

「どんな修行をしているのかとかそういう話は是非聞いてみたいですね」

と言ってその話に加わった。

「そうね。あ、そうだ。賢者様。良かったらこの後ご飯ご一緒しませんか?あの焼肉屋さん代替わりしちゃったけど、まだあるんですよ」

とミナが嬉しそうに言う。

「お。それはいいな」

と微笑みながら答えて、チェルシーを軽くなでる。

「にゃぁ」(うむ。ホルモンも悪くない)

という返事が返って来たからその店で良いのだろう。

私はその返事を聞き、

「よし。じゃぁ、夕方になったらここで待ち合わせよう。それでいいか?」

と言うと、その日は久しぶりに「雷鳴」のみんなと食事に行くことが決まった。


手早く買い物を済ませ、市場で軽く昼を終わらせると、私たち3人はさっそく銭湯に向かった。

最近、リリーがやって来てからチェルシーはよく風呂に入る。

リリー曰く湯桶の中でまったりとしていて気持ちよさそうだという事だった。

(ついに、風呂の良さに目覚めたか…)

と、おかしく思いつつ手早く風呂を済ませる。

そして、いつものように銭湯の待合で落ち合うと、さっそく待ち合わせ場所のギルドを目指して歩を進めた。


私たちがギルドに近づくとすでに「雷鳴」の3人が待っているのが目に入る。

私はそんな3人に、

「すまん。待たせたな」

と声を掛けながら近づいていった。

「いえ。今来たばっかりです」

というお決まりのやり取りをして、さっそく焼肉屋に向かう。

その店は相変わらずいい感じに鄙びていて、見た目からしていい感じに美味そうな面構えをしていた。


「相変わらずだな」

と微笑みつつ、その店の暖簾をくぐる。

そして、

「ビール…、えっと、リリエラちゃんもビールでいい?」

「はい。もちろんです!」

という会話を挟んで、

「ビール5つね」

とミナが注文を出し、さっそく席に着いた。

あの頃と同じようにホルモン系を適当に頼む。

ちなみに、今日のおススメはハラミだということだった。

「乾杯!」

という声がそろって飲み会が始まる。

みんな一気にビールを3分の1ほど飲み干して、

「ぷっはぁ…」

という息を漏らした。


ややあって、肉がやって来る。

そして、肉をつまみながら、話に花が咲いた。

あの時の冒険のこと、今までのこと、そんな話になる。

その話で一番驚いたのが、ミナとデニスの結婚だろうか。

つい最近、そうなったのだそうだ。

しかし、これからも冒険者として活動することは3人で決めているらしく、しばらくこの生活は変わらないだろうとのこと。

私は心から祝福を送り、2人の幸せを願った。

そこからはなぜか私の修行の話になる。

「師匠は普段丁寧に、無理のない範囲から教えてくれるんですけど、時々ワイバーンロードで魔法の練習をさせたり、オーガがいる森に連れて行ったりして、無茶をするときがあるんですよぉ」

という、リリーの冗談半分、愚痴半分の言葉に対してはリカルドが、

「スパルタっすねぇ…」

と若干顔をひきつらせた笑いでそう答えた。

「そうか?一番効率がいいと思ったんだが…」

と素直に答える。

「あはは。賢者様は相変わらずですね」

と言って笑うミナの横でデニスも苦笑いを浮かべていた。


そんな3人に、

「ははは。次はミノタウロス辺りの討伐をさせてみようと思うんだが、どこかいい場所を知らないか?」

と聞いてみる。

すると、3人は少し半分唖然としたような顔になり、またリカルドが、

「スパルタっすねぇ…」

とひと言つぶやいた。

「そうか?」

と何でもないことのように答える。

そんな私にリカルドが、

「そうっすね。とりあえず初めはコカトリスとかそういうのからいくものだと思いますよ?」

と笑いながらそう言った。

「なるほど…。そういうものだったのか…」

と、自分の指導の在り方がやや厳しすぎたという点を少しだけ反省する。

すると、今まで夢中になってハラミをはぐはぐしていた、チェルシーが、

「にゃぁ」(どちらも肉じゃ。どちらから覚えてもたいしてかわりあるまい)

と、これまた何でもないことのようにそう言った。


私は心の中で、

(あはは…。そうだよな。たいして強さも変わらんし…)

と思って、唯一味方してくれたチェルシーを撫でてやる。

そして、

「ああ、そうだ」

と思い出したかのようにつぶやくと、

「今リリーの新しい武器を作っててな。3か月ほど、暇なんだ。せっかくの機会だし、また一緒に冒険に行かないか?」

と誘ってみた。

「行くっす!」

とリカルドが一番に手を挙げる。

すると、ミナとデニスもそんなリカルドに苦笑いしつつ、

「当然です」

「お願いします」

と言ってきた。

「よし。じゃぁ決まりだな」

と言って、その場で握手を交わし合う。

そして、久しぶりに「雷鳴」の3人と一緒に冒険することが決まった。


翌日を一応準備に充てて、翌々日。

ギルドの前に集合してさっそくここルカの町から馬で6日ほどの所にあるというダンジョンに向かう。

「ここのダンジョンは最近、割と大物が多いんすよ」

というリカルドの言葉を聞いて、なんとも言えない気持ちになりつつも、私たちはそのダンジョンに向けて田舎道を和気あいあいと進んでいった。


いくつかの村を通り、予定通り6日でダンジョン前の村に着く。

そこで、私たちは最後の準備と休息を兼ねて1泊すると、次の日、今回は馬を馬房に預け、さっそく森へと向かって行った。


「今回も料理は任せてください」

というデニスに、

「あ。そっちも勉強したいです!」

というリリーがついて、料理班が出来上がる。

私たちはいつものようにその言葉に甘えて設営班になることになった。

進むこと3日。

ゴブリンとオークの始末をリリーと「雷鳴」に任せてさらに奥を目指す。

リリーは初めての盾役との連携に最初は戸惑っていたようだが、回数を重ねると徐々にその呼吸を掴んできたようだった。

(また成長したな…)

と嬉しく思いつつ、のんびりと見学させてもらう。

そして、また進むこと2日。

昼。

デニス特製の自家製ベーコンサンドを食った後、チェルシーが、

「にゃぁ」(出てきよったわい)

と、なにやら嬉しそうにそうつぶやいた。


「どっちだ?」

と小声で聞く。

「にゃぁ」(あっちじゃ。おそらくミノタウロスじゃぞ)

と何とも嬉しそうにいうチェルシーの指し示す方へと進路を変える。

そして、しばらく歩いていると、案の定痕跡を発見した。

「ミノタウロスっすね…。ちょっと多いっすか?」

というリカルドに、

「ああ。全部で5…いや7くらいいてもいいかもしれんな」

と答え、

「どうする?」

と聞いてみる。

その問いにリカルドは、一瞬、

「うーん…」

と考えていたが、すぐに、

「任せてもらっていいっすか?リリエラちゃんはきちんと守るんで」

と言ってくれた。

「わかった。いざという時は助けに入るから4人で思うようにやってみてくれ」

と答えてその案を了承する。

その言葉に4人は真剣な顔でうなずき、軽く打ち合わせを始めた。

私はその様子をただただ見守る。

ここは口を出さずにただ見守ればいい。

そう思った。


やがて、話し合いが終わり行動を再開する。

すると、すぐにミノタウロスの群れに接敵した。

遠くから群れを観察しつつ、

「特異個体がいるな…。あれだけでも私が手伝うか?」

と念のため聞いてみる。

しかし、リカルドは、

「大丈夫っす。やらせてほしいっす」

と答えて私に真剣な目を向けてきた。

「わかった」

とだけ答えてうなずく。

その言葉を受けて、4人はまた簡単な打ち合わせに入ったようだ。

その話を聞くと、どうやら最初は遠距離からリリーが魔法である程度数を減らし、その後、リカルドとリリー、ミナとデニスがそれぞれコンビになって動くという方針で行くらしい。

私はその作戦に、無理が無いことを確認すると、4人に向かって、

「一応、言っておくが無理はするなよ。いつでも助けに入れるからな」

と、いかにも老婆心なひと言を言った。


「行くっすよ」

と言ってリカルドを先頭に行動を開始する。

まずはミナとデニスがリリーを守る位置につき進んでいった。

ある程度行ったところで、リカルドが群れに突っ込んで行く。

陽動作戦だろう。

そして、その陽動に引っかかった何匹かに向かってリリーの風の矢が次々に放たれていった。

魔法は過たず相手に突き刺さり、足止めに成功する。

しかし、それと同時に、

「ブモォォ!」

という醜い咆哮が辺りに響き渡った。

どうやら、特異個体がなにやら指示を出したらしい。

(統率されるとやっかいだが…どう出る?)

と思いながら念のために刀を抜いて4人の動きを注意深く見る。

すると、リカルドが、

「あのデカいのを狙ってくれ!」

とリリーに指示を出した。

「了解です!」

と答えてリリーが風の矢を何本も特異個体に向かって打ち込んで行く。

すると、特異個体が次々と矢を受けて傷つき、また、

「ブモォォ!」

と大きな声で何やら周りに指示を出した。

周りにいたミノタウロスたちが、特異個体を守るような位置につく。

すと、リカルドは前衛でひとり時折襲ってくる攻撃をかわしながら、

「今っす!」

とリリーに合図を送った。

「はい!」

と答えてリリーが今度は風の刃の魔法を連続で放つ。

すると、1か所にまとまっていたミノタウロスが次々と深手を負って倒れていった。

「行くっすよ!」

と言ってリカルドが残りの個体に突っ込んで行く。

「おう!」

と答えて、ミナとデニスも群れに突っ込んで行った。

リリーも剣を抜き駆けだす。

そこからは、やや乱戦気味ながらも、当初の計画通り、リカルドとリリー、ミナとデニスがコンビを組み、各個撃破という感じの戦いになっていった。


リカルドがミノタウロスの攻撃を受け止め、リリーが足を中心に削っていく。

デニスたちの方も、少しずつだが、確実にミノタウロスを削っているように見えた。

ある程度戦闘が進んだところで、

(よし。やはり心配無いなかったみたいだな…)

と思いつつも、まだ特異個体が残っていることを思って戦況をじっと見守る。

するとやがて、周囲のミノタウロスたちが倒れ、特異個体のみとなった。

怒り狂ったように攻撃してくる特異個体の一撃を「雷鳴」の3人が協力し合って受け止めていく。

私はその様子を、

(成長したな…。そろそろオフィーリアに匹敵するような実力になってきているのかもしれん…)

と思い、感慨深く見守った。

そして、リリーがその隙を突いて、確実に傷をつけていく。

そして、私が、

(そろそろ…)

と思った瞬間、特異個体が最後の力を振り絞って繰り出してきた猛烈な一撃をデニスが受け止め、その隙を突いて、リリーがついに足を両断した。

ドシンという音を立てて特異個体が倒れる。

そこへすかさずミナとデニスが止めを刺して、戦いが終了した。


嬉しそうにハイタッチを交わす4人の方に近づいていく。

そして、抜いたままにしていた刀で特異個体の角をあっさり両断すると、リリーに向かって、

「まな板の材料も手に入ったな」

と言って笑いかけた。


「さて。さっそく解体と焼肉だな」

と「雷鳴」の3人に声を掛ける。

すると、

「うっす!」

「「はい」」

という答えと笑顔が返ってきて、私たちはさっそくミノタウロスの解体に取り掛かった。


ここでも、楽しそうに解体する4人を微笑ましく眺める。

その光景を見て、私は、何となく、昔のことを思い出した。

懐かしい記憶とともに、あの頃のみんなの笑顔が脳裏に浮かぶ。

(次はオフィーリアにでも会いに行くか…)

私は何となくそんなことを思い、楽しそうに解体しているみんなのもとへと歩み寄っていった。


やがて、大満足の焼肉大会が終わり、さっさと眠ってしまったチェルシーを撫でながらお茶を飲む。

すると、そんな私の横でリリーが、

「楽しかったです」

とひと言つぶやいた。

「ああ。将来またそんな風に思える仲間が出来たらいいな」

と微笑みながらそのつぶやきに答え、またひと口お茶を飲む。

するとリリーは、

「私、もっと強くなります」

と、小さく、しかし、力強くそうつぶやいた。

「ああ」

とだけ返して微笑む。

パチンと薪が小さく弾けた。

夜の闇に小さな灯りが溶けていく。

その小さな灯りに照らされたリリーの顔はどこまでも楽しそうに前を見つめていた。

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