第102話 また刀を作ろう01

ダンジョンを無事に抜け、ダンジョン前の村に戻る。

そこで私たちはいつものように宿の酒場で打ち上げをした。

「次はやっぱりどるとねふですか?」

とから揚げを頬張りながら聞くリリーに、

「ああ、次はドルトネス共和国に行こうと思っている」

と答える。

すると、リリーはようやくから揚げを飲み込んで、

「楽しみです!」

と嬉しそうに言ってきた。

やはり新しい武器というのは冒険者なら誰しも嬉しくなるものだ。

私がそう思って、

「ああ。楽しみにしていてくれ」

と言うとリリーは、

「はい。美味しい麻婆豆腐、楽しみです!」

と答えてきた。


(…誰に影響されたのやら…)

と思ってチェルシーを見る。

すると、チェルシーも私を見て、

「にゃぁ…」(まったく…)

とひと言そう言った。


そんな会話をしつつ楽しく打ち上げを終えた翌朝。

さっそく宿を発つ。

そして私たちは進路を東にとり、街道を目指して田舎道を進んで行った。


田舎道から街道に入り最初の宿場町に入る。

そこで食料なんかを調達するついでに一応ギルドで依頼を確認してみた。

見たところ急ぎの案件はないようで一安心する。

そして私たちはその宿場町を通り抜けると次の宿場町を目指して歩を進めた。


そんな旅を続けること2か月。

ようやくドルトネス共和国の首都ルカの町に入る。

私たちは町に入るとさっそく適当な宿に入り、荷物を下ろしてまずは銭湯に向かった。


「ふぅ…」

と息を漏らしつつ湯船に浸かる。

早い時間とあって、客の少ない湯船を広々と使わせてもらった。

(さて、エドワーズのおっさんは元気にしてるだろうか…)

と、そんなことを考えながらのんびりと風呂を楽しみ、やや客が増えてきたところで風呂から上がった。

銭湯の待合でリリーを待つ。

すると、リリーとチェルシーはすぐにやって来た。

「お待たせしました」

と言うリリーに、

「いや。私も今しがた上がってきたところだ」

と答えて町に繰り出す。

「念願の麻婆豆腐です!」

と嬉しそうに言うリリーを微笑ましく思いつつ、美味そうな店を探した。

路地裏を歩いていると、1軒のいかにも歴史がありそうな佇まいの店を見つける。

そして、いつものように、

「猫がいるがかまわんか?」

と声を掛けてから店の扉をくぐった。


さっそくビールと麻婆豆腐を頼む。

やがてやって来たビールで乾杯すると、私もリリーもそれを一気に流し込み、

「「ぷはぁ…」」

と満足の息を漏らした。

「沁みますねぇ…」

とリリーが幸せそうな笑顔でそう言う。

私も、

「ああ、たまらんな…」

と答えて、もう一口ビールを飲んだ。


そこへお待ちかねの麻婆豆腐がやってくる。

私は久しぶりの、リリーは初めての麻婆豆腐を頬張ると、一瞬の間を置いて、リリーが、

「辛いっ!辛いです、師匠!」

と嬉しさと驚きを混ぜ合わせたような表情でそう言った。

「ああ。しかし、これが癖になるんだ」

と言いつつ、もう一口食べてビールを飲む。

リリーもビールを飲みつつ、

「はひー…」

と言いながら、麻婆豆腐を頬張った。

やがて、麻婆豆腐が半分ほどになったところで、ビールの追加とチャーハンを頼む。

そして、リリーに、

「麻婆豆腐はチャーハンにかけても美味いぞ」

という情報を教えてやった。

やがてビールがやって来て、それを飲んでいるうちにチャーハンがやって来る。

私もリリーもそれぞれの麻婆チャーハン即席で拵え、それをビールとともに存分に楽しんだ。


「すごかったです。師匠!」

と感動しながら言うリリーに、

「この辺りは辛い料理が多いからな。明日はまた別のものに挑戦してみよう」

というと、私の胸元からチェルシーが、

「にゃぁ」(明日は辛麺にせい)

と言ってきた。

「ははは。それもいいな」

と言いつつチェルシーを撫でる。

リリーはその辛麺という言葉に興味を持ったようで、

「師匠、それはどんな料理ですか?」

と聞いてきた。

「ん?まぁ言葉通り辛い麺だな。…なんと説明していいのかわからんが、いわゆる旨辛料理ってやつだ。なに、食ってみればわかるさ」

と、言ってほんの少しだけ答えをはぐらかしておいた。

(想像するのも美味さのうちだからな…)

と思いつつ、

「うーん…。今ひとつ想像がつきませんねぇ…」

と言うリリーを微笑ましく眺める。

そして、私もリリーもほんのりと熱くなった胃袋を冷ますように、ゆっくりと歩いて宿へと戻っていった。


翌朝。

さっそくエドワーズの店を訪ねる。

扉を開けた瞬間、以前と変わらず、店の奥から、

「誰じゃ!」

というダミ声が飛んできた。

私はそれに、

「ジークだ。覚えてるか?」

と、やや大きな声で返す。

するとしばらくして、

「なんじゃ。久しぶりじゃな」

と言いつつ、少し白髪が増えたエドワーズがいかにも面倒くさそうな感じで姿を現した。

「よかった。耄碌はしてなかったみたいだな」

と軽口を言うと、

「ふんっ。まだそんな歳じゃないわい!」

という悪態が返ってくる。

私はそれを懐かしく思いながら、

「また刀を頼みたいが、どうだ?」

と単刀直入に今回の用件を伝えた。

「あん?まさか折れたのか?」

と訝しげな視線を送って来るエドワーズに、

「いや、最近弟子を取ったんでな。この子に同じものを使わせてやりたいと思ってな」

と伝える。

するとエドワーズは驚いたような顔をして、私の後に控えていたリリーの方へと視線を向けた。


「初めまして、リリエラです!」

と言って頭を下げるリリーに、エドワーズが無造作に近寄る。

そして、

「ちょいと手を出せ」

と言うと、リリーがおずおずと差し出した手をおもむろに眺め始めた。


ほんのちょっと手を見たエドワーズが、

「おい。賢者さんよ。この嬢ちゃんにはまだ早えぇ」

と至極当然のことを言ってくる。

しかし、私はそれに、

「ああ、百も承知だ。しかし、将来のこともある。今のうちから慣れさせたい」

と言って自分の考えを伝えた。

「けっ。ずいぶんと弟子に甘めぇな」

と悪態を吐くエドワーズに私は、

「見込みがあるんだ。頼む」

と言って軽く頭を下げる。

するとエドワーズは面倒くさそうに、頭を掻いて、

「まぁ、しゃぁねぇな。で、鉄はあんのかい?」

と聞いてきた。

「ああ、ここに持って来てある」

と言ってオーガ鉄の入った袋を無造作に渡す。

すると、エドワーズは、軽く中身を見てから、

「最高のものを作ってやる。3か月待ってな」

と言って、また面倒くさそうに店の奥へと戻って行こうとした。

その背中に、

「剣帯も頼むぞ」

と言うと、

「ああ、任せとけ」

という答えが返って来る。

私はその答えに安心して、

「じゃぁ、3か月後だな」

というと、今度こそ奥へと下がっていくエドワーズを見送り、リリーと一緒に店を出た。


「ありがとうございます!」

と言って頭を下げてくるリリーに、

「いいさ。その代わり使いこなせるようになってくれよ」

と注文を付けて返す。

その言葉にリリーは引き締まった表情で、

「はい!」

と言って答えてくれた。

私はその真っすぐな心根に、希望とほんの少しの照れくささのようなものを感じ、

「さて。とりあえずギルドにでも行くか」

と言って、さっさと歩き始める。

そんな私の後を付いてくるリリーの足音はどこか軽やかな音をしているように思えた。


やがてギルドに着き、適当に依頼を眺める。

どうやら急を要するような依頼は無いようだ。

そのことに安心して、その場を去ろうとすると、後ろから、

「賢者様!」

と懐かしい声が聞こえてきた。

振り返って相手の姿を確かめる。

すると、そこには「雷鳴」のリカルドと思しき青年の姿があった。

「リカルドか?懐かしいな」

と言って近寄り右手を差し出す。

すると、リカルドも、

「お久しぶりっす、賢者様!」

と言って私の手を握り返してきた。


「元気にしてたか?」

と聞く私に、リカルドは、あの頃と変わらない真っすぐな目で、

「はい。あの剣、今も大切に使ってるっすよ」

と言って、剣帯から剣を外し私の方に差し出してきた。

「ほう。懐かしいな…」

と言いつつ目を細めてその剣を受け取る。

そして、剣を抜いて見ると、いかにも丁寧に整備されているのがよくわかった。

「エドワーズの仕事か?」

と聞く私に、リカルドが、

「はい。最近になってようやく『使えるようになってきやがったな』って言ってもらえるようになったっす」

と苦笑いで答える。

「ふっ。あの爺さんらしいな」

と言って私も笑うと、リカルドも困ったような苦笑いを浮かべた。


「ところで、デニスとミナも元気なのか?」

とリカルドに剣を返しつつ、聞く。

その質問にリカルドは、

「はい。今ちょうど納品に行ってて…」

と言いつつ後ろの方へと目を向けた。

するとそこへまた懐かしい顔が現れる。

その2人に向かってリカルドが、

「おーい!みんな、賢者様だぞ!」

と言って手を振った。

「え!?」

というミナの声が聞こえて、2人が駆け寄ってくる。

私はそんなミナやデニスとも握手を交わすと、

「元気だったか?」

と言って旧交を温めるべく話を切り出した。

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