第95話 もう一つ鞍を作ろう02

また途中の宿場町で依頼を冷やかしつつ、街道を進んで行く。

そうやって進むこと1か月ほど。

私たちはようやく目的のダンジョンに到着した。

さっそくダンジョン前の村で準備を整えて体を休める。

そして、翌日。

いつものようにダンジョンへと向かっていった。


谷底へと下る道の途中。

ふとリリーを見てみると、かなり緊張しているようだ。

そんなリリーに対してアクアは割と堂々としている。

(アクアにしろサクラにしろ、ユックという魔物は肝が据わってるな…)

と妙なところに感心しつつ進んでいると、ようやく谷の底へと辿り着いた。

そこから少し進んでその日はそこで野営にする。

ここから先は何が出てもおかしくない。

私はそのことを改めてリリーに言い含めた。

緊張した様子で夜を過ごすリリーを若干かわいそうに思いながらも、

(こういうのは慣れが必要だからな…)

と心を鬼にして見守る。

そして、無事夜が明けると、私たちはさっそく行動を開始した。


やや疲れの見えるリリーを心配しつつ、ほんの少しゆっくり進む。

その日も魔物には遭遇しないまま野営の時間を迎えた。


カレーピラフという野営にしてはかなり美味しい飯を食った後、リリーに、

「見張りはいいから今日はゆっくり休め」

と伝える。

当然リリーは反論してきたが、

「本番は明日だ」

と伝えてどうにか納得させた。

そんな夜。

やはり疲れていたのだろう。

アクアに体を預けぐっすりと眠るリリーを見ながら、ゆっくりとお茶を飲む。

(さて、明日は上手い具合に出て来てくれればいいが…)

と思いながら、星空を見上げ、私も軽く目を閉じた。


翌朝。

「すみません。ぐっすり寝てしまいました…」

と、しょぼくれるリリーに、

「いや。今日に備えて体調を整えろと言ったのは私だ。むしろちゃんと寝てくれて安心したよ」

と、微笑みながら伝える。

そして、リリーが作ってくれた朝食を食べるとさっそく今日も行動開始した。


歩き始めて1時間ほど。

大きな川の河原に出る。

前にワイバーンが出た場所だ。

その河原を川の流れに沿って下っていく。

そしてしばらくすると、

「にゃ」(おるぞ。しかし、先に飯にせい)

とチェルシーがのんびり言いつつ空を指した。

「あいよ」

と、いつものように苦笑いで返しいつものチーズドッグを作る。

それを側で見ていた、リリーが、

「やっぱりその魔法、すごいですね…」

と感心していたので、

「ああ、極限まで魔力を絞って操作できるようになればこういう使い方もできるようになるぞ。今度訓練してみるといい」

と言いつつ、出来上がったチーズドッグを1番に渡してやった。

「にゃ」(我の分はチーズたっぷりじゃぞ)

というチェルシーにも小さく切ったソーセージにたっぷりのチーズをのせたものを渡す。

そして、全員の分がそろったところで、さっそくみんなそのチーズドッグにかじりついた。


「みゃぁ」(うむ。いつもの味じゃが美味いのう)

というチェルシーに、

「お褒めいただき光栄だ」

と冗談を返して楽しく食事を終える。

そして、手早く準備を整えると、私たちは少しでも戦いやすそうな地形を探してまた川沿いの道を進んでいった。

やがて、少し開けたところに出る。

こちらも戦いやすいが相手も襲いやすい、そんな地形だと思った。

まずはサクラとアクア、そしてチェルシーを木陰に避難させその開けた場所の中心に陣取る。

すると、急に空気が重くなり始めた。

「来るぞ。空だ」

と言って、遠くを指さす。

まだ点は小さい。

しかしリリーはすぐに、

「わ、ワイバーンですか!?」

とその正体に気が付いた。

「ああ、ちょっと大きいがワイバーンだ。いいか。落ち着いて狙え。威力のことは気にするな。全力でいっていいぞ。一度目で落とせれば合格だ。あとはこちらに任せてもらって構わん」

私はそう言うと、リリーの後に立ち、何時でも補佐できるように油断なく構えを取った。

「いいか。的は大きいんだ。引き付けられるだけ引き付けてから、撃てばいい」

と、再度助言をおくる。

「は、はい!」

とリリーが緊張気味に答えたところで、

「じゃぁ、いくぞ」

と言って私はその小さな点に向かって牽制の魔法を何発か放った。

その点が近づいてくる。

(思ったよりもデカいな…)

と思いつつも、

「もう少し引き付けろ」

と今にも魔法を放ちそうなリリーに声を掛ける。

そして、いよいよその点がはっきりワイバーンだとわかった時、

「よし、撃て!」

とリリーに号令を出した。

ものすごい魔力が一気に解き放たれる。

どうやら放たれたのは何発かの風の矢の魔法のようだった。

(1発1発がデカいな…)

と感心しつつ、翼に1発当たったのを確認して防御魔法を展開する。

そして、痛みと怒りで、

「グギャァッ!」

と叫びながら落ちてくるワイバーンの爪をはじいた。

後でズザーという音がする。

「よし。一度で落とせたな。合格だ」

と言いつつ、そちらに走る。

私が走っていくと、そのワイバーンは地面にめり込むようにして突っ伏していた。

(おあつらえ向きだな)

と思いつつ、近寄る。

しかし、相手もそれに気がついたのか、急にジタバタと尻尾を振って来た。

(ちっ。悪あがきか…)

と心の中で悪態を吐きつつ、その尻尾を刀でいなす。

そして、時々魔法を放ちながら尻尾を徐々に削っていった。

やがて、また痛みと怒りで、

「グギャァッ!」

と叫び声を上げてワイバーンがこちらに振り向く。

そして、ワイバーンは大きく口を開けた。

(来るか)

と思いつつ防御魔法を展開する。

すると、その瞬間ワイバーンが口から火を噴いた。

強烈な炎が防御魔法を突き破らんかの勢いで襲い掛かって来る。

私はそれになんとか耐えきり、炎が収まった瞬間を狙ってワイバーンへと突っ込んでいった。

炎を吐いたばかりで隙だらけのワイバーンに向かって行き、まずは魔法で邪魔な翼を落とす。

「グギャァッ!」

という悲鳴があがるが気にせず今度は足を斬った。

今度こそワイバーンが突っ伏す。

私はその隙を狙って首の辺りに飛び込むと迷いなく首筋に刀を刺した。


ワイバーンが沈黙する。

そこへリリーが肩で息をしながらも小走りにこちらにやって来た。

そんなリリーに、

「お疲れさん」

と気軽に声を掛ける。

しかし、リリーは何も言わず、ただ驚きの表情でその倒れたワイバーンを見ていた。

「まぁ、始めてみると驚くよな」

と苦笑いで声を掛ける。

そこでようやくリリーは正気を取り戻したのか、

「お、大きいですね…」

とやっと言葉を発した。

そんなリリーに、

「ああ。普通はもうちょっと小さいぞ。それに群れてるから今日みたいに一度じゃなくて、動きながら何発も打たなきゃならん。まぁ…いろんな意味で幸運だったな」

と改めて声を掛ける。

するとリリーは「?」という顔をした。


私は、

(ああ、遠めじゃ違いが分かりづらいんだよな…)

と思いつつ、

「ああ、これはロードだ。ワイバーンロードな」

と今回の敵の正体を教えてやる。

するとまたリリーが言葉を失った。

私はちょっと慌てた感じで、

「ああ、あれだ。ロードと言っても、ちょっと大きくて火を吐くくらいしか違わん。たいしたことはないぞ」

と付け加えた。

しかし、リリーは、

「ろ、ロード…」

と言ったきり絶句する。

私はそんな空気を少しでも明るくしようと思って、

「ああ、普通のワイバーンと違ってコイツの皮は硬い。加工は難しいらしいが、きっといい鞍にしてもらえるぞ」

と言って笑顔を向けてやった。

「あはは…」

とリリーが苦笑いを浮かべる。

私も続けて、

「はっはっは」

と笑い、無事戦闘は終わった。


すぐさま解体に入る。

今回は翼の部分は使わない。

必要なのはおそらく腹の部分の比較的柔らかい皮だ。

私はついでと言っては何だが、背中側の硬い皮も取った。

皮を丁寧に取っていると思ったよりも時間を食ってしまったらしく、時刻はすでに夕方。

「にゃぁ!」(飯にせい!)

とチェルシーからいつもよりやや強めに声がかかる。

おそらくほおっておいたらいつまで時間がかかるか分かったものじゃないとでも思ったのだろう。

そんなチェルシーにいつも通り、

「あいよ」

と苦笑いで答える。

「さて、今日は肉なら腐るほどあるかが何にする?」

と聞くと、すぐさま、

「にゃぁ」(鍋じゃ)

という答えが返って来た。

(ほう。軍鶏鍋とはわかっているじゃないか)

と思いつつも、さっそく私は飯を炊き、リリーは鍋の準備に取り掛かった。


ぷりぷりを通り越してブリブリとしたワイバーンの身を噛みしめる度に出てくる強烈なうま味で白米をかき込む。

リリーの緊張もやっと解けたのか、それとも何かを諦めたのか、それは定かではないが、その日も夕食は楽しく進み、朗らかなうちに夜が更けていった。

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