第90話 賢者弟子を取る02
翌朝。
夜明けを待って動き出す。
しばらく行くと、
「にゃぁ…」(小物じゃな…)
とチェルシーが魔物の存在を教えてくれた。
チェルシーが小者というからにはおそらくゴブリンか、その辺りだろう。
私はどこのダンジョンに行っても出会うヤツらのことを思って少し辟易としながらも、チェルシーが示してくれた方へ向かう。
するとやがて、私にもはっきりとわかるほどの痕跡を発見した。
一応用心しながら、その痕跡を追っていく。
だが、途中で私とは違う誰かがその痕跡を追って行ったという痕跡も見つけた。
(お。先客だったか…)
と思いつつも、念のため確認に向かう。
そして、いつものようにゴブリンの巣らしきものを発見した。
エルフの女性冒険者がひとりで戦っている。
数は50程度だろうか。
どうやら少し苦戦しているらしい。
(うーん…)
と思いつつも助力することを決め、刀を抜く。
そして一気に駆けだすと、そのエルフの女性冒険者の後から襲い掛かろうとしていたゴブリンに向かって風の矢の魔法を放った。
ゴブリンの斬りながらそのエルフの女性冒険者の背後につき、
「ぼさっとするな!」
と声を掛け、周りにいたゴブリンを次々と魔石に変えていく。
そのエルフの女性冒険者は一瞬呆気にとられたようだが、すぐに持ち直したようで、剣を振り始めた。
(ほう。落ち着いてやればそれなりじゃないか…)
と先輩風を吹かせつつ、適当にゴブリンの相手をしつつその冒険者の戦いぶりを横目に見る。
そして、しばらく経った頃、しびれを切らしたリーダーらしき少し大き目の個体が、
「ギャァ!」
と喚きながら、こちらに迫って来た。
私がそれを見て、
(さて、これは任せるべきか…)
と思っていると、そのエルフの女性冒険者が突然、
「ま、魔法使います!」
と言って剣を置き、短いロッドを取り出した。
その瞬間膨大な魔力を感じる。
私はすぐに、
(いかん!)
と思ったが時すでに遅く、そのエルフの女性冒険者が、
「当たって!」
と叫ぶと、その手から特大の旋風の魔法が放たれた。
私は慌てて自ら放った魔法の余波で飛ばされそうになっているそのエルフの女性冒険者を支え、防御魔法を展開する。
そしてとりあえず、その魔法の余波が収まるのを待った。
一呼吸置き、暴風が収まったのを確認すると、
「おい!」
と、やや大きな声でその冒険者に呼びかける。
どうやら気を失ってはいないようだ。
しかし、
「はぁ…はぁ…」
と肩で息をしている。
私はその光景にため息を吐き、こめかみを抑えながら、
「はぁ…」
と盛大にため息を吐いた。
「…あ、あの…す、すみません…」
と息を切らしながら謝罪の言葉らしきものを述べるそのエルフの女性冒険者に向かって、
「魔法は誰に教わった?」
と聞いてみた。
すると案の定、
「えっと…、自分で…」
という答えが返って来る。
私はまたため息を吐きつつも、そのエルフの女性冒険者に真剣な目を向け、
「基礎からやり直せ」
と、ひと言注意した。
「あ、あの…」
と言って、そのエルフの女性冒険者が目を伏せる。
私はまたため息を吐くと、そのエルフの女性冒険者に向かって、
「よく見ろ。あれがお前が暴走した結果だ」
と言って目の前に広がる光景を指さした。
半径20メートルほどにわたって木がなぎ倒されている。
私もその光景に眉をしかめつつ、そのエルフの女性冒険者に、
「いいか。森は命の集まりで、人の糧になるものだ。まずはそのことを知れ。そして、自分の未熟が生んだ結果から目を逸らすな」
という言葉を掛けた。
「す、すみません、その…」
と言ってそのエルフの女性冒険者がうつむく。
そして、悔しそうな顔で涙を流し始めた。
(根はいい子らしいな…)
と思いつつ、その肩を軽く叩く。
そして、
「とりあえず立て。まずはお茶でも飲んで落ち着こう」
と言うと、そのエルフの女性冒険者を少し強引に立たせ、チェルシーとサクラのもとに戻っていった。
ささっとお茶を淹れそのエルフの女性冒険者に手渡す。
そのエルフの女性冒険者は、
「あ、あの、ありがとう…ございます…」
と、すこししゃくりあげながらもなんとか泣き止んでそのお茶を受け取ってくれた。
「まずは飲め。少しは落ち着くはずだ」
と言って私もお茶を飲む。
私は、そのエルフの女性冒険者がちびりとお茶を飲んだのをみて、一呼吸置くと、なるべく優しく、
「聞いてもいいか?」
と言葉を掛けた。
「…はい」
とうつむきつつ答えるその冒険者に、私は軽くうなずくと、
「私はジークという。君は?」
とまずは自分の名を名乗り、名前を訊ねた。
「あ、あの…。リリーです」
と答えるそのエルフの女性冒険者、リリーに、
「そうか。リリーは冒険者になって何年だ?」
と聞く。
するとリリーは、
「…1年です」
と、私の予想以上に短い年数を答えてきた。
(剣筋から見て5、6年はやっていると思ったが…)
と多少驚きつつ、そこは落ち着いて、
「そうか」
と答える。
そして、ひとつ間を置くと、
「そのくらいの経験なら薬草採取で力をつけないとだめだ。いくらなんでも無茶が過ぎる。なんでこんな無茶をやったんだ?」
と、やや問いただすように聞いてみた。
私はおそらく、「調子に乗って」とか「自分の力を試してみたくて」というような答えが返ってくるかと思ったが、リリーは、
「育った村が危ないって聞いたから…」
と意外な理由を言ってきた。
「ほう。あの村の出身だったか…」
と、やや驚きつつ聞く。
すると、リリーもやや驚いたような顔で、
「ハース村のことを知ってるんですか?」
と聞いてきた。
「ハース村?」
と聞き返してしまう。
そんな私にリリーは、
「はい。ここから一番近い村です。そこから来たんじゃないんですか?」
と質問をしてきた。
私は、
(ああ、あの村はハース村というのか…)
と思いつつ、
「ああ。おそらくその村からきた。魔物の痕跡があったと村長に聞いたからな。気になって様子を見に来たんだ」
と答える。
すると、リリーは少し驚いたような顔で、
「そうだったんですね…」
と言ったあと、
「ありがとうございます」
と言って深々と頭を下げてきた。
私は一瞬その「ありがとうございます」の意味を計りかねたが、
(ああ、村のためにありがとうということか)
と気付き、
「いや。仕事だからな」
と言って頭をあげてくれるよう頼む。
そして、
「まぁ、とりあえず落ちつたようだし、昼を食おう。荷物はどこに置いてるんだ?」
とやや照れ隠しに言ってリリーに荷物を取って来るよう促した。
リリーが荷物を取りに行くとさっそく調理を始める。
こういう時は温かいものがいいだろうと思って野菜がゴロゴロと入ったスープを作った。
やがてリリーが戻って来て一緒に食べる。
リリーが、
「…美味しい…」
と言った後は、2人とも無言でゆっくりとスープをすすった。
そんな静かな食事も終わり、
「帰れるか?」
と聞く。
するとリリーは、少し力ない感じながらも、
「…はい」
と、うなずいた。
私はそれを見て、
「よし。じゃぁ、私はもう少し奥まで見てくる。よければ村長に浅い所は片付いたからもう大丈夫だと伝えておいてくれ」
と言いさっそく荷物をまとめ始める。
するとそこへ、
「あ、あの…」
とリリーが声を掛けてきた。
「ん?」
と短く聞く。
だが、リリーは、
「あ、いえ。ありがとうございました」
と言って頭を下げただけだった。
「ああ。気を付けて帰れよ」
と声を掛けてサクラに跨る。
そして、もう一度、
「ありがとうございました」
と言ってくるリリーに向かって軽く後ろ手に手を振ると、私はさっさと森の奥へと進んでいった。
「にゃぁ」(バカみたいな魔力じゃったの)
とさっきまで大人しくしていたチェルシーが口を開く。
「ああ。正直驚いた」
と答えると、チェルシーが、
「にゃぁ」(お主とどっちが上じゃろうのう?)
と興味津々といった感じで聞いてきた。
「ふっ。魔力は使ってこその魔力だ。使えんなら意味はないさ」
と強がる。
しかし、私は内心、
(使えるようになれば、超えられるな)
と思いそっと苦笑いを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます