第15話「やっぱり仲良しが一番」
地上部分に見えた駐車場はどうやらダミーだったようだ。本命は地下にあり、そこには明らかに戦闘用のカスタマイズが施された車両が列をなしていた。
「他の人の姿が見えないようだけど……」
「もう待機済みよ。私達のは……あれね。あそこに見える黒いワゴン車に乗るわよ」
特攻野郎Aチームかな?
僕が「フェイスマン」だとしたら、真衣華は「クレイジーモンキー」だ。そうなると月野さんは悩ましいところだけど「B・A」だろうか。
後一人、肝心要の誰もが認めるリーダーである「ハンニバル」が欲しいところだけど、
「や。遅かったね」
車内には運転手とは別に今泉の野郎が待っていた。
「ダメだ……ダメだよ。あなたじゃハンニバルにはなれないよ……」
「ハンニバル? 残念だけど俺は人食いになる気はないよ」
「そっちのハンニバルじゃないんだよなあ。それはハンニバル違いだよ」
「だとすると特攻野郎の方かな?」
「あれ、意外と映画とか見るタイプ?」
「映画鑑賞は趣味だ」
前言撤回。野郎は言い過ぎた。映画好きに悪いやつはいないからね。
「んん! なんで今泉さんがここに? 予定では違いましたよね?」
「ああ、八田さんに無理言って配置を変えてもらったんですよ。アルターエゴの戦いっぷりを直に見たくてね」
「ということは、彼のサポートに入るんですか?」
「いや、俺は観戦だけさせてもらうつもりです。もっとも、そっちの彼が情けない戦いをするようだったら限らないですけどね」
そう言って今泉は僕に流し目を寄越してきた。
なんだろう、この、いちいち動作が鼻につく感じは。面がいいから似合っているのがより一層ムカつく。僕も負けじと、
「負け戦は僕の美学に反するんだ。お手を煩わせるようなことにはしませんよ。よ、よ、よ」
僕は一生懸命上から今泉に流し目を送った。セルフ効果音付きで。すると、
「あははっ、なかなか面白い子だね。最高のジョークだよ!」
失礼なやつだな。僕はちょお真剣だったぞ。
「彼変わってるんです。気を悪くしたなら私が謝りますので」
「いや、戦場に行こうというのにジョークの一つも言って場を和ませられるなんてなかなかできることじゃないですよ。戦場を知らない無知からくるものかな、はたまた畏れを知らぬ蛮勇故か。見極めさせてもらおうじゃないか」
「あなた失礼な人ですねって言われない?」
「一度も言われたことないけど?」
「意外だな。僕は今あなたからとても失礼を受けているというのに」
「それは失礼。ん? これじゃ本当に失礼していたみたいだな?」
「いやだから失礼してるんだって」
「ごめんごめん。君を見ているとどうしてもひよっ子新兵を思い出してしまってね。どういうわけか彼ら共通して初めての戦場に向かう時は大きい口を叩くんだよ」
「いや、彼は初めてというわけじゃ――」
月野さんが否定しようとしてくれていたが、僕は手でそれを制止した。
「ま、御託は戦いが終わってからということで一つ」
「そうだね。俺にポップコーンを食べさせるくらいの戦いぶりを期待してるよ」
微妙にピリついた空気感と共に車が走り出した。
原因ははっきりしている。今泉の野郎が僕に因縁をつけてきたからだ。そうじゃなければ月野さんと真衣華と僕のハッピーバレンタインフェスだったのに!
「そういえばなあなあで流していたんだけど、エスの海で死んじゃったらどうなるの?」
僕の言葉に今泉以外の人間は全員開いた口が塞がらないといった様子を見せた。反対に、今泉は肩を震わせ必死に笑いを堪えていた。
「貴方自分のコントラクターにそんなことも話してなかったの?」
「はっきりと明言してないだけで、わかってもらえているものだとばかり……」
「僕は現代人だぜ? 大事なことは一から十まで言葉にしてもらわないとわからないさ」
一瞬にしてわかった。空気が死んだ。先程までとは別のピリつき方だ。
「信じられない。貴方コントラクターをなんだと思ってるの? 自分がイドを倒すための道具だとでも思ってるんじゃないの?」
「そんなことは……」
「じゃあなんで説明してないのよ? エゴとコントラクターが一心同体の存在だっていうこと、エゴにとっては本能的にわかることでしょう? オリジナルは別だとでも言うつもり?」
「いえ、わかってるわよ……」
「だったら尚更何故? エスの海で亡くなった人がどうなるかなんて、普通契約する前に確認する事柄でしょう? そんなことも言っていないなんて、貴方まだ彼に説明していないことがたくさんあるんじゃないの?」
「おいおい待ってくれ。僕のために争わないでくれ」
「貴方のためを思って言ってるの。いい? エスの海で死んでしまった人に待っているのは『無』よ? 存在したって証が全部なくなってしまうの」
「それは違うわ。エスの海を知覚している人間だけは覚えているもの」
「それは私達の言い分よ。コントラクターなんて言っているけど、元々は一般人なのよ? 普通に暮らして、普通の交友関係を持っていたはずなのに、相手は彼のことを全部忘れてしまってる。こんな大事なことも説明していないなんて、オリジナルが聞いて呆れるわ」
「いや、それは契約した状況が状況だったんだ。真衣華が悪いわけじゃない」
「いーえ悪いのは彼女よ。貴方にはわからないかもしれないけれど、私達エゴにとっては契約という行為はとても重要な意味を持つの。望まない相手と契を結ばないように、最低限話しておかなければいけないことが沢山あるの。貴方契約の時にこの女と何を話したの?」
「それは……」
思い返せばあの時は何も話していない。しかしそれをかなり熱の入ってしまっている今の月野さんに正直に話すのは愚策だ。どうしたものか。
僕としてはこんな些細なことでせっかく結ばれつつあった真衣華と月野さんの絆を反故にしたくなかった。
何か場を好転させるきっかけはないか。そう思っていると救いの手は意外なところから現れた。
「まあまあ月野さん、彼も困っているようだしその辺で」
「今泉さん……!」
「確かに聞く限り彼とオリジナルの契約は通常のそれとは違ったものだった。しかし、エゴとコントラクターの関係は人それぞれ、ですよね? 彼らにとってはそれが普通だった。そうは思えないですかね?」
「それは、そうですけど……」
今泉からの助け舟というのが気に食わないが、今は全力でそれに乗るしかなさそうだ。
「少なくとも僕は納得して真衣華と契約した。それは変わらない事実だよ」
「そうなの?」
「うん。けど、エゴの常識? っていうのはきっと僕も真衣華も疎いから、今後も月野さんが教えてくれると嬉しいかな。もちろん、その時は優しくね?」
「……熱くなりすぎたわ。ごめんなさい」
「いえ、私も説明して当然のことをなあなあで済ませていたんだもの。あなたの怒りは当然よ。ごめんなさい」
「よし! これで仲直りだ。で、提案なんだけど今泉、席交代しない? 月野さんの隣っていうのが気に食わないんだ」
あまりにも唐突過ぎる提案だった。しかし、今泉は僕の意図に気付いてくれたようで、
「だが断る。というか先輩をつけろ先輩を。あんまり生意気だとイビるぞ」
「いいじゃないか減るもんじゃないし。君だってコントラクターなんだろう? だったらその子の隣に行ってやれよ。両手に花は僕だけで十分だ」
「しかし断る。お前だってオリジナルの隣に座ってるんだから十分だろ」
「僕は! 月野さんの! 隣がいいんだ!」
「俺だって! そうだ!」
そんな僕らのやり取りを横に見つつ月野さんは、
「なんでこんなやつのために真剣になっちゃったのかしら……?」
「司さん、意外と良いところ多いのよ?」
「ええ、どこが?」
「例えば――」
女性陣は女性陣で会話を始めてくれた。
うんうん、よかったよかった。いがみ合うのはよくないからね。仲良しが一番。
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