七月五日

 六時五分起床。

 身支度を整えて、六時五十分頃、よしこれから家を出ようという段になり、ふとスマホを確認すると、一限のドイツ語を休講とする旨の連絡が目に入る。

 どうやら教授がコロナに感染した模様。

 仕方ないので、外出着のまま、居間で母親と一緒に朝食を食べる。

 テレビを点けて天気予報を見る。今日の東京の最高気温は三十六度とのこと。これには自然我々は顔を見合わせて驚いた。

 朝食の日清のカップラーメンを啜りながら、

「今日は仕事は何時から?」

 と母親に尋ねると、彼女は、

「今日は病院へ寄ってから仕事に行くから、午後から」

 と返答した。

「昨日、産婦人科から電話が掛かって来て、ちょっと気になることがあるから、早急にもう一度検査したいって言われてね」

 実のところ母親は最近腸炎になり、三十九度の高熱を出して寝込んでいた。昨日、体調が少し回復して、四、五日振りに仕事に復帰した矢先のことである。

「大丈夫なの?」

 と自分が聞くと、

「もしかしたら子宮がんかもしれない」

 と柄にもなく弱気である。

「何かあったら連絡してよ」と自分は言った。

 そのあとテレビをニュース番組からYouTubeに切り替えて、ハイロウズの「夏なんだな」のMVを流す。すると冒頭の歌詞に「三十六度、炎天下」というのがあり、我々は顔を見合わせて笑った。

 十一時頃、家を出る。

 通学電車の中で、夏目漱石の『こころ』の文庫本を開こうとして、辞める。というのも、ちょうど自分が現在読んでいるのは、主人公の親父が病気で引っ繰り返りまもなく死ぬか死なないかという瀬戸際の辺であった。初読であるので、この先親父の病状がどう転ぶかは知らないが、けれどこれでもしこの親父が死んだならば、母親も突然容態が急変して、死んでしまうのではないだろうかと思われた。

 三限の国際政治の講義を受けているとき、ふとスマホに視線を落とすと、ラインが一件だけ来ているので、きっと母親からだろうと思って開く。

「意外に大丈夫でした。今までの薬で治るようです」

 との文言があり、胸を撫で下ろす。

 講義が終了して、四時頃に帰宅すると、母親はまだ帰っていなかった。

 五時半頃、母親は帰宅した。自分が「どうだった?」と聞くと、

「とりあえずがんとかではなかったよ。この前、内科(?)で処方された薬を飲んでいれば、大丈夫だって」

 と彼女は言った。続けて、「それにしても今日は暑いね」

 自分は「うん、本当に。三十六度だから」と返した。母親は笑った。

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