六月二十九日

 午前十時起床、終日自室に閉じこもる。

 昼頃、先日注文した、小谷野敦著の『久米正雄伝』が届く。想定していた三倍以上分厚いので驚いた。確認すると六百五頁もある。

 量が多いのは嬉しい限りである。が、装丁が安っぽいのが気に入らない。それに表紙の久米正雄のキメ顔には微苦笑を禁じ得ない。

 因みに久米正雄というのは、第一高等学校の芥川龍之介や菊池寛の同級で、また夏目漱石の木曜会の一員でもあった作家である。

 久米はこの芥川と菊池、それに松岡譲と成瀬正一の五人で、東京帝国大学時代に第四次新思潮(東大の雑誌)を作成したが、このとき芥川の発表した短編小説が『鼻』である。

 また久米はこの時代の話を材料にして『風と月と』という小説を書いている。これは私小説風の通俗小説であり、青春時代の若者のあの情動を本当に上手く描写していて面白い。

 まず憧れの夏目漱石への接近。

 次に主人公の久米正雄を中心とする、優等生の芥川龍之介、金持ちの成瀬正一、頼りになる松岡譲、京都の菊池寛という、個性豊かな友人五人から成る、第四次新思潮の作成。

 最後に『鼻』が漱石に絶賛され、一人新進作家としてその道を歩み出す、親友、芥川に対する、久米の応援と嫉妬の間で揺れ動く感情。

 まるで『BECK』みたいだ。


 一方で自分は明日友人と川崎へ遊びに行く約束があるのに、未だLINEの返信が来ない。

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