第2話 周(あまね)

 気付けば350ミリリットル缶はあっという間に空になっていた。

 昔の話を思い出して呑む酒は、後味が悪い。

 半袖の袖を更にまくり上げて昼飯をどうするか考えていたら、インターフォンが鳴った。


「どうぞ」


 玄関の扉をガチャリと開ける音が聞こえた。短い廊下をぺたぺたと歩いている。

 靴下が濡れているな、これは。


「雨と風のコンボ、マジで勘弁して欲しいんだけど」


 不機嫌さを隠さないで、甥のあまねが来た。


「じゃあ家で大人しくしとけよ」

「それは嫌」


 気持ち悪いと言いながら靴下を脱ぐ。しばらく手に持ったかと思うと、こちらに投げて寄越してきた。


きたな。何すんだよ」

ようくん、洗ってよ」

「なんでだよ、持って帰って家でやれ」

「今から洗濯して乾燥に回したら、僕が帰る時にまた履けるでしょ」

「お前、洗濯機回すのにも金かかんだぞ。洗剤代とか電気代とかさ」

「儲けてる癖に」

「過去の資産を食い潰してるだけの生活だっつーの」


 などと言いつつも、湿った靴下を洗濯機に入れてスイッチを入れてやる俺の優しさよ。


「昼、食ったのか」

「まだ。何か作るの?」


 周は棚からタオルを引っ張り出し、濡れた肩や髪を拭きながら冷蔵庫を開けて中を覗き込んだ。


「レタス、トマト、きゅうり、卵、豚ロース、もやし」

「適当に野菜のっけてぶっかけそうめんでもするか」

「げー。腹たまらなそ」

「30過ぎたらもうこれで十分なんだよ。嫌なら食うな」

「腹にたまらなそうなだけで嫌とは言ってないし、食うよ」


 俺が野菜を切っている間、周は鍋でそうめんを茹で、豚ロースに火を通し、錦糸卵を作る。


「相変わらず手際がいいな」

「父子家庭歴長かったし。昔やってたことはあんま忘れないよ」

「6年前はお前にとっちゃ昔なのか……」


 周は俺の姉の子どもだ。

 ただし、姉と周に血の繋がりはない。

 周は姉の夫となった男性と前妻との間に生まれた子どもであり、姉家族はいわゆるステップファミリーだった。

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