第28話 浪費と、自意識過剰
自意識過剰は浪費に厳しい。
などと自称するわりには、自販機で飲み物を買うのは大好きだし、ランダムグッズは買ってしまうし、食玩やハズレなしのアイテムが当たるくじなども好きである(おまけに競馬や宝くじも)。
浪費はいけないことだと知っている。
普段いちばん切り詰めるのは食費で、次に生活用品、最下位に存在するのが本を買う資金である。
本にだけは、どうしてもストップが効かない。
理由はこの上なく単純で、だいたい本屋で目につく本は「今の自分に必要とされている本」だと信じているからだ。それを見逃すと、頭の中でぐるぐる回り始める、「なぜあれを買わなかったのか」と。その後悔が胸にいくつも残った結果、大人になり財力を得てからというもの、ますます歯止めが効かなくなった。
特に入れ替えの激しいライトノベルに至っては、一度買い逃すと新品で手に入ることは極めて難しくなる。中古だとしても、大概の店のライトノベルの棚は狭い。
先日は、うっかり所持金の少なさから発売月に買い逃してしまったライトノベルのため、本屋を数十軒回る羽目になった。幸い、10店舗目で手に入ったから良かったものの、まさか大都会のライトノベルの棚が広い本屋にないとは思わず、そのたびにめちゃくちゃ焦った(置いてくださった店舗の皆様、誠にありがとうございました)。
そんな自分の「本を買わない」に対する切り札は、まさしく「本屋に行かない」である。
踏み入ることがなければ本を目にせずに済む。
ところがどっこい、出かける先々で本屋(と神社)に巡り会うのが自意識過剰としての宿命。
結局、本屋に入る。本を買う。
(神社では参拝とおみくじが必須。)
稀に目につく本がなく、本屋の空気だけ堪能して退店する場合もあるにはあるが、本当に稀だ。
そんな自分にとって、本に次ぐ浪費先が新しく生まれてしまった今日この頃。それが競馬と、ポジティブ人間とのお出かけである。
競馬は、罠である。
今年の秋から始まった自意識過剰の新たな趣味は、単に馬に賭けるだけではない。競馬場に行き、グッズを買ったりグルメを食べたりと「馬券を買う」以外にも楽しめることがめちゃくちゃ多いのだ。もちろん、競馬の本質である賭け、好きな馬の馬券を買うのも楽しい。ちなみに好きな馬は、自分が応援し始めてからまだ勝っていない。
なんとなくの予感だが、次は勝てる気がする……勝ってほしい……馬券はどのみち買う一択。
ポジティブ人間も、同様に罠である。
次々と提案される楽しそうな誘いの言葉に、自意識過剰は抗う術がない。ワードチョイスがブラックホール級の引力である。これで自意識過剰ばかりが楽しんでいてポジティブ人間が実は自意識過剰のことを嫌っているなどというオチがついていたら、自意識過剰は今すぐに土下座して誠心誠意謝らせていただいたのちに静かに太平洋に沈みたいと思っている。そうでないことを祈っている。
つまるところ、浪費は楽しい。
何にお金を支払うかというより、むしろお金がなくなることに楽しみを覚え始めている気がしないでもないが、それが事実だとしたら自意識過剰の脳が耐えられないので現実から目を逸らす。
逸らした先にあった自販機の中段左端、140円の「あったか〜い」チャイミルクティーにまた、自意識過剰は浪費する。
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