第17話 注文と、自意識過剰

毎年秋になると、カフェの期間限定ドリンクを飲むのが数少ない私の楽しみである。


例の有名なフラペチーノうんぬんの店では当然なく、果物をクラッシュしてスムージー的なアレにしてくれる店だ。普段外出も外食もしない自意識過剰にとって、珍しく毎年飲むべしと心に強く誓っているイベント。


先日、退勤ついでにショッピングモールに寄り、件の店に足を運んだ。すっかりハロウィンで飾り付けられたモール内を進み、本屋に向かいそうになる足を自制し(今月は節約のため我慢)、たどり着いた店。行くたび、混んでいて諦めていたが今日ばかりは空いている。ラッキー。


レジまで数メートルの距離から、さりげなく店頭の看板をチェック。この自意識過剰、できるだけ注文の際は店員さんと心を通わせ、意思の疎通をはかりたい。特に接客業の経験から、お客さんが何を言っているかわからないパターンは、店員さん側としても迷惑だと身をもって学んでいる。

ゆえに、注文するときはできる限り商品を指さし、口から発した言葉を確実なものにすべく誠心誠意心がけている(そのおかげで、ホットドッグが見当たらずサーモンバーガーを注文する悲劇が生まれる)。


……飲みたい期間限定ドリンクがない?

店の前の立て看板からカウンターに置かれたミニポップまで、隅から隅まで見つめても、その期間限定ドリンクだけが見当たらない。それ以外の期間限定ドリンクならあるのに。もしかしたら、今年から経費削減とか何とかで、販売する店舗が限られてるパターンとか……?


ないものを注文して困らせるのは、避けたい。


ないならないで、仕方ない。

諦め、レジに立つ。自分にとってはありがたいことに、店員さんは「少々お待ちください」と取り込み中。その間もしっかりとお品書きを端から端まで熟読するが、やはり見当たらない。

別の店舗では店の前に看板が出てたし、やはり販売する所としない所があるのだろう。


どうせなら期間限定を飲もうと、梨のスムージーらしき飲料を頼む。代金を支払い、レジのすぐ横にある受け取り口で待つ私の目の前に、まさか。


受け取り口のカウンターの奥に、飲みたかった期間限定ドリンクのポスターが貼られていた。

しかも普通に、大きいサイズで。


いやいや……マスクの下、思わず苦笑した。

あるなら自分がいま頼んだ梨スムージーはいったい……なんなんだ。絶望。なんで私の飲みたい期間限定ドリンクだけポスターなんだよ!看板も出してお品書きにも書いてくれよ!

まぁこうして失敗するほどエッセイもどきのネタになるしな、毎日がネタの宝庫で飽きないなワーイとヤケになりながら待つこと数分。


様々な感情渦巻くなか、あっという間に梨がクラッシュされてスムージーになって出てきた。

お礼を言い受け取り、フードコートまで。


まぁそんなこともあるよな、むしろそんなことばかりだよな、と自分で自分を慰めながら席に着いた。梨スムージーをひとくち。


びっくりするほど甘かった。うまい!

砂糖なしでこの甘さとは……もはや違法だ。


結局、梨の甘さですべてうやむやになって、複雑な感情はクラッシュ。また機会を見計らって、今度はきちんと飲みたい期間限定ドリンクを飲みに行こうと思いました。今回も日記テイスト。


食欲の秋がようやくやって来る。

おいしいものが目の前にあるとき、自意識過剰よりも食欲が勝つかもしれない。そのことに、最近希望を見出している。

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