第3話 エッセイに悩む、自意識過剰
3回目にして、もう何を書いたらいいのか分からなくなってしまった。1回目では思ったままに心の声を書き、2回目では自分の思うエッセイの形に沿うよう書いた。
3回目の題材を考えたとき、まずは身近に存在するポジティブ人間と自意識過剰について書いてみた。が、どうもしっくり来なくて全部消した。いわゆる全没である。
次に、アイドルと自意識過剰について書いてみたが、こちらもしっくり来ない。こうなると、たぶん小説のほうを書けという啓示が文章になっているのだと思うほかない。普段自分の感じる疑問や悩みを直接的に表現するのが(直接的というより直接、そのものである)エッセイだとすれば、間接的に表現するのが小説なのだろう。
ここまで書いてみてどうやら、奇数回は心の声ベースのエッセイ、偶数回はエッセイの形のエッセイを書きそうな予感がした。そうなればいいのだが、いやそうならなくとも、この文章が誰かの何かになればいいと願っている。
原付免許を持っている。
なぜ普通免許ではなく原付免許なのかといえば、単純に顔写真付き身分証明書が欲しかったのと、視力が0.7未満で普通免許は取れないからである。原付は視力0.5以上ならば取れるのだ。
顔写真付き身分証明書のために取った原付免許であるが、困ったことに講習での体験が忘れられない。ちょうど初夏で、若葉が青空に映える暑い日だった。ヘルメットで覆われた頭を汗まみれにし、わずかに吹く風と共に私は原付を初めて運転した。操作は極めて単純だが、自転車の感覚で乗っていると急に速くなったり止まったりする。コツをつかむまで1時間以上かかってしまった。
その日の講習に来た人たちの中で、自分がいちばん下手だった自覚はあるが、それにしても原付で走るのは気持ちがいい。自転車とはどこか違うのだ、何がと問われれば困るが。その日以降、原付とは無縁の生活を送っているが、街中で見かけると目で追ってしまう。いつか買って乗りたいものの、他にじゃんじゃん車が走っている道路を原付で走るのはあまりにも怖い。世界に私だけ取り残されたら、あるいは明日地球が滅亡するなら、そのときに乗ろうと思っている。
知り合うおばさまから「キャッシュレスなんでしょう、すごいわね」と言われる。若者の皮をかぶった人間ではない何かとしては、わりとつらい質問である。今年に入ってようやく、しかも強制されてキャッシュレスを始めた。使えばたしかに便利だが、世界が一変するほどの衝撃ではない。おばさまから次に飛んでくるのは「何のサブスクに入っているの?」である。動画配信サービス、音楽、洋服に花……数あるサブスクのいずれにも私は加入していない。だからアニメが覇権だなんだと盛り上がり始めた頃にようやくその存在を知り、録画しておけばよかったと先見の明のなさを恨む。配信停止にでもなって聴けなくなると困るから、地道にCDを買う。本も紙の本しか買わないので、いよいよ置く場所がなくなって泣く泣くダンボールに詰める。ふと思い立ったときに読みにくくて、腹が立つのは未来の自分である。
数年後、私は原付に乗っているのだろうか。
動画配信サービスで覇権アニメを悠々と見ているのだろうか。CDと本がこれ以上増えず、床が抜けないことを今日の私は切に願っている。
2013年頃が好きだ。学園ラブコメのライトノベルが棚を席巻し、売れてるラノベが片っ端からアニメ化し、記念に栞やらコースターやらお試し小冊子やらが配られた時代である。1冊600円前後で買えて、お小遣いで3000円をもらうとラノベ5冊分だなぁなんて思っていた。
今もラノベの新刊は欠かさずチェックするし、本屋に行けば必ずラノベコーナーを見るが、昔のようなワクワク感は満ちてこない。気になる本があっても、「あの頃のラノベより面白いのだろうか?」と無意識に比べてしまって、「いや、きっと面白いはずだ」とレジへ持っていく。ここで棚に戻してしまうと、どことなく作家先生に申し訳ない気がして、投資だと割り切り買っている。面白ければそれでいいし、つまらなければ執筆で失敗談として役に立つ。最近は昔のラノベを求めて、古本屋めぐりが休日のルーティーンになりつつある。人間の三大欲求が食欲・性欲・睡眠欲だと聞くが、人間ではない私は食欲・読書欲・音楽欲で生きている。
そしてまた、明日も本は増えていく。
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