第10話 恋の行方は
「シャルテ様!!ご無事だったのですね」
「えぇ、おかげさまでぐっすり眠れたわ。このお返しはちゃ~んとしてあげないとね!」
「ここは危険ですシャルテ様。ここは下がっていてください」
「はぁ?何言ってるの?私はシャルテ・グレイシスよ!黙って引き下がるほどお嬢様してないっての!」
「グレイシス…家(なんだ…どこかで聞いたことが)」
ルイスはグレイシスという言葉に反応して動きが一瞬止まる。
その隙に、靴を脱ぎルイスに向かって攻撃を仕掛けるシャルテ。
「さぁて、どこぞの誰だか知らないけど、倒させてもらうからね」
シャルテとルイスの取っ組み合いが始まった。
シャルテは何度もルイスに挑むが全てかわされてしまう。
「ぐぬぬぬ…ぜんっぜんあたらない!」
「シャルテ様!」
胸倉を掴まれ殴られそうになった瞬間、ルイスの振り翳した拳が止まり、一瞬の隙ができたのを見逃さなかったルヴァンはルイスの腕を掴み投げ飛ばす。受け身を取るルイス。
「うっ…!」
“さま…”
「何度も聞いた…その声…なんなんだ」
ルイスは苦み走った表情でシャルテを睨んだ。
今度はルイスに腕を掴まれ今度こそシャルテは投げ飛ばされる。
「シャルテお嬢様!」
「平気平気、何度もルヴァンにコテンパンにされてるんだから
これぐらい慣れっこ、よっと…」
「うぐぅ…な、んなんだ…知ってる、オレは…この名前も、声も…」
ルイスは突然頭を抱え苦しみ始め跪いてしまう。
「な、なに…どうしちゃったのよ?」
妙な動きをしているルイスに戸惑ってしまう。
ルイスは激しい頭痛に襲われる中、持っていたチョーカーに付いているクリスタルを握りしめると、クリスタルの力と闇の力が混ざり合ってルイスの体を無理やり立ち上がらせられてしまう。
操り人形のようになってしまったルイスの動きはシャルテを容赦なく追い詰めることになる。
「うっ…!急に動きが変わった!?このっ…(なんとか、なんとかできないの?)」
シャルテはルイスの連続攻撃に怯むも懸命に打撃を与えようとする姿にルヴァンはシャルテのフォローに入る。
「お願い!あたって、お願いっ!力を貸してクリスタル!」
すると、クリスタルの欠片がシャルテの願いに反応して光だすと、
シャルテの体に青いオーラが纏い体から不思議な力が漲ってくるのがわかった。
「…これって…ルヴァン!」
「はっ」
シャルテとルヴァンは互いに息を合わせ光の剣が作り出されると、
二人はそれをルイスに向けて振り翳す。光の剣はルイスの体を突き抜けた。
「ぐぅあああああああああ!!!」
“…お兄様…”
「…オレ、は…うぅっ!」
その場に崩れ落ちると、ルイスの体からウエンディの時と同様に黒い闇のオーラが消えていくのが見えた。そして青い光は輝きを止めた。
意識がハッキリしているルイスに近付くシャルテとルヴァン。
「くっ…オレは…いったい」
「黒いオーラも消えました。どうやら操られていたようですな」
「ねぇ、これ何があったの?どうしてこうなったの?教えてよ」
「ふぅ…それはなーーー……」
今までの事の経緯を説明してくれたウィリアムズに「そんなことがあったなんて…」と言いながら助けてくれた皆にお礼を言った。
ルイスとウエンディを抱え外に出る一行。
事は終息した、かと思えたが、ルヴァンはルイスに疑問を抱いたままであった。
黒い闇のオーラ、戦闘時の身のこなし、クリスタルが反応したことが気がかりだった。
「しかし、…いや、この一つしか考えられんな。
もしや、貴方様はロイド・グレイシス様でおられますか?」
一同その言葉に驚き目を丸くした。
「ロ、ロイド…おにいさま?」
「あぁ、そうだ。オレはロイド・グレイシス、それがオレの名だ」
「やはり、そうでしたか。ロイド様は10歳の頃に行方不明となり、それからはお嬢様…シャルテお嬢様がロイド様の代わりにグレイシス家をお守りしておりました」
「そうか、シャルテ、ありがとうな。そしてすまなかった。
皆に迷惑を掛けたようで…しかし、オレも10歳までの記憶しか思い出せない…
そのあとの記憶が思い出せないんだ…。オレは今まで何をしていたんだ…?」
ロイドはシャルテの頭をポンポンと撫でると嬉しそうな顔をしてロイドに笑顔を向けた。
「…ロイド様同様、ウエンディ様もあの黒い闇のオーラに包まれておりました。
瞳の色も現在のお色とは異なるお色でした。
すると、お二人とも誰かに操られていた…ということですな」
「操られてたって、誰に!?」
「ふむ…それは私にも分かりませんが、真の黒幕が別でいるということは確かです」
「真の、黒幕…」
∞∞∞∞∞
シャルテたち一行はお屋敷に戻り、皆に治療を施した。
医者にも見てもらったが幸い命には別条はないとのこと。
それから数日が立ち、シャルテは怪我の様態を伺いにウエンディとクラーンのお屋敷へと足を運んだ。
ウエンディは怪我も少なかったため元気そうであり、
「ごめんね、シャルテたちに酷いことを…!」と何度も謝罪をしてくれた。
ウエンディの様子にホッと一安心した。
シャルテは次にクラーンのお屋敷へと足を運ぶ。
クラーンの様態はというと、肋骨が折れているにも拘らず、
「もっと鍛錬を積まねば」と言いながら痛みに耐えながらも剣術の修行をしていた。
今回のことでシャルテの中でのクラーンのイメージが良い方向へと変わっていったようだ。
∞∞∞∞∞
シャルテはお屋敷へと戻ると早々にロイドの部屋へと足を向ける。
コンコン、とロイドのいる部屋のドアをノックして室内に入るとベッドの上に座っているロイドと視線が合った。
「ロイドお兄様」
「シャルテ、今まで苦労を掛けたな…すまなかった」
「いえ、大丈夫です。お兄様が無事で何よりです。どうかお体をご自愛ください」
「あぁ、ありがとうシャルテ。そしてこのグレイシス家を守ってくれてありがとう。
もう、無理はしなくていいんだからな。いろいろと苦労をかけたな」
微笑むロイドの表情に自身も自然と笑みを浮かべると、シャルテの頭を優しく撫でてくるロイド。
「グレイシス家に伝わるこのクリスタルも欠けてしまったな…あとで修復可能か父さんに聞いてみるよ」
互いに再会できたことを感謝し、今までロイドが居なかったグレイシス家のあったことをロイドに語っていた。
∞∞∞∞∞
ロイドの部屋を後にしたシャルテはルヴァンの部屋へと向かう途中悩んでいた。
「(お兄様が帰って来られた。なら、私はグレイシス家を守る跡取りとしてではなく…男性ではなく…女性として…。これから私はーーー…)」
そんなことを考えながらもルヴァンの部屋へとノックをしてから入る。
そこには窓際で庭園を眺めているルヴァンが居た。
「シャルテ様!」
「ルヴァン…傷はどう?」
「意外と浅かったので支障はありません」
シャルテは近くへ歩み寄りルヴァンの胸板にそっと触れる。
「お、お嬢様!?」
「助けに来てくれてありがとう…」
「お嬢様をお守りするのが私の務めでございます」
「そぅ、だよね…」
少しの間が流れる。どこか元気がないように見えるシャルテに声を掛けると。
「…ねぇ、ルヴァン。お兄様が帰って来られたことで、私はこれからどうしたらいいのかな?帰って来られたのはすごく嬉しいことなの!
…でも、私、その、お兄様が居ない間、グレイシス家を守る跡取り息子として今まで過ごしてきたから…もう、私は必要ないんだなって…」
「…お嬢様。このような言い方は如何なものかと思いますが失礼を承知で言わせていただきます。私にはシャルテ様が必要でございます。もう、貴女様は貴女様でいいのです。疲れたのであればその仮面を外してください。どのような姿であってもシャルテ様には変わりはありません。私はありのままのシャルテ様をーーー…!」
言いかけた言葉をぐっと飲み込む。代わりに優しく微笑みを見せる。
「え?ねぇ、今なんて言おうとしたの?」
「い、いえ、何でもございません」
「気になるから教えてよ」
「それは…さすがに、出過ぎたことと申しますか…妙なことを口走ってしまいそうに…ゴニョゴニョゴニョ」
なんとも歯切れの悪い言葉を並べては珍しく動揺しているルヴァンの姿にシャルテは自身の胸に手を当てた。
「ルヴァンのせいかも…」
突然の発言に何事かと思い慌てふためくルヴァンとは違い、切ない表情でルヴァンの顔を見る。
「私…いつもルヴァンと居る時、胸が張り裂けそうに苦しくなるの。
ルヴァンのせいだよ。こんなに苦しくさせてくるんだから…。
あのねルヴァン……私、貴方のことを本気で好きなの」
思いもよらぬ言葉に驚き、一瞬思考が停止しそうになった。
「な、にを仰るのですか?」
シャルテはギュッと自身の服の裾を掴み、意を決して自身の思っていることを吐き出した。
「わかってるの、自分でも、こんな子供で、お淑やかな淑女じゃない、じゃじゃ馬って言われるぐらいお転婆だし…ルヴァンには好きになってもらえないって全部分かってる、分かってるけど……私はルヴァンを好きでいる気持ちに気付いてしまったの。
あの時から、あの木の下で助けてもらったあの日から、ずっと、ずっと貴方に思いを馳せていたの…」
「お嬢様…」
「ルヴァンに稽古ばかり付き合わせていたのは、ルヴァンに勝って私がもう、子供ではなく、一人の大人として見てもらいたくていつも挑んでいた…あれが私にできる精いっぱいの背伸びだった。でも、いくらやってもルヴァンには敵わなくて…。
悔しくて。ルヴァンに認めてもらいたくて」
泣き出しそうになるのをグッと堪えているとルヴァンが口を開いた。
「…厳しく聞こえるかもしれませんが、今から言う言葉は執事としてではなく、
私個人の気持ちを述べます。それを聞いた上でよくお考え下さいますようお願い申し上げます」
固く口を結び、固唾を飲みシャルテはルヴァンの言葉に耳を傾ける。
「シャルテ様は私の心をかき乱すのが得意なようですね。
毎日幾度となく振り回されるばかりで正直堪える時もございます…。
ですが、シャルテ様。先ほども申したように、貴女様は貴女様でいいのです」
ギュッとルヴァンに抱き着くシャルテに少し驚くがそのままそっと包み込むようにして抱きしめる。
「このような気持ちを抱いてしまったのはイケないことだと思います。
ですが、それでもこの想いを止めることはできないのです。
シャルテ様、私の想いを聞いてくれますか?」
そしてゆっくりとシャルテを離し瞳を見つめると、
ルヴァンは跪きシャルテの手を取り口を開いた。
「シャルテ様、私は貴女様のことを…ずっとお慕いしております…
今も昔も、そしてこれからも…この想いに変わりはございません」
「ルヴァン…!私ーーー……!」
再びルヴァンの胸板に飛び込み涙が溢れだすシャルテを、今度はギュッと強く抱きしめた。
「シャルテ様はいくつになられても涙ばかり流すのですね」
「こ、これは、嬉し涙だからいいの!」
「ハハハ…!かしこまりました」
「もぅ!」
珍しく大笑いするルヴァンにつられて一緒に笑ってしまう。
そんな穏やかな日々が続きますように…そう願う二人であった。
じゃじゃ馬ヒロインでもいいですよね!~『男』と間違られる『ヒロイン』じゃダメですか?~ オジ万剤 @ojibanzai
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