第6話 抹茶白玉あんみつ ②
(しばらくは二人でもぐもぐしている音。続けて後輩がカメラを構える音)
「えっ、もう再開して大丈夫なの?」
「わかった。じゃあ、次いくよ」
(録画スイッチを入れる音)
「まずは、抹茶アイスと小豆餡のコラボだよ(スプーンを舐める音)」
「冷たぁい。でも、この抹茶の苦みと小豆餡の甘みが互いを補い合ってていい感じ。もう一口いくね」
「う〜ん、この組み合わせ完璧! 最強の『和』だね」
「次はねぇ(意味深にちらりと後輩を見る)」
「きなこちゃん、食べちゃうよ」
(目を丸くした後輩にいたずらっぽく笑いかけながら)
「この栗色の餡、実はきな粉味の餡なんだって。だからきなこちゃん」
(納得した後輩。一口掬い取って口へ運ぶ先輩)
「あ、すっごい、きなこだ!」
「あ、語彙力がなさすぎるわね(苦笑い)」
「甘さ控えめで、きなこの豆の風味がふわって、鼻に抜けてくるの。美味しい〜」
(パクパクと勢いよく食べていく。最後の一口を舐め終わったところで)
「······ねぇ、もしかして······」
「毎晩きなこちゃん抱いて寝てたりするのかな?」
(照れくさそうに頷く後輩)
「(小声で)え、まじで!?」
「そ、そっかぁ〜。いいなぁ。きな」
「えっ、あ、そうだよね〜。体温がほっこり湯たんぽみたいで、トクトクって小さな心臓が鳴っていて、一緒に寝たら癒されるよねぇ」
「(小声で)変わりたいなぁ······きなこちゃんと」
「あっ、えっと、きなこちゃんと一緒に寝られていいなぁって」
「(小声で)違うぅ~。本当は君と寝られるきなこちゃんに嫉妬してるの〜」
「ふぇ、動画? あ、きなこちゃんの動画ね。後で見せてくれるんだ。(ちょっと棒読み)うわー、楽しみー」
「じゃ、じゃぁ、次にいこうかなぁ」
「えっと、次は、黒蜜を絡めながら、寒天食べるよ」
「透明な方から」
「うん、普通に美味しい」
「うわっ、こんな言葉じゃ、食レポ失敗だわ」
「そんなこと無い······なんて······嬉しいなぁ。君はいっつも、欲しい時に欲しい言葉をくれるね。ありがとうっ(とびっきりの笑顔で)」
(後輩は動揺でカメラをガタリとテーブルに落とす)
「だ、大丈夫?」
「携帯は問題ないよぉ。気にしないで。録画も大丈夫だよ。だって······編集できるんだから、ねっ」
「それより、ずーっとカメラを構えていて、腕疲れちゃったでしょ。そろそろ終わりにしようか?」
「えっ、大丈夫って。やっぱり君は真面目だね」
「じゃあ、後二つだけね。一つ目は、コーヒー寒天と黒蜜ー。いくよっ」
(スイッチ音)
「よーくよーく絡めたら、琥珀色が焦茶になりました。暗黒に近づきし蜜の味、いざっ!」
「あははっ、ウケすぎ〜」
(笑いながらも携帯がブレないように必死の後輩)
「でも、君が笑ってくれると嬉しいなぁ」
(再び携帯を落としそうになって、先輩が一緒に支える。スプーンを投げ置く音。一旦停止のスイッチ音)
「うふふ、落ち着いて。一緒に深呼吸しようか」
(すーはーと二人の深呼吸)
「落ち着いた?」
(うんうんと後輩)
「あっ······手······」
「(小声で)手、繋いじゃった。ラッキー」
「こ、コホン」
「そ、そろそろ再開しようか」
(動揺を必死で隠しながら頷く後輩。再開のスイッチ音)
「えーっと、コーヒーと黒蜜のハーモニーは······ん、おいひい!」
「和洋折衷が見事だよ。あ、そっか。コーヒーの苦みと黒蜜の香ばしさが重なり合って、深〜い味わいを奏でているんだわ」
「(パクパクと)味が分かる大人向けって感じ。うふっ」
「ああ、美味しかった。それじゃ、最後に······サクランボでーす」
「見てみて。フルフルフリフリ(楽しそうにサクランボを揺らしながら)」
「この見た目だけで可愛いよねぇ。でもぉ、一口で食べちゃいます」
(顔を少し斜めに向けて顎を上げて。口は半開きで舌先が見える。視線はカメラを見つめて)
「あぁ〜〜んっ」
(サクランボの丸い部分を一口で)
(味わいつつもぐもぐ。途中から種を舐める音。ティッシュに種を出す)
「思った通り、あまーいサクランボでした」
「完食っ!」
(手を合わせて)
「ごちそうさまでした」
(スイッチを切る音。ふうっと後輩の緊張が解けた様子が伝わってくる)
「お疲れ様でしたぁ。今日もありがとうね」
「あの······ね」
「良かったら、この後の花火大会、一緒に見てくれる?」
『抹茶白玉あんみつ』完
続きは『雪花冰(シュエファービン』です。
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