第7話 雪花冰 (シュエファービン)

(そーっと後ろからツンツン)


「お待たせっ」


「びっくりした? うふふ。今日もよろしくお願いします」


「あっついねぇ。でも、絶好のかき氷日和だね」


(店の扉を開けるといくつもの風鈴の音が鳴る)


「風鈴……綺麗な音。ねぇ、すっごく涼やかな音色だよね。こんなBGMもいいね」


(うんうんと頷く後輩)


(「いらしゃいませ」等の声)


「今日の目的のお菓子は『雪花冰シュエファービン 』って言って、台湾発のかき氷なんだよ」


「多分大きくて量が多いと思うの。だからね……良ければシェアしてくれないかなぁと思っているんだけど……」


「えっ、いいの。やったっ!」


「どのフレーバーにする?」


「えー、私が食べたいのでいいの? 優しいなぁ」


「苦手なモノとかある?」


「好き嫌い無いの? でも辛いの苦手なのね。あ、じゃあ唐辛子いっぱいの料理とか激辛カレーとかは難しいね。私も一緒だよ。良かったぁ」


「うーん、じゃあ、かき氷のフレーバーはシンプルなミルクで、トッピングはマンゴーとタピオカと仙草ゼリーと……」


「グァバの粉粿フングイにしようかな。ピンク色で可愛いから」


「ちょっと盛りすぎかしら。でも、二人だから食べ切れるわよね」


(後輩はドキマギしながら頷く。注文する声)


「ありがとう。楽しみだね」


「……この前の花火、綺麗だったね。生で見たの、久しぶりだったから感動しちゃった」


「君も子どもの頃以来だったの? 見れて良かったって……うふふ、そう言ってもらえて良かった」


「なんか、もっと見たくなっちゃったのよねぇ。他の花火大会の日程も調べておこうかなぁ(ちらりと後輩を見る)」


(どう返事すれば良いかと戸惑う後輩。かき氷が届いて返事は保留に)


「うわぁ、大きいね。これだとやっぱり、シェア一択だね!」


「まるで氷のピラミッドって感じ。この迫力、写真でも伝わるのかな」


「おお! 俺様風雪花冰シュエファービン(大笑い)」


「いい、この写真、めっちゃいい。流石だね」


「うふふ、じゃぁ、早速食べましょう!」


「どこから食べるか迷っちゃうね。トッピングが転がり落ちそう」


「あ、そうだった! 今日はカメラスタンドを用意してきたの」


「だって、君にも一緒に食べて欲しいからね」


「えっ! 食べながら撮影するから大丈夫って……それじゃ食べづらいでしょ」


「片手で充分って、そ、そうなの!? うふふ、ありがとう」


「じゃぁ、いくよっ」


(録画スイッチの音)


「まずは〜、本命のミルクかき氷がトッピングで隠れてしまっているので、上から順番に食べていきますね」


「一番最初は、ゴロゴロマンゴーです」


「うーん、あ、甘い。良く熟していて、柔らかくてジュワ〜っと甘みが広がりました。美味しい」


「君も食べてみた? うふ、美味しいでしょう」


(カメラ越しにうんと頷く後輩)


「次はタピオカ。これはもう、食べたことある人多いよね」


「うん、モチモチしていて、小さいけど歯ごたえバッチリです」


(カメラに向かってもぐもぐにっこり)


「残りの二つは、初めての味になります。まずは……名前が面白い粉粿フングイを食べてみますね」


「見た目は四角くて、透明感があります」


「舌先で転がしてみると……ぷるぷるしてる」


「でも、噛んでみると思っていたより弾力があって、ぷにゅって感じ」


「うふふ、面白い。ぷにゅぷにゅ」


(キラキラした視線で後輩を見つめる)


「ねえねえ、食べた?」


「舐めると舌に吸い付くようなぷるふにゃ感があるでしょ」


(真剣な顔で舌先で転がし確かめる後輩)


「ねぇ、桃色の柔肌のような舌触り。気持ちよくって、クセになりそうでしょ」


「(洗脳するように)次は優しく噛んでみて……」


「(囁やくように)ふふっ、柔らかいでしょ」


「ふわっとグアバの甘みが口の中に広がって」


「もっと……欲しくならない?」


(ハッと我に返る後輩。いつの間にかカメラ操作を忘れていたことに気付いて、慌てて一旦停止する)


「あ、ごめんね。また、邪魔しちゃった」


「えっ、すみませんなんて、君のせいじゃ無いよ。余分なこと言って気をそらせたの、私だから」


(二人で照れる)


「うん、そうだね。溶ける前にどんどんいこう」


(録画スイッチオン)


「じゃあ、続きは仙草ゼリーだよ。焦げ茶色で、コーヒーゼリーって言われたら信じちゃいそう」


「でも、味は……漢方薬みたい」


「苦くは無いけど、草の香りがいっぱい。でも、体に良さそうな気がする」


「食感は、ちゅるんって感じ」


「弾力はあまりなくて、舌で潰せるくらい柔らかいです」


「わーい、いよいよミルクかき氷だよ」


「君はそっち側から、私はこっち側からね。じゃあ、いくよ」


(サクッと掬って口に入れる音)


「あぁ、溶けるぅ〜」


「冷たくて甘くてサイコウ!」


「シャリって。音入ったかな?」


「もう一度いくよ。(氷を噛む音)」


「うふふ、なんか音だけでも涼しそうだよね。ミルクとお砂糖が入っている氷なので、普通のかき氷よりもしっとりしています」


「ねっ、『いっせいのせっ』で食べる音撮ろうよ」


「いい? せーのっ」


(氷を食べる音)


「わぁ、ハモった!」


「もう一回やろうっ」


(二人で氷を食べる音)


「うふふ、楽しい〜」


「もう一回〜」


「あっ、キーンってきちゃった。(小声で)ッツゥ……」


(慌てて録画スイッチを止める音)


「……ごめんねぇ。調子に乗って食べすぎちゃった。でも、もう大丈夫だよ」


「もう、そんな顔しないで」


「心配させちゃってごめんね」


「でも……嬉しかったよ。ありがとう」



 『雪花冰シュエファービン』完

 続きは『媚酒 サバラン』です。

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