第5話 抹茶白玉あんみつ ①

(草履の音)


「お待たせ!」


「······どう、かな?」


「凄く似合ってる! 良かったぁ〜(ほうっと安堵のため息)」


「きょ、今日は和風なお菓子だから、服も合わせて浴衣にしてみたの」


「えっ、演出が細かいって。うふふ、任せて」


「(小声で)うーん、今夜花火大会があること、気づいてないのかなぁ?」


「(更に小声で)ま、いっか。食べた後にさりげな~く誘っちゃおう」


「ううん、何でもない。じゃあ、行こっか」


(一緒に歩く足音)


「ごめんねぇ。浴衣だと速く歩けなくて」


「そ、そうだよね。たまにはの~んびり歩くのもいいよねぇ。それに······」


「一人じゃないから······君と一緒に歩いているから、楽しい。うふふ、ありがとう」


(カラカラと引き戸を開ける音)


「うわぁ、中、涼しいね」


(「いらっしゃいませ」「ご案内します」などの声)


「今日のお目当てはね、『抹茶白玉あんみつ』だよ。今日は、二つ注文ね。うふふ、良かった」


(「お待たせしました」と店員が運んでくる)


「うわぁ、綺麗だねぇ」


「まずは、写真撮影、お願いね」


(カシャカシャとシャッター音)


「宝石箱みたいだね〜。白と緑の白玉に、黄色にピンクのゼリー、琥珀色と透明な寒天が散りばめられていて、小豆餡と栗色の餡。抹茶アイスにサクランボ」


「食べるのがもったいないね」


「でも、早く食べたい。うふふ」


「ごめん、焦らせるつもりじゃなかったんだけど。でも、早くぅ、なーんてね(いたずらっぽく笑う)」


「ありがとう! うわぁ、美味しそうな写真。流石だねぇ」


「よし。じゃあ、次、食べるところの動画撮影、いくよ」


「よろしくお願いしますっ」


(撮影スイッチを入れる音)


「今日は『抹茶白玉あんみつ』を食べにきました。綺麗でしょ」


(お皿を回し見せる音)


「まず最初に、黒蜜をかけますね」


(黒蜜を回しかけていく)


「とろ~りとして美味しそうです。きらきらが増えました。(後輩へ笑いかける)うふふ」


「えっと、一番最初は······やっぱり、抹茶白玉餅だよねっ。いただきます」


(パクリと一つ口に入れる)


「ん、んん〜、(もぐもぐ)ん〜、モチモチしていて美味しい〜」


(もぐもぐと食べる音)


「最初にふわっとお茶の香りがして、爽やかだけど、ちょっと苦みもあって」


「一つが結構大きいので、一個丸ごと入れると口の中がいっぱいになっちゃいました。でも、この弾力がいい!」


「次は、黄色のゼリーを食べてみます」


(すうっとカメラへ顔を近づけながら、一口齧る)


「あ、柚子の味がするよ。ゼリーなので、ぷるんって口の中で揺れるぅ。ね、聞こえる?」


(うんうんと後輩。もぐもぐと咀嚼音)


「次はピンクのゼリーにいきます。ん? あれ、これゼリーじゃない。琥珀糖ってやつだと思う。早速食べてみますね」


(シャクっという齧る音)


「外側がカリッとしていて、中はもっちり。この感触は癖になりそうです。むふふ」


「味は、桃かな」


「じゃあ、次はこの琥珀色の寒天ね」


(二つ同時に入れて噛む音)


「おお、意外だわ。コーヒー味だった。寒天は弾力より、サクッと砕ける感じがいいわね」


(寒天をもう一口。もぐもぐ)


「これ、いろんな食感が楽しめて楽しい!」


「次は······あ、抹茶アイス、早くしないと溶けちゃうね」


(慌てたように後輩へ向かって)


「一旦止めようか。抹茶アイス、先に食べて」


「え? 溶けてもいいって······私が食べるところを撮るのが先って」


「んもう、やっぱり君は真面目だなぁ」


(どうしようかと少し思案してから、徐ろに後輩のスプーンへ手を伸ばす)


「じゃあ、強制的に食べさせちゃおうっかなぁ(小悪魔的笑みを浮かべながら)」


(慌てた後輩、カメラのスイッチを切る)


(後輩のあんみつから抹茶アイスを一すくいする音)


「うふふ。はい、あーん」


(驚いて見つめる後輩)


「さぁ、あーん」


(流されるまま口を開ける後輩。スプーンを舐める音)


「いくら撮影のためと言ってもね、私だけ食べるのは気が引けるから」


「だから······うふふ。『先輩の言うことを聞かないとあーんの刑』でしたー」


「うふふ、一緒に食べながら撮ろうっ!」


(うんと素直に頷く後輩)


「良かったぁ。びっくりさせちゃって、ごめんね」


「(小声で)あ、でも、別にあーんはいつでもやってあげるって言うか······」


「(更に小声で)本当は私もやって欲しいかも······なんて思っていたりして」


「えっ、な、何でも無いっ」


 続きは『抹茶白玉あんみつ ②』です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る