第4話 天使のショートケーキ ③
「······えっと、編集で音声を消したり、場面を切ったり繋いだりできるんだったら、失敗してもなんとかなるよね」
(うんうんと頷く後輩)
「良かったぁ。じゃぁ、続き、いくね」
(携帯のスイッチを押した後輩。逆に録画停止したことに気づき慌てて再度押す音。先輩はそのことには気づかず、二口目を掬いファインダーに見せるように近づける)
「見て見て。中に苺がいっぱいだよ」
(ゆっくりと口元へ。ぱくりと口に入れる)
「う〜ん。おいひい〜」
(もぐもぐとよく味わっている音。苺のつぶつぶを噛む音)
「やっぱり苺の層が三段は強いねぇ。果肉の歯ごたえがしっかりあって、最高」
(もう一口頬張ってもぐもぐ)
「あ、そうだ! 君はどっち派? この上に乗っている苺を、最初に食べちゃう派か、最後に食べる派。あ、途中で食べる派もいるわね」
「私はねぇ、いつもは最初に食べちゃう派なんだけど、今日だけ特別。最後に食べることにしますっ」
「えっ、君は最後に食べる派なんだね。うふふ。イメージ通りかも」
「どういうイメージか気になる?」
「ふふふ。それはねぇ、我慢強くてコツコツ頑張れる人。最後に美味しい味で口の中をいっーぱいにして、それを大切に楽しめる人」
「彼氏だったら、最高だよね~(もう一口頬張りもぐもぐ)、う〜ん、甘酸っぱくて美味しい〜」
(後輩君、動揺で画面がブレる)
「ん、大丈夫? 一旦休もうか?」
(いえいえと首を降る後輩)
「じゃぁ、続けていっちゃうよ」
「次は〜天使の羽。食べるのもったいないなぁ。でも、やっぱり食べたい。うふふ」
(そうっと一枚剥がして)
「飴細工の羽、細い筋が幾重にも重ねられてとっても綺麗です」
「(ちょっと声のトーンを落として)それでは、いきますね」
(ポキっと齧る音)
「聞こえた?」
(うんうんと頷く後輩)
「ポキポキいって面白い。今度は一気にいくよ」
(ぽきぽきっと羽を噛み進める音)
「口の中でもパキッパキッっていってる。聞こえる?」
(顔を彼に近づける。画面で追えなくなり慌てる後輩。一旦録画中止)
「あ、ごめん。直ぐカメラのこと忘れちゃう。でも、ね? 聞こえた?」
(舌先で転がしながらパキリパキリと噛む音。うんうんと頷く後輩)
「なんか透明感ある音で綺麗でしょ」
「うふふ。じゃぁ、撮影再開ね」
(撮影スイッチを押す音。徐々にパキパキ音が消えて舐める音)
「天使の羽、食べちゃった。甘くて美味しかったです。次はホワイトチョコの羽でーす」
「あ、やっぱりもうちょっと近く無いと撮りづらいね」
(ズズッと椅子を動かす音)
「これくらいなら大丈夫かな」
(ドギマギしながら頷く後輩。先輩はケーキからホワイトチョコの羽を一枚外して口元へ)
「じゃぁ、これ、噛んでみるよ」
(羽の真ん中を噛む。ポキっという音)
「薄いから、すっごく小さな音だったけど聞こえた?」
(うんうんと頷く後輩)
「こちらはあっという間に舌先でとろ~りと溶けてしまいました」
「だから、もう一枚目は、そのまま舌に乗せちゃいます」
「(口を開いて舌先にそうっと羽を置いて閉じる)あ〜むん······」
「う〜ん、ふわ~って······口の中で淡雪が溶けてくみたいな感じ。幸せ〜」
(しばらく舐めている音)
「終わっちゃった。美味しかった〜」
(後輩へ目を向けて)
「疲れたでしょ。今日はここまでにしてコーヒー飲もうか」
(録音停止音。ほうっと肩の力を抜く後輩。カチャカチャと紅茶を飲む音とストローでアイスコーヒーを飲む音)
「最初は緊張したけど、だんだん慣れてきたわ。君のお陰だね。ありがとうね」
(携帯を後輩から返してもらいながら)
「ん? 画像の確認は······大丈夫。君の腕信用しているから」
「家に帰ってからじっくり見るね」
「って、あの、ほら、どこを残すかとか色々考えたいし。そういうの決まったら、編集お願いするね」
「その時はまた、よろしくお願いします」
(二人でお辞儀し合った後、また紅茶とコーヒーを飲む音)
「······天使って言ったらさ、愛のキューピットのイメージあるよね」
「あ、えっとね、フォトスタにアップする時のキャッチコピーを考えていたの」
「『天使の羽のショートケーキ』ってだけでもいいんだけどね、もう少し、ぐいって気持ちに訴えかける感じにしたいなって思って」
「そうだ!」
「『片恋を両思いに 願いを叶えるキューピットのケーキ』なーんて、どうかな。いい感じじゃない」
「好きな人と一緒に食べたら、恋愛成就しちゃうかもしれないって、ワクワクするでしょ」
(チラリと後輩を見る)
「ね、どうかな?」
「これで本当にそうなったら、説得力マシマシだよねぇ(チラリ)」
「······なーんてね。あはは」
「あ、苺。今日はちゃんと最後まで我慢したから偉いでしょ」
「うふふ、いっただきま~す。はむっ」
(もぐもぐ、苺を噛む音)
「甘くって幸せ〜」
「(小声で)今日はこれくらい揺さぶりをかければ十分かしら、うふふ」
「えっ? 何でもない、独り言だよ。うふっ、今日はお疲れ様でしたー」
(ぐいっと近づいて耳元で)
「ありがとう。また、次回もよろしくねっ」
『天使のショートケーキ』完
続きは『抹茶白玉あんみつ ①』です。
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