第6話 薬草納品


 俺たちはペガサス馬車で街道を移動し、三時間くらいで都市リバスの正門前へと到着した。


 ユニコーン馬車で半日かかると聞いていたが、上位種のペガサスなのでだいぶ速かったようだ。


 都市リバスは城塞に囲まれていてそれなりに大きい。城塞都市っていいよな、響きがかっこよくて。


 ちなみに馬車は街の近くでメルが美味しく頂きました。街に入れても駐車する場所がないので邪魔だしな。ペガサスも魔王国に向かうように指示しておいた。


 なので俺たちは徒歩で都市リバスの中に入って、広場らしきところで話し込んでいる。


「あの。お二人とメルちゃんはこれからどうするつもりなんですか?」


 俺たちをここまで案内してくれたサリアが、俺たちに話しかけてくる。


「冒険者ギルドに戻って薬草採取の依頼達成報告をするよ」


 背中に背負ったカゴを軽く揺らすと、サリアは少し不思議そうに首をかしげて来た。


「なんで凄腕のテイマーのマノンさんが薬草採取を?」


 おっと。ちょっと痛いところを聞かれてしまった。


 なんでと言われると返答に困ってしまう。とりあえず人の街に出向いてテイマーについて調べようと思ってただけだからなあ。


 だがノープランではないぞ。ちゃんと金は持ってきてるから宿とかとれるし。


 さてどう答えようかなと悩んでいると、フェニが任せてくださいと勝気に笑ってウインクしてきた。


 なにやら考えがあるみたいなので、任せたとアイコンタクトで返すと。


「実はマノン様はまだテイマーになったばかりなんです! なので簡単な依頼から受けています!」


 などとフェニが事実をそのまま告げるが、


「……えっ? マノンさんって熟練のテイマーじゃないんですか!? ユニコーンをテイムした上に進化までさせてましたよね!?」


 さっきの一件があるから初心者テイマーは無理があるだろう。魔王国ではペガサスもすごい魔物ではないが、人間の世界ではそれなりの魔物だったはずだ。


 さてフェニはどう言い訳を考えているのだろうか。


「ああ、それなら簡単ですよ」


 フェニはどう言いつくろうのかと見ていると、彼女は俺の肩をポンと叩いてきて。


『魔王様、助けてください! ボク、ペガサスのこと完全に忘れてました!?』


 などと俺にだけ伝わるようにテレパシーを送ってきた。


『あれだけ自信満々でそれかよ!?』

『だってペガサス種って弱い魔物じゃないですか!?』

『人間にとっては強いんだよ! もう少し考えてから発言しような!?』

『考えなしの魔王様だからここにいるんですよね!?』

「あ、あのー。どうされました?」


 いかんサリアに怪しまれてしまう。ここは多少無理筋でも言い訳をしよう!


「実は俺は未開の山奥の地から出て来たんだ。なのでテイマーとしての手柄がないんだ」


 そんなに嘘は言ってないぞ。俺は魔王国という人間にとって山奥どころじゃない未開の地からやってきてるからな。ペガサスもテイムしてるわけじゃない。配下なだけだ。


 流石にごまかせないか? いざとなったらサリアの記憶を消すという荒業も出来るが……。


 するとサリアは俺を見つめて来たあとに。


「マノンさんすごいです! どおりでテイムされていたユニコーンを、あんなにあっさり進化させて言うこと聞かせたわけです!」


 などと興奮しながら俺のほうへ近づいてきた。


 え? あのわりと苦しい言い訳でごまかせたの? まじか、言ってみるもんだな。


「そういうわけで薬草採取の依頼をこなしてたんだ。最初から難しい依頼は受けられないって言われてな……」


 実際受けられなかった。ドラゴンくらいデコピンで倒せるのに……。


「それよりサリアこそ優秀なテイマーなんじゃないか? スライムの言葉が分かるんだし」


 スライムの言葉が分かる人間は貴重だ。というか俺は見たことがない。


 それに彼女のテイムしているラムもしっかり育てられているし、優秀なテイマーにしか思えない。


 だがサリアは暗い顔をして視線を地面に落とした。


「……そんなことありませんよ」


 サリアは先ほどと違って元気のない声で告げてくる。どうやら地雷を踏んでしまったようだ。


「……すまない」

「い、いえ気にしないでください。それより冒険者ギルドに行きましょう」


 しばらく歩くとギルドの建物に到着したので中に入る。内装は依頼の貼ってある掲示板や受付カウンターなどにさらに酒場も併設されている。


 魔物を連れている者も何人かいるが、彼らの魔物にも従属魔法の焼き印をつけられてるな。見ていてあまり気分のいいものではない。


 空いてる受付カウンターに近づくと、受付の女性は俺を見てニコッと営業スマイルしてきた。


「マノンです。薬草採取が完了しましたので納品します」

「承知しました。随分多く採ってきたのですね。依頼した量の倍以上ありますよ」

「多い分は俺の方で引き取りますので」


 この薬草は色々と使い道があるので持っていても損はない。


 すると俺の横の受付カウンターでサリアが頭を下げていた。


「申し訳ありません。薬草採取の依頼ですが期限内の達成が難しそうです……盗賊に襲われて落としてしまいました」


 そうか。彼女も依頼を受けていて帰りに盗賊に襲われたんだ。


 なら依頼なんて達成できるわけがない。すると隣の受付さんは大きくため息をついた。


「はあ……魔物に焼き印を押さないからそんなことになるんですよ。いいかげん身の程を弁えたらどうですか? どうせ盗賊に襲われたのも嘘では?」


 なんて態度だ。これが受付かよ。


 依頼を達成できなかったサリアに非がないとは言わないが、盗賊に襲われたのだから仕方のないところもあるはずだ。それを嘘と断じるとは。


 ましてや魔物に焼き印を押さないからとは、こいつもあの盗賊と同じような酷い奴としか思えない。


 つけてるメガネもフチが黄金で妙に趣味が悪く思えてしまうし、そもそも顔から陰湿さが漂ってくる。


「(すみません。あの者はランクの低いテイマーに対して、辛辣な物言いをすることで有名でして……ギルド長の息子で私たちも強く言えなくて)」


 俺を対応していた受付さんが小さな声で告げて来た。あの陰湿メガネは冒険者ギルド長の息子と。


 道理で他のギルド職員たちも顔をしかめながら見ぬふりをしているわけだ。ここで迂闊に言及しようものなら自分たちの首が飛ぶからな。


「なるほど。ちなみにあの娘が受けていた薬草採取って、俺のと同じだったりしますか?」

「ええはい。同じのはずですが……」


 なおも隣の受付はサリアを見下し続ける。


「そもそも盗賊に襲われたからなんだと言うのですか。プロならどんな時でも結果が全てでしょう。当然ながらペナルティは受けて頂きますが、貴女はテイマーなんて向いてませんよ。さっさと辞めたら……」

「俺とこの娘で一緒に納品しに来たんですよ。確認してもらえますか?」


 俺はサリアたちの間に割り入って、薬草の入ったカゴをカウンターの上に置いた。


 すると二人とも俺の方に視線を向けた。


「マノンさん!? そんなの……」

「ちょうど薬草が余ってるんだ。冒険者ギルドからしても薬草が納品されたほうがいいだろうしな」


 サリアに軽くほほ笑んで返すと、陰湿メガネが不快そうに俺を睨んでくる。


 明らかに俺を邪魔者に思っているようだな。ネチネチと相手を言い負かすのが好きなのだろう。


「関係のない者が納品をするのはおかしいでしょう。横入りしないでください」

「はて。これはおかしなことを。プロは結果が全てなんでしょう? なら他の人に譲ってもらって納品するのも問題ないはずです」


 そもそも冒険者ギルドからすれば依頼物を納品されるのが重要で、依頼物を得る手段は合法的ならば問題ないはずだ。 


「……私が誰か知らないのですか? 逆らうと後悔しますよ」

「申し訳ないですがこの街に来て間もない者でしてね」

「…………そうですか。宣戦布告と受け取っておきますよ」


 陰湿メガネはそう言い残すと俺のカゴを回収し始めた。


 なんで正体を知らないだけで宣戦布告と受け取られるんだろうな。


 まあこんな奴と話す価値もないしさっさと撤収するか。なにせ……、


『魔王様、こいつ永久氷獄の刑でいいですよね?』

『丸のみしてゆっくりじわじわ溶かすー』


 フェニとメルが激怒していまにも襲い掛かりそうだからな。はやく逃げないと冒険者ギルドの建物ごと崩壊しかねない。

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