第5話 助けてくれたのは騎士ではなくて
私はサリア。スライムのラムを使役しているテイマーです。
今日は少し遠くの場所で薬草採取を行っていて、帰り道で盗賊に騙されて捕縛されてしまいました。
完全に気を抜いていた。まさか昼間の人通りが多い街道で盗賊が出ているなんて。
馬車の荷台に乗り込もうとした私は、アッと言う間もなくロープで縛られてしまいました。
そして男の人たちは私を不快な目で見てきます。
「ほう、上玉じゃねーか。売り飛ばす前に楽しめそうだな」
「ちょっと胸が小さいのが残念だがなー。まあ仕方ないか」
「あんまりやりすぎるなよ? 以前の女はヤリすぎて壊れて売値が下がったんだぞ」
「あれはあの女が弱すぎたんだよ! ちょっと三日三晩犯したくらいで壊れやがって! おかげで大損だ!」
背筋が凍った。このままだと私もその女の人と同じ目に合う……?
「ん~~~!」
必死にもがこうとするがロープで両手両足を縛られていて、さらに口も布でふさがれてるからなにもできない。
「ぷはははっ! 見ろよ怯えてやがるぜ! いいねぇ。こういう無様な抵抗を見るのマジでたまんねぇ! 無駄なのによお!」
「わかるぜ! 最高だよなあ!」
男たちは私を見下して嘲笑ってきました。
それが怖くてさらに身体を動かしますが、やはりどうにもなりません。
「お? また馬車が止まったぞ? 今日は獲物が二回も見つかったのか?」
「おいあの女も上玉だぞ。綺麗な水色の髪がたまんねえ」
男たちは荷台の壁の隙間から目を覗かせて、外にいる誰かを見ているようです。
おそらく私と同じように騙そうとしてる……っ! なんとか気づかせないと掴まっちゃう!
「んっー!!!」
「チッ、黙れよ。でないと殺すぞ?」
悲鳴をあげようとしたが口を布越しから抑えられて、さらにナイフを首筋に押し付けられてしまいました。
ふと頭によぎったのは昔読んだ本の話でした。騎士様が盗賊に攫われた令嬢を救い出して幸せになるお話。
私は令嬢ではないけれど、でもこんな時に騎士様が現れてくれたら……。
「チッ。おいお前ら! こいつらも攫うぞ!」
「ん? おいおいバレたのかよ。珍しいこともあるもんだな」
「まあいい。さっさと攫っちまうぞ。今日は女二人で乱交だ!」
すると外から叫び声が聞こえて、荷台にいた盗賊たちは外に出ていきました。
私は普通の人よりも耳がいいので、静かになったことで外の音が聞こえ始めます。
……たまに魔王という単語が出てきますがなんなのでしょう。まさかあの魔王がこんな街道にいるわけありませんし。
しばらくすると盗賊の悲鳴が聞こえてきて、声から察するに彼らは負けている気がします。助かりそうな予感に私の胸が高鳴ってきました。
もしかして本当に、騎士様が私を助けてくださっているのではないかと。
『魔王たまー。この荷台食べていい?』
え? いまのスライムの声? ……待って、荷台を飲み込もうとしてる!?
私は必死にもがいて音を鳴らしなんとか逃げようとしました。
するとまた大きな音が鳴った後に、馬車の荷台に誰かが入ってきました。先ほどの盗賊とは違って私と近い年齢の少年です。
この人が入ってきたということは、あの強そうな大勢の盗賊を全員倒したということでしょう。そんなのとても普通の人にはできません。
……もしかしてこの人は本当に騎士様なのでは?
「動かないでくれ。すぐ縄をといてやる」
騎士様は私を縛ったロープを解こうとして、でも時間がかかりそうだったのか無理やり引きちぎってしまいました。
す、すごい。ロープを素手で引きちぎるなんて普通の人では無理です。やっぱり騎士様なのでは……。
『わーい』
そんな騎士様が捨てたロープの切れ端を、スライムが食べているのが目に入りました。
かわい……違う。あれ、スライムじゃない。
普通のスライムに比べて身体の粘液の密度が違い過ぎる。
聞いたことがある。普通のスライムとほぼ見た目でありながら、その実は国すら平らげてしまうスライム種がいることを。
その名はメルトスライム。スライム種の中で最上位になる魔物で、一体で国を喰らうほどの怪物……。
でもメルトスライムはほぼ確認されていない。魔王国の中に生息していると噂されているだけで。
そういえば先ほど、魔王という単語が聞こえて来たような……。
……ま、まさかね? 魔王と言えばここから遠く離れた魔物国の王様だ。
そんな魔王がこんなところで街道を歩いているわけがない。いくらなんでも考えが飛躍しすぎですね。
盗賊に襲われた恐怖で少し妙な考えをしてしまいました。助けて頂いた人を魔王と疑うだなんて流石にひど過ぎます。
それにあのスライム? ちゃんはすごく伸び伸びしていて、従属の魔法を使わずにテイムしているのもわかります。
他にも盗賊に無理やりテイムされていたユニコーンも、殺さずに無力化しているのです。そんな魔物を愛するテイマーが悪い人なわけがありません。
……ところで焼き印を消したように見えたのですが気のせいですよね? あれは一度押したら二度と消せない印ですし。
「サリア。俺たちは馬車でリバスに向かうけど一緒に行くかい? と言ってもさっき騙されて捕まったのもあるし無理にとは言わないが」
「い、いえ。出来れば一緒に連れて行って欲しいです」
私はそんな彼の言葉に甘えて、街まで連れて行ってもらうことにしました。
本来なら助けて頂いた上に、さらにずうずうしいお願いでしょう。でもずっと縛られていた影響で足に違和感があり、街道を歩いて戻るのは難しそうです。
ですがユニコーンは他のテイマーに使役されているので使えませんし、どうするのかと思っていたら……なんと彼は契約を上書きしてしまいました。
テイマーの契約を上書きするなんて聞いたことありません。しかもその契約によってユニコーンはハイペガサスへと進化までしてしまいました。
優れたテイマーは魔物に力を分け与えるので、テイムされた魔物は少し強くなります。ですがテイムした瞬間に進化してしまうなんて……。
ハイペガサス。それはBランクの強力な魔物で、使役しているテイマーもほぼいない魔物です。遠い帝国では騎士団長が乗っていて、それだけで有名になるほどの魔物です。
ペガサスから進化すると言われていますが、実際に進化させた記録も片手で数えるほどしかないはずなのに……。
こ、この人は何者なんでしょうか? 有名なテイマーは何人か知っていますが、彼は誰の伝え聞く様相とも一致しません。でもハイペガサスをテイムするなんて、誰でも知ってるくらい凄腕の人しかあり得ません。
……そんな人たちを除いて他にハイペガサスを従える者がいるとすれば、そここそ魔物の王たる魔王くらいのものでしょう。
ですが魔王がこんなところにいるはずがない。となると考えられるのは有名なテイマーの方のお忍びか、あるいはずっと山奥などにいたせいで名が広まってない人でしょうか。
なんにしてもマノンさんはいったい何者なんでしょうか。
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状況証拠はわりと揃ってるけど、常識的に考えてあり得ないので納得しないやつ。
街道で魔王が歩いていて盗賊に襲われるわけがないので、それよりは未開の地にいた天才の方が納得できると。
続きが気になりましたら、フォローや★をいただけると幸いです。
執筆のモチベが上がります。
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