第4話 テイマーの少女と出会う


「動かないでくれ。すぐ縄をといてやる」


 俺は荷台で捕らえられた少女の縄をとこうとして……、


「ん? これどう結んでるんだ? もういいや」


 結び方がよくわからなくて面倒だったので、両手で縄を引きちぎって縄の切れ端はそこらに捨てる。


『わーい』


 すると落ちた切れ端をメルが回収して食べていく。相変わらずなんでも食べるなあ。


「大丈夫かい?」


 荷台の床に座り込んでいる少女に声をかける。年齢は十四歳くらいだろうか、年下だな。


「は、はい。なんとか」


 少女は震えながら返事をするが、俺ではなくて縄の切れ端をモグモグしてるメルの方を見ていた。


「うちのメルがどうかしたかい? 御覧の通り、ただのスライムだが」

「い、いえなんでもありません。助けて頂いてありがとうございます。私はサリアと言います」


 サリアは俺に頭を下げて来た。彼女は魔術師のローブを着ていて、荷台に転がっていた杖を拾った。


 おそらく魔法使いなのだろう。この世界には魔法が存在しているからな。


「俺はマノン。こっちの少女はフェニで、あっちのスライムはメルだ」

「よろしくね!」

『お腹空いたー。この女の子も美味しそー』


 フェニが笑顔を浮かべて手を振り、メルがプルプルと震えて食事を要求してくる。


 また物騒なことを言ってるが、メルの言葉は人には理解できないからいいか。


「ひっ!?」


 だがサリアはさっきの言葉が聞こえていたかのように、メルに怯えるように距離を取った。


『むー?』

「もしかしてメルの言葉がわかるのか?」

「は、はい。いちおう……」


 すごいな。スライムの言葉を聞き取れる人間がいるとは。


「もしかして君もテイマーなのか?」

「い、いちおうはそうです。私もスライムをテイムしてまして」


 サリアは視線を落としながら答えてくる。


 スライムをテイムしていると言っても、人間がスライムの声を聞くのは容易ではないはずだ。彼女はきっと優秀なテイマーなのだろう。


「テイマーなのか。ならちょっと聞きたいことがある。テイマーは魔物に焼き印を押して、従属の魔法をかけるのが一般的なのかな?」


 ユニコーンの首に押してあった焼き印には、魔物を従属させる効果が付与されていた。


 あんな盗賊がどうやってユニコーンを使役したのかと思っていたが、あの焼き印の力があれば可能だ。強制的に言うことを聞かせているので、見ていてあまり気分がいいものではないが。


 いや多少強制的な従属でも愛情を注いでいるならまだ許せはする。でもさっきのユニコーンみたいな道具扱いは絶対ダメだ。


「一般的にはそうですね。五年くらい前から流行り始めたそうです……私はあまり好きではないので、使わないようにしていますが」


 あの従属の焼き印は五年くらい前からか。


 けっこう最近だが魔物が連れ去られているのに関係ありそうだな。


「そういえば君はどんな魔物をテイムしてるんだ?」

「私もスライムです。ちょっと呼びますね。出てきて、ラムちゃん。召喚コール


 サリアが魔法を唱えるとスライムが召喚される。こいつはメルとは違っていたって普通のスライムだな。


『ご紹介に預かりましたラムです。どうぞよろしくお願いします』


 ラムはペコリとお辞儀するように身体の角度を落としてくる。


『よろしくねー』


 そんなサリアにメルが返事をする。


 ちなみにメルはサリアが十数段階進化した姿だが、喋り方だけ聞けばサリアのほうがよほど上位種に思えてしまう。


 ラムの身体をザッと見てみるが焼き印が押されてはなさそうだ。それに身体のつやもいいし大事に育てられているのがわかる。


「いいスライムだな。大切に育てられてるのがわかる」

「あ、ありがとうございます! 嬉しいです!」


 サリアはまるで自分が褒められたかのように喜んでいる。うんうん、この娘は悪い人間ではなさそうだ。


「ところでサリア、君はなんで盗賊に捕まってたんだ?」

「街道を歩いていたら声をかけられました。馬車で送ってくださると言うので荷台に乗ったら、男の人が待ち構えていて……」


 この娘は見事にさっきの賊に騙されてしまったようだ。


 あいつらわりと演技上手だったからなあ。十人以上騙して誘拐したのも嘘ではなかったのだろう。俺もユニコーンがいなければ騙されてたかもしれない。


 まあその場合も返り討ちにしていたが。あんな奴らに負けるほどヤワじゃないし。


「そりゃ災難だったな。俺たちはリバスに向かっているんだが、君は?」

「私もです」


 サリアは近くで草を食べてるユニコーンを見ながら告げてくる。


「そういえば盗賊もリバスに行くと言ってたな」

「マノン様。もしかしてさっきの盗賊がリバスに向かってると言ったのは、この辺で歩いている人はみんなそこに向かうからじゃないですか? それで偶然同じ目的地を装って誘拐すると」


 フェニは氷漬けの盗賊たちを指さす。


「なるほどなあ。偶然を装えば警戒心もほぐれるし、そこで荷台に乗り込ませて不意打ちすると。ムダに考えられてるやり方だな」


 あの盗賊たちも人を騙すことに頭を使ってたんだな。それをまっとうな仕事でやって欲しかったが。


「あ、あれってもしかして盗賊の人たちですか……? なんで氷漬けに……」


 そして盗賊の氷像を見たサリアは目を見開いて驚いている。うん、だからフェニにやらせたくなかったんだよなあ。


 しかし街道の側に氷像が立ってるのシュールだな。これがお地蔵様ならよかったのだが。


「ボクの魔法で凍らせたの。ほらボクは氷系の魔法使いだからね!」


 フェニは手のひらに小さな雪を作り出してほほ笑んだ。


 どうやら氷系の魔法使いの設定でいくらしい。本当は氷の不死鳥なんだけどな。


「あ、あの。盗賊の人、こっちを見てるような」

「氷漬けになってるけど死んでないし意識もあるからね!」  


 そう。あの盗賊たちは氷漬けにされているが、生きているし意識もある。彼女の不死の氷は凍らせたものを殺さずに生かし続ける。


 つまりあのまま放置してれば百年だろうが二百年だろうが、ずっと永遠に生き続けるのである。まあそのうち誰かが溶かしてくれるだろう。


「サリア。俺たちは馬車でリバスに向かうけど一緒に行くかい? と言ってもさっき騙されて捕まったのもあるし無理にとは言わないが」


 無論、馬車は盗賊から頂いたものである。


 ここで放置してたらゴミになるし、人数も増えたので使わせてもらおう。


「い、いえ。出来れば一緒に連れて行って欲しいです」


 サリアはメルを見ながら告げて来た。


 おそらくメルのつやとか懐き具合を見て、俺たちが悪人ではないと判断したのだろう。


「魔王様ー。ボクが馬車を引きましょうか?」

「人に馬車を引かせると外聞が悪いんだよ。それにお前にやらせるくらいなら俺がやるよ」


 考えてみて欲しい。美少女に馬車の荷台を引かせるのって、普通に拷問かなにかの性癖にしか見えないだろう。


 というか純粋に目立つからダメだ。


『じゃあメルが引くー?』

「スライムも目立つからダメだな。やはり馬車なんだから馬に引いてもらおう。ユニコーン、よかったら俺の眷属にならないか? その酷い従属契約も消してやるぞ」

「ひひん(なるっす!)」


 俺はユニコーンの首元に手をあててユニコーンを眷属化する。


 契約が上書きされたことで従属の焼き印が消滅して、さらにユニコーンが輝いてその姿を変えていく。


 身体は一回り大きくなった上に背中には天使のような翼が生えた。


 いやもうこいつはユニコーンではない。俺の眷属になったことで進化して、ハイペガサスになったのだ。


 ちなみに本来ならユニコーンが進化するとペガサスなのだが、ペガサスをすっ飛ばしてハイペガサスに進化した。


 俺は魔物の王たる魔王なので、魔物たちを眷属化して強化することができる。ちなみに人間のテイマーを何人か見たのだが、彼らは俺の力をかなり劣化させたような力を扱っていた。


「よしよし。じゃあハイペガサス。俺たちを近くの街まで運んでほしい」

「ひひん!(お任せください!)」

 

 ということで俺たちは馬車を使ってリバスに帰ることにした。



-----------------------------

続きが気になりましたら、フォローや★をいただけると幸いです。

執筆のモチベが上がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る