第26話 転生したら、言いたいやつ

 グレイブヤード。

 芝生の上に、ひび割れた石碑が無造作に建てられている。

 霊魂のような青白い炎が宙を漂って、薄暗い墓所を照らし出した。


「ゾンビやレイスがうようよしています。ここはプリーストたるわたしが対処しましょう。ふふ、毒が効かないのは残念でなりませんが、浄化も得意なんですよ?」


 ニニカの神聖魔法がぶっ刺さる場面である。

 リーダーがナギサならば、仲間の活躍に水を差さないだろう。

 しかし、此度の指揮はカフク。パーティーの士気など高められない。


 俺はバッグに手を突っ込んで、念仏ホンのスイッチを押した。

 信仰心の欠片もない言葉がお経へ変換されていく。


「観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄――」


 地中から這い出たゾンビ、甲高い奇声を発した悪霊たちをまとめて浄化させていった。

 念仏ホンは、アンデッド系に特攻効果があるアイテムなり。

 モンスターが全滅したらしい。瘴気が晴れていく。

 グレイブヤードは無縁塚の様相から、綺麗なガーデニング墓地へお手入れされた。


「成仏してクレメンス。ニニカ、先に進もう」

「……」


 ちょっぴり寂しそうなニニカ、口を閉ざして先行した。

 はい、次!


 鉱山フロア。

 岩盤を掘り進めたトンネルの光景。ご丁寧にトロッコの線路まで敷かれている。

 全員、ヘルメット着用。足元が悪いので安全靴に履き替えた。


「ふん、ゴーレムの分際で門番のつもりかしら?」


 行く手を阻んだのは、岩石巨人の群れ。

 出口の前で粘土を貪っていた、彼ら。食事を邪魔されると思ったのか、腕を振り上げて臨戦態勢の構え。


「威嚇のつもり? あたしがそれで怯むとでも? 上等っ、土くれに戻してあげるわ」


 ハレルヤが狂犬よろしく息巻いた。

 俺はウィザードが挑発する間に、こちらの準備を完了させていた。

 指の間に挟むは、チクタクバクチク。

 鉱石系モンスターに特攻な、防御力無視ダメージを与えるアイテム。


 チクタク、チクタク、チクタクと。次第にリズムを刻むペースが速くなって、俺はバクチクをゴーレムへ放り投げた。手が空けば補充、さらに放る。追加で投げる。

 bombっ! 頑強な体が弾け、爆ぜる音。

 きみが木っ端微塵になるまで! 俺は! バクチクを! 止めないっ!

 誘爆で落石の被害が生じたものの、ヘルメットで頭を守る。安全管理ヨシ。


「先へ行くぞ、ハレルヤ。まだ試練の間まで長いな」

「……」


 ハレルヤは押し黙って、なぜか大股でズカズカと闊歩――

 否、ロリっ子が静かに探索なんてできるはずもなく。


「おじさん! 今の何よ!」

「何って? 露払いを請け負っただが?」

「いつもと違うじゃない。アンタが戦うなんて調子が狂うでしょ」

「それって、お前らに比べて要領が悪すぎるって意味だよな?」


 突如詰め寄られ、俺は困惑してしまう。反抗期は後にしてくれ。


「はい、はぁ~い! ボクもおかしいと思ったかな? カフクくん、さっきからワンキルじゃん。一体、どうしたのさ? 別人? そっくりさん?」


 ミューが俺の全身をペタペタ触り始めた。セクハラですぞ。


「カフクさん、今日はやけに攻撃参加に積極的ですね。普段と立ち回りが違いますが、言語化してもらえませんか?」


 ニニカが三者の意見をまとめた。つまり、説明はよ。

 俺は、考える人ばりに顎に手を当てた。


「……冒険や探索しに来たわけじゃない。絶対目的はナギサのお迎え一点のみ。じゃあ、アイテムを惜しむ必要はない。俺は今、3バトルに6万ゴールドのコストを消費した。こんなん、職業・冒険者として大赤字。無傷の出血大サービスや」


 一度の冒険に消耗品全ブッパ、一度のダンジョン潜りにレアアイテムを使い切っていたら、とてもじゃないが事業継続がままならない。普段の活動において、カフクは経費削減に努めている。利益を生んでこそ、勇者パはホワイトパーティーだ。


「あいつなら、今の戦局をエリクサー1個で事足りた。ほんと、勇者もコスパの時代だよ」


 バックパッカー渾身のパワープレーを、ヒーローはスキル3回分。

 無能と万能のアビリティの差ェ……


「さりとて、此度はアイテムをケチらず全投入できるぜ。なんせ、俺は元勇者パのカフク! バックにはミスリル商会が付いてるぞっ」


 高級品を買い占めた費用は全て、レイチェルさん宛の小切手を送り付けた。

 これで割に合わねぇとスポンサーを降りてくれれば、一石二鳥。ウィンウィンだね。


「金に糸目を付けぬアイテム係、いざ大手を振ってまかり通る!」


 悲報、冒険者のカフクさん。荷物持ちのくせに、全力で冒険を否定してしまう。

 ――つまんねー男ですわ!

 流石のレイチェルさんも、失望するしかあるまいて。だよな……な!


「ボクとの入れ替え戦、それで挑んだら接戦したじゃん」


 ミューが真顔で返した。

 ぎ、ぎくっ。


「そ、そそそそんなことねーってばよっ。いや、ほら! あの時、俺がパーティーの財産に手を付けたら不正利用じゃん! カフク、正々堂々戦うのがウリだから」

「えぇ~、ほんとかにゃ~?」

「所有品の管理をカフクさんに任せると、ナギサ様は了承していましたよ」

「リーダーが甘やかすから、おじさんがワガママ言い出すのよ。少しは礼節を学びなさい」


 ひどい言い草である。

 好き勝手言われるのは、散々足を引っ張った信頼の欠如に違いない。

 責任を取り、チームを辞退させていただくで候。あ、もう抜けてましたわ。


「贅沢無駄遣いの極みを以って、本事案を解決へ導く。たった一つの冴えないやり方だ、勇者パの良い子たちは真似するなよ」


 ナギサを支える真の仲間たち、憧れの存在であれ。尊敬される冒険者たれ。

 無能が羨望せし才能、輝かせたまえ。


「アンタが一番覚悟決まってるじゃない。いつもふざけてるくせに、ナギが特別扱いするわけだわ」


 仏頂面で俺の膝を蹴った、ハレルヤ。

 カフク、理不尽暴力に反撃するタイプじゃ。滅せよ、パワハラ。


「わたしたちが未だ超えられない壁。見上げるほどに高くなりますね」


 しみじみと物思いに耽った、ニニカ。

 とりあえず、寝込みを襲ってみれば? 抱けぇーっ!


「君の機嫌を取れば、勇者を上手く転がせるじゃん。カフクくん、実は結構いろいろ素敵じゃないかな?」


 ニコニコ笑顔な、ミュー。

 褒めるとかないなら、おべっかやめろ。知り合いのお巡りさんに、紹介しちゃる。


「ボス相手じゃ通用しないムーブだ。俺の役目は、メイン戦力を温存させること。結局、ハレルヤ、ニニカ、ミューにかかってるぞ。頑張れ、囚われの勇者を救い出してくれ」

「あはは、フツー立場が逆だよん。まあ、ナギサくんってかなりヒロイン顔かな?」


 ミューが呆れがちに肩をすくめるばかり。

 雑談を切り上げるや、ダンジョンのトラップを全部解除しながら進行する。

 最奥へ続く道中に限って、カフクのアイテム無双で切り抜けていくのであった。


 ……俺、また何かやっちゃいました?

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