第25話 隠しエリア

 バラエティ遺跡の新エリア。

 奇しくも、俺が危機感の欠如アピールで掘り出してしまった場所。

 宝箱の下が地下通路の入口で、奥の転送陣をうっかり起動しちゃう。

 一体、アーティファクトの新発見など誰が予想できようか?


 想定外の連続に全く対処できないカフク。逆説的に無能を証明したね。

 転送先は新天地――ではなくて、あいかわらず同じような光景広がるラビリンス。

 バラエティ遺跡の構造が踏襲されている。隠しマップと言え、使い回しかな?


 万能コンパス、スティックノート、隠密シューズ、暗視ゴーグル、アラームバード、インスタントグリモワール。

 俺は、普段他人の前で控えたおひとり様冒険セットを使い倒していく。

 マッピング、危機回避、危険察知、敵感知、補助魔法の自動化。

 手間を軽減。面倒をカット。できるだけ省エネで行こう。


「おじさん、そんなに小賢しくアイテムを多用してたかしら?」

「手の内を全部晒すほど間抜けじゃ……いや、勇者パのメンバーが優秀で、活躍の機会に恵まれなかったんだなあこれが。ナギサ不在で、俺が仕事できるなんて参っちまうぜっ」

「ふーん、いつもサボってたわけね。だからアンタはダメなのよっ」


 ハレルヤ、ギャーギャーガミガミお説教。

 頭ごなしに全否定? これ知ってる! 社畜時代に体験したことあるやつだ。

 労働環境はブラックだけど、上司は全員小五ロリ!?

 まんがでタイムなきらら時空であれば、立派な企業戦士になれたのに。

 ハ、幼女趣味ちゃう。ルイスキャロルに誓って、ロリコンじゃねーしっ。


「ニニカくん、実際彼の評価はどんな感じかにゃ?」

「ミューちゃん、難しい質問ですね。カフクさんは、活躍する時とそうでない時の落差が酷くて判断し辛いです」

「いつもはダメダメだけど、たまにキレッキレってことかな?」

「ナギサ様の功績の陰に隠れていますが、逆に言えばカフクさんある所に陽が昇ります。勇者が、替えが利かないと全幅の信頼を置く関係……妬けちゃいますよ」


「ボクは色恋沙汰苦手だし、遠巻きに応援するじゃん。がんばれー」

「ふふ、ミューちゃん。何を言っているのですか? コイバナに花を咲かせるのは乙女の嗜みじゃないですか。さあ、ナギサ様を救出した暁にはぜひ、夜通し語らいましょう!」

「ひえ!? 助けて、カフクく~んっ」


 前衛の二人、騒がしいな。もっと緊張感を持ちたまえ。これ、遊びじゃないから。

 トラップ確認ヨシ。

 偉大なる怪盗も警戒しているが、バックアップは俺メイン。それしかできないし。


 地図を開いて、進行ルートを予想する。

 長年ダンジョンマップと睨めっこした勘が、バトルシーンを予期させる。

 はたして、通路を抜ければ開けた広場。


 草木が生い茂り、小川のせせらぎと視界を埋め尽くした植物が織りなす自然フィールド。どこから、木漏れ日が差し込んでいるのか? 不思議なダンジョンはとっても不思議だよ。


「金喰い虫がいるな」


 コインや金塊、宝箱などに擬態して、油断した冒険者の金品を逆に食い散らかす昆虫モンスター。そんな奴らが、倒木の根元や池の底、天井の蔦に隠れている。


「ボクの前で財宝気取りとはいい度胸じゃん。否、所詮贋作! ファントムの審美眼は欺けないッ」


 期待の新人が目の辺りでポーズを取るや、バサッとマントを翻した。


「ここはボクに任せて! せめて、お腹で精製した宝石を頂こう!」


 やる気に満ちた、ミュー。怪盗のギフテッドが疼きやがるってコト?

 見せてもらおうか、天の祝福を受けた才能とやらを。

 ……なんて、言ってる場合じゃない。悪いが今回はその活躍を頂戴する。


「全員、後退しろ。バグサンを使う」


 俺はリュックから金属缶を取り出して、床に設置する。


「カフクくん? 金喰い虫は大きい個体もいる。君が戦うの危険じゃないかな?」


 ミューの真っ当な忠告を無視して、俺はバグサンを使った。

 フタを開けた途端、殺虫成分が強いお香が焚かれていく。バグサンは昆虫系統に特攻効果があるアイテムなり。


「フローラルな香りが空間を包みます。人体に悪影響ありません」


 商品紹介のような説明口調が終わるや、黄色の燻蒸が周囲を漂っていた。


「ハレルヤ、風魔法でミスト散布頼む」

「おじさんのくせに、天才魔法使いに命令するとか100年早いのよ!」


 そう言いながら、杖を正面に構えた魔女っ子。

 自然フィールド全体へ黄色い風が駆け抜けていく。

 バグサンは即効性がウリなので、虫けらがきゅうきゅうと地べたへ落ちていった。

 念のため、囮用アイテム・スケアクロウを進行ルート外に設置。音が出て、光るよ。


「次に行こう。ミュー、いつまでも一番後ろで突っ立ってないで先陣を切りたまえ」

「手間が省けたけどさ、何か納得いかないよん。ボクのやる気、宙ぶらりん……」


 ミューは渋面を作り、とぼとぼと前衛へ戻っていく。

 そこに華麗なる大泥棒の意気やなし。

 万引きGメンに捕まったコソ泥よろしく哀愁に満ちていた。

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