第20話 描写の価値すら無く
ギルドの酒場。
勇者パの定位置と化したテーブルにて。
「アンタ今、自分が言ってることほんとに分かってんの!?」
ハレルヤが眉根を寄せて、俺をねめつけた。
「カモがネギしょって来ちゃったんだから、しょうがないでしょ。勇者パの募集要項満たせる奴、貴重だし」
「ネギでもショウガでも薬味なんてどうでもいいわよ!」
「え、ボクってば美味しく料理されちゃうじゃん」
論点が明後日の方向へさよならバイバイ。
「カフクさん、加入希望者の件承知しました。ナギサ様の留守を預かる責任者はあなたである以上、入れ替え戦を見届けましょう」
優しい笑みを携えていた、ニニカ。
「ちょっと、ニニ姉っ。バカなことするなって止めてよね! 新メンバーを勝手に加入させるなんて、ナギが許すわけないでしょ」
「ハレルヤちゃんは戦う前から、結果をすでに見越していますね」
「……っ、ふん。まともな勝負で、おじさんがギフテッド持ちに勝てるわけないもの」
「もう少し仲間を信じてみませんか? カフクさんは賢い人です。何の勝算もなく、無謀な賭けはしないと思います」
「するじゃない、この廃課金は! アドバンス一のガチャ狂いよ? おじさんの計画とか、いつも穴だらけだわ」
楽観的なニニカと客観的なハレルヤでは、俺に対する解像度が違った。
優しくて甘いと、冷たくて厳しい。残念ながら、後者がカフクを存じ上げている。
「あのぉ~、結局ボクはどうすればいいのかな?」
「ちょっと黙ってなさい! 話付けてあげるからっ」
「は、はいっ」
ドンっとテーブルを叩かれ、ビクッとしちゃうミュー。
あんまり新人を怖がらせるな、幼女。これから、お前の真の仲間になるのだから。
勇者パはホワイトパーティーである。パワハラなんて存在しません。
「ココアでも飲んでまったりしといて」
「ボク、猫舌……」
「アイスココア、プリーズ! 氷どばどばで!」
期待の新人に冷たいドリンクを差し入れしつつ。
「落ち着け、ロリっ子。俺を心配してくれたみたいだけど、入れ替え戦は双方納得した上で行うんだ。どんな結果になろうとも、後でごねたりせんぞ」
「あたしがアンタの心配なんてするわけないじゃない! 一応……おじさんも身内なのよ。勝手に無様な姿を晒そうとすれば、怒りたくもなるでしょうが!」
俺の敗北を半ば確信した瞳。荒ぶろうと、極めて冷静な判断だ。
「事後承諾にならないよう、筋を通してるわけじゃない」
「だから、それが気に食わないっての! なによ、そのふざけ顔! 自分の立場が脅かされたのに、全く熱を感じないわ。もっと必死に、無様に足掻きなさいよっ」
「俺がやる気ないの、いつも通りだろ。平常心さ」
年下の女子にキッと睨まれ、どこ吹く風な俺。
「ハレルヤ。ナギサにはちゃんと報告する。でも、今は俺がリーダーだ。ムカつくんなら、荷物持ちを過信したあいつに文句言え」
「……あっそ。好きにすれば。せっかく温情かけてあげたのに、もう知らないもん」
ハレルヤが頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いてしまう。
珍しいデレをふいにして、嫌われたようだ。
案ずることなかれ、顔も見たくない足手まといはもうすぐ消えるぞ。
「カフクさん、ナギサ様はきっと怒りますよ?」
「ぜひ、その怒りを世界平和に役立ててほしいものだ。ナギサは怒りを人にぶつけないし、嫌な奴悪人に対しての練習にしよう」
「それ――本気で言ってます?」
ニニカが放った鋭い視線を、真正面から受け止める。
「勇者パに必要だから俺は動いている。意味が、ある。いざとなった時、最優先すべきは何か。その心構えはお前らと一緒のつもりだよ」
「……分かりました。あなたの選択に幸あれと祈りましょう」
ニニカの不満げな溜息を、俺は聞き逃した。察しが悪くて悪い。
仲間があまり納得していないものの、渋々だろうが了承させた。
「待たせたな。お前の挑戦、受けて立つぜ」
氷をガリガリかみ砕くミューが目を丸くした。
「カフクくん、ほんとにいいの? ボクが原因だけど、仲間内で揉めちゃったじゃん」
「普段はいい奴らだから、今のうちに慣れてくれ」
「ボク、勝っちゃうよ? 君と築いた妙な距離感、嫌いじゃないけどな」
さも当然のような口ぶりに、俺は苦笑する。
当たり前だ。補欠に圧勝できないようなギフテッド、お呼びじゃねえっての。
「入れ替え戦、洞穴の修練場レベル10の探索。どちらが後方支援に長けていたか、ハレルヤとニニカに公平な審査を頼もう。俺の唯一の得意分野だ、負けねーぜッ」
「分かった。本気でやったるじゃん!」
ミューがやる気満々で頷いた。
俺は意気揚々なていで頷いた。
これからは、ミューが類稀なる才能で勇者パをバックアップしてくれ。
ようやく、俺が最も憧れるヒーローに貢献できた。負け戦に誉れあり。
――入れ替え戦は俺に特筆すべき点なく、ファントムが華麗なる技を披露した。
カフクに身内びいきせず、公平な判断を下した仲間たちに感謝の念を抱くのみ。
勇者パーティー四人目の座をミューが手に入れ、俺はあっさり戦力外。
純然たる実力で敗れたゆえ、清々しい気分が芽生えたのは杞憂じゃないよ。
「ようやく、肩の重荷が下りた。これで致命的なやらかしを起こさずに済む。禍野福也は失敗と過失ばかりの人生だった。しかし、カフクは同じ道を歩まない」
俺は苦笑しながら、彼らの新たな門出を祝い、勇者パから脱退するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます