第5話 追放系じゃないみたい

 ノース丘陵の帰り道。

 空が茜色に染まる夕暮れ時。

 平原を穏やかな風が駆け抜けていく。

 緩やかに進む馬車に身を揺らされながら、俺たちは仮眠を取っていた。


「カフク、ちゃんと休めたかい?」


 目が覚めると、ナギサは天幕に寄りかかっていた。

 中性的なイケメンが金髪をなびかせ、仲間たちを見守っている。

 ハレルヤとニニカはお気に入りの抱き枕で休息中。


「ナギサ。見張りなら、俺がやるっていつも言ってるだろ」

「僕はあまり疲れてないんだ、構わないさ。今日はキミの方が大変だったしね」

「面倒かけて、すまん」

「今回は危険度の低いクエストで油断してしまった。後方支援のナギサが狙われるなんて、前衛の判断ミスが招いた結果だ。悪いのはこっちだよ」


 申し訳なそうに肩をすくめた、勇者。

 いや、後方待機を守らなかった俺の責任だぞ。


「リーダーなのに、気配りが足りなかった。戦況をもっと俯瞰しないと」

「俺にとどめを刺したのは、ソーラーロックじゃなくて爆発ロリータじゃん」

「かもね。敵はどこに潜んでいるか、見極めよう」


 ナギサが面白いと頷いた。

 彼は普段、皆の前では勇者然とした振る舞いを見せる。望まれたものを演じるのが得意と本人談。本当は何がしたいのか、はっきり主張すればいいのに。

 仕方がない、手本を見せよう。はっきり主張してみせようか。


「なあ、ナギサ。大事な話がある」

「ん?」

「今回、俺は役に立たなかったな。足を引っ張ったな。いい加減、勇者に甘えるのはだめだと痛感した」

「そうだね、クエストの手配ありがとう。事前情報のおかげで、かなり効率良くクリアできた。いい加減、カフクに任せきりを反省するよ」


 ……おや?


「勇者パーティーは実力主義。そろそろ、真の仲間が必要かもしれない。末席を汚す四番手に、ご退場願う他ないだろ」

「仲間の真の力を引き出せなくて、勇者を名乗るとは役者不足かもしれない。なぜ僕がヒーローのギフテッドを与えられたのか、未だに理解できない」

 ……おやおや?

「俺、パーティーの足引っ張ってるよな!? 正直っ、ぶっちゃけ! 邪魔だよな!?」

「巷では、勇者パは選ばれしエリート集団らしい。僕はその評判が気に食わない。実際カフクが皆を繋いだ屋台骨なのに。必ず――分からせてやる」


 ……おやおやおや?

 もしかして、お話がかみ合ってないかしら?


「カフク!」

「はい、カフクです」

「キミの視点はいつも参考になる。これからも僕を指導してくれ」

「お、おう……」


 爽やかスマイルを携えて肩を叩かれた、俺。

 ブラック企業なら、今日も残業よろしくの合図。条件反射でビクンしちゃうね。

 ちょ待てよっ。カフクは無能である。そんな話題を提供したいのだが?

 お前は足手まといなんだよ! 俺様のパーティーに使えねえ奴はいちゃいけねぇんだ。はい追放、やろ?


 人当たりの良い勇者様は裏じゃ性格が悪い、はず。追放系の基本じゃん。

 もしかして、ナギサは追放モノ読んだことありません? ないだろうなー。

 そもそも、彼が善人でいい奴だからこそ俺は自ずと身を引くわけで。過去の過ちを繰り返すな。前世で学んだはずだろ、理不尽な世界においていい奴こそ損な役回り。


 かつて世話を焼いてくれた先輩とナギサの姿がダブる。勇者のメンツを潰さず、パーティーに負担と迷惑をかけないたった一つの冴えないやり方とはいかに。

 仲間たちの総意が足手まといへ戦力外通告を下せばいい。不当解雇、人員整理につき一方的なリストラまかり通ります。労働基準法は日本に置いてきた!


 名付けて、そうだ追放されよう大作戦。

 リストラ対象に、俺はなるッ!


「フッ、待ってな。お前を縛る鎖を解き放とう。自由へ羽ばたく翼、今授けん……」

「新しい企てかい? カフクが元気そうで何よりさ」


 ナギサ、その余裕な態度いつまで保てるかな?

 くっくっく、そのハンサムを冗談が通じないシリアスフェイスへ歪めてやるぜ。

 手始めに、無能ムーブをすでに閃いた!

 あぁ、街に帰るのが恋しいなあ。仲間たちと離別は悲しいものの、禍野福也が果たせなかった良心を信じる行為。こんなに嬉しいことはない。


 俺は今日、一身上の理由により勇者パーティーを脱退する。

 許せ、幼馴染。迷惑をかけるのはこれで最後なのだから。

 勇者がいい奴すぎて辞めづらいけれど、俺の無能ぶりに刮目せよ。

 ……あっ、そうだ規定。ギルドの受付に脱退届出さないと。


 緊急の件につき、脱退願はしたためません! 失礼をば!

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