第2話 うちの勇者がいい奴で困る
《一章》
「悪い、正直もう限界なんだ。この際、はっきり言うよ……カフクにこれ以上負担を押し付けるのは申し訳ない」
開口一番、パーティーリーダーの勇者ナギサは神妙な面持ちだった。
本日の冒険が一段落つき、ギルドへクエスト完了を知らせた直後である。宿屋の一室に戻るや、なぜかナギサに出迎えられてしまう。
「お前の部屋、隣だけど?」
「確かに、事務手続きを全てこなしてくれるのは助かるさ。けれど、僕たちはカフクに面倒事を押し付けていたかもしれない」
「お前の部屋、隣」
「パーティーメンバーは対等であるべきだ。ポジション関係なく。だから、ごめん」
ナギサは俺の肩を軽く叩き、ペコリと頭を下げた。
「話を聞け。別に後処理なんて気付いた奴がやればいいだろ」
「いつも気づいた時、カフクが済ませているんだ。ひょっとして、未だに例の件を引きずっているのか?」
「そんなんじゃねーよ」
「陰口なら、僕が対応しよう。カフクは堂々と、勇者パーティーを名乗ってくれ」
勇者の才能――ギフテッドを与えられたナギサがほほ笑んだ。
俺は、金髪碧眼の中性的なイケメンに熱心な視線を注がれてしまう。乙女心がトゥクンしちゃうね。その証拠に鳥肌が逆立ってるぞ。
俺たち、否、ナギサたち一行は冒険者である。
人間の住処を脅かす魔王軍と戦ったり、人類未踏のダンジョンを攻略したり、依頼者の困りごとを解決するギルド登録した何でも屋だ。
ここは、石畳の街並みに田園風景広がり、エルフやドワーフなど他種族が暮らすRPG風異世界・通称ナーロッパ。
そんな表現をする時点でお気づきだろうが、一応表明しよう。
カフクと呼ばれた俺は、つまるところ転生者だ。うっかり電車にはねられ、謎空間へ転送。女神と面接がてら、何やかんやで異世界転生。まさか本当に体験するとは驚いたね。
記憶の持ち越しに不具合が発生したのか、はたまた仕様か、後になって自分が転生者だったと思い出す。つい先日のこと。そのきっかけは後で語るが、とにかくこの世界では社畜サラリーマンではなく冒険者家業に勤しむフリーランスッ! チートもないし、現代知識で無双できるほど甘くないけど、早朝の通勤ラッシュがないって最高ぅ!
まあ、良くも悪くも転生を自覚したことで懸案事項を抱えているのだが。
閑話休題。
「カフク? 急に黙って具合でも悪いのかい? 今日は早めに休んでいいけど」
ナギサがヒールの回復魔法を唱えた。しかし、体力は満タンだった!
「この勇者、人格者……っ!」
リーダーの奴、仲間想いなのだが?
勇者って、裏では性格悪いんじゃないの? 俺が読んだ追放系では、役立たずに冷たい仕打ちの役割だったぞ。ざまあする気はないものの、いろいろと困るのだ。
記憶を取り戻す前から、ナギサはすこぶるいい奴だった。ゆえに、俺は……
「いや、何でもない。超元気! 風呂入って、着替えたら食堂に集合、だろ?」
「うん。ハレルヤとニニカは買い物があって遅れるってさ」
「りょーかい、りょーかい。ナギサこそゆっくり休め。モンスターと戦って一番消費したのはお前なんだから」
「僕はアタッカーに専念するだけで、あまり気苦労を感じないよ。後方支援がちゃんとしてるからさ」
後で合流しようと言い残すや、勇者は隣の部屋へ引っ込むのであった。
「身に余る光栄。フ、過大評価だな」
やれやれと肩をすくめた、俺。
あまり期待しないでくれ。残念ながら、結果で応えられるような奴じゃないんだ。
個室に備え付けの簡素なベッドで寝そべって、俺は小休止に入った。
瞼を閉じて、ゆっくり深呼吸。何も考えまいとするほど、思考が巡っていく。
真っ先に飛び込んできたシーンはやはり、カフクの中の人が日本人という事実なり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます